! キンセンカの涙 -if- wcでキセキ再会、夢主遭遇
「おーい、紫原敦ー!」
やっと目的の人物が目に入った。背が高い集団なので分かりやすい。
彼は私の存在に気付くと、深く眉を顰めた。予想通りの反応でなんとなく笑える。
「…なんで、ここにいるの」
「なんでって、応援だよ。秋田からはるばるやって来たんだから」
ばっちりと、防寒服で包まれた制服を見せる。奴は溜め息を吐いた。
笑顔を崩さないまま、奴の周りをちらりと見れば、見知った顔が数人。
「やあ、なまえちゃん。応援にきてくれたかい?来てくれて嬉しいよ」
「こんにちは氷室さん。宿はばっちり取ってるんで、決勝戦まで応援できますよ!」
それは頼もしい、と紫原敦よりは幾分低く、それでも十分に身長の高い彼は私に笑いかけた。
私達の和やかな様子を見てか、紫原敦は更に顔を顰める。楽しい。
「なまえちゃんは、いつもバスケ部に顔を出してくれるのに。やっぱりマネージャーにはならないのかい?」
「なりたいんですけどねー。紫原敦がどうしても駄目って言いますから」
苦笑しながら奴を見れば、どこから取り出したのか、まいう棒を口に頬張って携帯を弄っていた。
陽泉高校に進学した私は、どこかの部活に入る事なく一応帰宅部となっている。
しかし、入部してはいないものの男子バスケ部のマネージャ業は毎日お手伝いをしていた。元帝光中だと色々と期待されているみたいで。だからと言って普通の仕事しかこなせないのだけれど。
では何故、正式に入部しないのかというと…先程言った通り、紫原敦に断固として反対されているためだ。
理由は何となく分かる。そんな事まで可愛いと思ってしまう私は末期だ。
インターハイでは応援に行く事は出来なかったが、今日のウインターカップはお金を貯めてやっと首都圏まで赴く事が出来た。
もう少し、喜んでくれたって良いのに…なんて、紫原敦を見ていると、何故か奴の携帯を弄る手が止まった。
そして、ぽろりと口からまいう棒を出す。汚い。
溜め息を吐きながらそれを拾うと、何故か奴は私の肩をガシリと掴んできた。手が必要以上にでかいので恐ろしい。
「な、何?」
「今からちょっと他所に行ってくるけど、絶対に着いてこないでよ」
「…はあ?」
奴に似合わない、はきはきとした発言に思わず疑問の言葉が出てくる。
氷室さんも、さすがに紫原敦の言っている事が理解出来ないみたいで、お互いに顔を見合わせた。
「とにかく、絶対に、着いてこないでよ」
「わ、分かったから…」
徐々に強くなる肩を握る力に怯え、必死で頷いた。
奴はまだ怪しむ様な顔で私を見ていたが、今度は氷室さんの方へ視線を向ける。
「室ちんー。ちょっと外すから雅子ちんに言っといて」
「どこに行くんだ?」
「うん、ちょっとー」
会話が聞こえてないのか、意味不明な返答をした後に奴は早足で去っていった。早足って。貴重すぎる。
再び氷室さんと顔を見合わせる。
「…ちょっと、着いていってみます」
「うん、行ってきなよ」
私の返答を予想出来ていたのだろう、彼は笑顔で私を見送ろうとした。
食えない人だなぁと思いながら、こちらも笑顔で返して奴の後を追う。残念ながら見失ってしまったようだ。
数分程、広い会場を歩き回る。どうも見当たらない。目立つと思うのに。
特に行く当てもなく、適当に外に出て辺りに目を配ると、なんだか嫌にカラフルな頭が数人見える。
その中の、1人。あれは、もしかして…
「黒子!?」
思わず声を上げれば、その場に居た数人の男がこちらを見る。
「え…」
「な…、マジかよ」
「…みょうじさん」
「わー。皆、久しぶりだねー。元気だった?」
その場に居たのは黒子だけではなかった。
それぞれ違うジャージを着た青峰、黄瀬君、緑間真太郎、そして何故かハサミを持った赤司君。もちろん紫原敦もいた。が、何故か頭を抱えている。
あと2人、黒子と同じジャージを着ている男の子がいたけれど、もしかしてその一方は火の人だろうか。名前は思い出せないが。
笑って手を振りながら近づけば、何故か皆は固まってこちらをじっと見ていた。何か私の顔についているのだろうか。
すると頭を抱えていた紫原敦は、誰よりも早くこちらへと向かって再び肩を掴んだ。
