不器用な愛を一欠片(藤川先輩)
attention!
キンセンカの涙に登場するオリキャラが出しゃばっています(藤川先輩)
このお話の主人公は、キンセンカの涙の主人公とは異なります。



「最近、藤川頑張ってるな」

隣の2軍キャプテンに声をかけられ、そうですね。と軽く答える。


「みょうじ、何があったか知っているか?」

「知らないです」


そう、笑いかければ照れたような顔。なんて簡単な男なのだろう。



「そそそ、そういえば、今度の日曜は休みだな!…も、もしよければ…」

「ごめんなさい、その日はちょっと用事が…」

「そ、そっかー!!そうだよな、みょうじなら予定入っててもおかしくないよな!」

「本当にごめんなさい…」



伏目がちに答える。相手は更に私に釘付けとなってこちらを見ていた。


誘いは断ったが、これで私の好感度は更に上がっただろう。馬鹿な男にバレない程度に口の端を上げた。



「聡、早く終わりなさいよ。皆帰ったわよ」


未だに練習している藤川聡。私の言葉に「おー」と聞いていないような返事をした。
この私が声を掛けているというのに。反応しないのは奴くらいだ。



「いい加減にしなさいって。このごろ変よ?」

「いやねー、次の昇格試験で1軍狙ってるから」


にへらっと、そう笑う聡。何故だかそれに腹が立ってしまった。


「何言ってるのよ、夢見てるの?」

「夢じゃなくて、目標なの」



最近、馬鹿みたいに繰り返してそう言う。誰の受け売りなのだろうか。
聡はボールを倉庫に直して更衣室へと向かった。いつも通り、彼を待っておく。



「お待たせお待たせ、帰ろうなまえ」


奴の姿を確認して、素早く校門へ向かった。慌てて聡が追いかけてくる足音が後ろから聞こえる。


私、みょうじなまえは自他共に認める美人だった。恐らく、帝光中2年で一番だろう。これは自惚れではなく、本当にそうなのだ。
何故なら去年行われた文化祭、ミスコンで私はぶっちぎりの1位だった。
当たり前だ。どうすれば男がこちらを振り向き、なおかつ女子の怒りを買わないのかを熟知していた。

私が告白すれば、必ず成功する。私を振るような馬鹿な男はいない。
私がグループのリーダーになれば、男女ともにクラス全員が集まってくる。私がリーダーだと嫌だと思う人間など、きっといない。


そんな才色兼備な私だが、今年1年生で同じバスケ部マネージャの桃井さつきには負けを認めていた。
顔は同レベルだ。私が綺麗系だとすれば、彼女は可愛い系。しかし、彼女は私に無いものを持っていた。

胸だ。


どんなに頑張っても、胸がつかない。太りたくはないから、普段行っている美容ダイエットは止めたくないから、脂肪が無い。

しかしまあ、ジャンルが違いすぎるからこれはこれでいいか、と賢明な私は気にしないようにしていた。


話は脱線したが、とにかく私は美人で綺麗で賢くて可愛くて聡明で素晴らしい人間なのだ。

しかし、思い通りにならない人間が一人いた。



藤川聡だ。



「なーに百面相してるの?不細工だね」

「この私にそんな口をきくのは、あんたくらいよ」


藤川聡は私の幼なじみ。家は隣同士だ。
昔から一緒にいる所為で、私の素晴らしい顔立ちに慣れてしまったせいか、私に好意を寄せている様子は無い。

顔は悪いとは言わないが、特別良いわけではない。正確は明るく社交的で友人も多い。
時々おふざけが過ぎるところもある。帝光中バスケ部2軍の副キャプテンを任される事だけあって、スポーツ万能。ちなみに成績は上の下程度だ。


