心電図

『おかえりなさい。仕事お疲れ様です。生姜焼きが冷蔵庫に入ってます。温めて食べてください。』

当番明けで家に帰ると、いつものように置き手紙が机の上に置かれていた。男にしては字が小さいこの置き手紙の送り主は、俺の同居人兼、恋人である成宮陸人のものだ。

「あいつ今日は日勤か…」

思えば最近陸人の顔を長らく見ていない気がする。というのも、なかなか会う時間がないのだ。同棲してるくせに何言ってるんだと思うかもしれないが、陸人は看護師で俺は救命士である。陸人に夜勤があると2人の生活リズムはなかなか合わない。また、俺に至っては当番があるので週の半分はまるっきり家にいない。そういうこともあって、4日ぐらい会えないなんて日常茶飯事なのだ。
ただ、今回はいつもより会えない期間が長い。たまたまお互いの休暇が被らない日が続いた。

俺は陸人の柔和な笑顔を懐かしみながら、言われたとおり冷蔵庫にある生姜焼きを温めた。いつも朝ごはんは消防署で食べてくるからいいって言ってるのに、「ついでだから」と言いながら毎回俺の分まで作ってくれるあたり、看護師の気質が垣間見える。

「うまい」

他人に作ってもらった料理は自分で作るより美味しく感じるものだ。消防署でも手の空いてる奴がご飯を作ることになっていて、やはりそれも美味しいなとは感じるが、正直陸人が作るものは別格だ。それはきっと俺にとって陸人が特別な存在だからなのかもしれない。

「ごちそうさまでした」

俺は一人で食事を済ませると、風呂に入って一寝入りすることにした。基本的に当番の日は24時間勤務である。一応仮眠の時間はあるが、基本的にぐっすり眠ることはできない。出動要請があればすぐに現場へ向かわなければならないからだ。特に昨日は深夜の出動要請があって眠れなかった。

俺はダブルベッドの包容感と布団の暖かさにうとうとしながら、「起きたら陸人がいるといいな」なんて思いながら意識を手放した。

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