「ついてくるなって言ったじゃん!」
「そう言われちゃうと、逆についていきたくなっちゃうよ。私の性格分かってるでしょ」
にやりと笑えば、むむむと表情を更に歪ませる。
「…何の為にインターハイ来させなかったと思ってんの」
まるで小学生の様に、頬を膨らませる。
奴の行動にハッとした様子を見せながら、青峰が私に近寄り話しかけてきた。
「ていうか、お前!なんで今まで連絡つかなかったんだよ!」
「ああ、なんか携帯が壊れちゃってねー。みんなの連絡先分かんなくなっちゃって。紫原敦に聞いても教えてくれないし」
紫原敦は我関せずと、視線を他所に向けたままだ。
今度は黄瀬君が私に話しかけてくる。
「な、なんでそこで紫原っちが出てくるのか分かんないスけど、今何処の高校通ってるんスか?その制服って…」
「あ、黄瀬君も久しぶりー。この制服は陽泉だよ」
「「「!!!?」」」
打って変わって、今度は緑間真太郎が口を開く。
「お、お前は陽泉に進学したのか…!?」
「うん」
青峰が顔を般若のように変化させ、紫原敦の方を見る。
「おい紫原!お前なんで一言も言わなかったんだ!」
「別にー聞かれてないしー」
「そ、そりゃあないっスよ!」
皆が…主に青峰と黄瀬君がああだこうだと騒ぎだす。結構心配を掛けてしまったのかと思うと申し訳なかった。
黒子は苦笑しながら、こちらの方を見ている。
「…こうやって顔を合わせるの、本当に久しぶりだね」
「はい。元気…でしたか?」
「うん、毎日楽しいよ」
そうですか、と何故か寂しそうに彼は笑った。その表情の理由はあえて考えない事にする。
私達の会話を聞いてか、黄瀬君がハッとしたように黒子に話しかけた。
「ていうか!なんで黒子っちそんな冷静なんスか!2人が一番仲良かったでしょ!」
「いえ、僕はみょうじさんが陽泉に進学したのは知っていましたので…」
「「「「!!!!!?」」」」
今度は紫原敦までもが目を丸くさせた。
「…どう言う事ー?」
「黒子の連絡先だけは知ってたからね」
「アドレスをメモ帳に書いて渡しておきました」
ねー、とお互いに顔を見合わせながら紫原敦の問いに答える。
奴は今日一番の不機嫌な表情を浮かべさせた。
「…聞いてないんだけどー」
「聞かれてないしー」
紫原敦のマネをして答える。笑って答えれば大体奴は許してくれるが、どうやら今日はそうもいかないらしい。
「…なんでそういう重要な事黙ってるわけー?」
「私のアドレス事情くらい別にいいじゃん」
「よくないし。只でさえ男のアドレス携帯に入ってるの腹立つのに、なんでよりによって黒ちんなの?」
「せめて黒子くらい許してよ。ちょっと束縛強すぎるんじゃない?」
「…無関心よりマシでしょー」
いつもの様な口論を繰り広げていると、何故か黄瀬君がおずおずと私達に問いかけた。
「あ、あの…もしかしなくても2人って…」
その先を言おうとせず。いや、言いたい事は分かるけれど。
私が答えようとすると、何故か紫原敦がそれを遮って口を開いた。
「付き合ってるけどー?」
ぴしりと、空気が固くなった。
青峰、黄瀬君、緑間真太郎はロボットの様に口をぽかんと開けたままだった。黒子には伝えていたので、あまり驚いた様子は無い。
少しの沈黙の間、シャキン、と。ハサミを扱う独特の音。
「…敦、みょうじ」
ずっと後ろの方で、黙ってこちらを見ていた彼が口を開いた。
そして、何とも言えない恐ろしい表情で此方を見下す。
「詳しい話を…聞かせてくれるかい?」
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リクエストしてくださった『けいち』さん、大変お待たせしました。本当に長い間待たせてしまってごめんなさい。主人公の進学先は陽泉との事でしたので、どうせだから2人をくっつけちゃいました。きっと奇跡が起こったんでしょうね。あの主人公の性格なら、ずっと紫原君を振り回してそうです。そして時々痛い目合うと思います。紫原君は他のキセキに進学先がばれない様、必死で工作します。完全に逆ハーで突っ込みどころ満載なお話でしたが、企画小説ならではという事で!とても楽しく書くことが出来ました。素敵なリクエストをありがとうございました。