しかし、顔がもっと良い人もいるし、1軍には聡以上にバスケが上手い人もいる。

それなのに、なぜこいつは私にひれ伏せないのか。



「なまえさ、その人を見下す癖止めた方が良いよ」

「なっ」


そして、すぐに私の考えている事を当ててくる。こんなところが非常に腹立たしい。


「うるさいわね、このチビ!あんた以外は私の言う事を聞くのに、なんであんたは…!」

「えー、そうかな?」

「は?」

「俺以外にも、なまえの思い通りにならない奴なんて沢山いるよ」

「いるわけないわよ」

「いるって」


たとえばね、と彼は笑いながら口を開いた。


分かったわ。つまりその人達を惚れさせれば私の勝ちって事でしょ。
そして私の言う事を何でも聞くようにしてやるんだから。


1年生の廊下を歩く。男子の目線をたくさん感じた。心地よい
目的の教室にたどり着き、近くの男子に声をかけた。


「ちょっといい?」

「は、はい!!!」


ほらね、こんな反応が普通なのよ。やっぱり聡は異常だわ。



「緑間くん、呼んでもらえるかしら」

「わわわわかりました!!」



男子生徒はこちらをちらちらと見ながら、窓側にいた背の高い生徒に声をかけた。
あれが、緑間真太郎か。なかなか美形だし、背が高いし、いい物件だ。


「何の用なのだよ」


思わず、ぐっと身構えてしまう。大丈夫、事前に聡から変な口調だと聞いていた。



「バスケ部の事で1軍の先輩に用があるの。でも…その先輩がちょっと…」


少しもじもじして、軽く涙目になる。これで落ちない奴はいない。


「だから、俺に何の用なのだよ」

「その先輩…ちょっと乱暴な人で、この前恐い目にあったの…。だから代わりに伝えてくれたら…」


私の言葉に彼は眉を顰める。


わかる、わかるわ。その先輩に対しての嫌悪感と少しの羨ましさが彼の頭の中で渦巻いているのね。


「ごめんなさい、迷惑だって分かっているんだけれど…」


「全くその通りなのだよ。そのくらい自分で言え、他人を使おうとするな」


ピシャリッと、ドアがしまった。

私はというと、フリーズしたまま動けない。


「ほらー、やっぱり駄目だったじゃん」

後ろから声が聞こえて、振り向けばそこには聡がいた。なぜここにいる。


「面白そうだから、ついてきちゃった」


嫌なところをこいつに見られてしまった。



「あれは照れ隠しよ」

「んなわけないでしょ」


そう笑われて、イライラしてしょうがない。



「まだ1人目よ!あと3人いるんでしょ!」

「無駄だと思うよー」


聡に教えられた『私が誘惑しても動かない4人』。全員一年生だ。
次の標的がいるクラスへと向かう。


しかし、青い人には「お前、誰」と言われ
紫の人には「お菓子もってないとか話にならないー」と言われ
赤い人には「忙しいので」と言われた。

まさかの、全滅だ。


「わかった、今年の1年は目に何かしらの問題を抱えているのね」

「だれもが外見で判断するってわけじゃないってことだよ」


屋上で項垂れる。都合よく、他に人がいる気配は無かった。

結局、聡は最後までついてきて、最後まで笑っていた。


こいつは何がしたいのか、全然分からない。

何を考えているのか、全然分からない。


「…私、綺麗でしょ?」

「ん?うん、そうだね」


そう聞けば、聡はそう答えるのに。


「…」


それ以上、何も言わない。

なんで、よりによってこいつが…。


こいつが私に反応しないのだろう。



「…なんの為に、綺麗になったと思ってるのよ」


聞こえないように、小さく小さく呟いたのに、聡はそれを聞き逃さなかったようだ。



「俺の為でしょ?」

「え…」


あっけにとられて、目を見開く。

なんで、なんで分かったの。



「なまえ、俺の事好きだから綺麗になったんでしょ」

「な、な……!!」


顔がみるみる熱くなるのが分かる。絶対赤くなってるはずだ。

それが聡に分かってしまうのが恥ずかしくて、でも心臓がバクバクと煩くて。


何を言ったら良いのかわからず、ただ口をぱくぱくと開けていると、



「だって、俺もなまえ好きだもん。見てれば分かるよ」



なんて。

なんでもなく、飄々に、にこりと笑ってそう言い放った。


「す、すすすすすす…!!?」

「わー…、なまえに翻弄されている男みたいだ。確かに、これ癖になるかも」


顔をぐいっと近づけて、面白そうに笑っている。


なんなの、なんなのよこの流れは!
どうにかして自分の流れに持っていきたい。


「す、すすす好きどころか愛してるわ!!!!!」


いや違う、こんな事が言いたいわけじゃない。私は何を言っているんだ。間違ってないけれど。

私の言葉を聞いて、聡はぽかんとこちらを見る。そしてぶはっと吹き出して。


「うんうん、知ってる。ありがとー」


更に顔を近づけて、唇に軽くて柔らかい感触。



「でも俺、小学校の時のすっごく太ってたなまえも好きだったよ」

「黒歴史!それ言わないで!!」


end

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緋色さん、リクエストありがとうございました。
一番初めのリクエストが、まさかのオリキャラ藤川先輩!驚き!
リクでしか書けない様な内容でしたので、思いっきり楽しみました。


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