「精魂尽き果てる」とは多分このことだと思う。俺は肩で息をしながら虚ろな目で遠くを見ていた。
何回玲の手の中でイッただろうか。足の付け根がヒクヒクと痙攣しているのが分かった。
体の熱が鎮まり、徐々に冷静さを取り戻しつつある。蘇る記憶はどれも死にたくなるようなものばかりだ。いっそのこと殺してくんねーかなとか考える。

そして起き上がろうとして手を動かした時に気がついた。
そういえば手首を縛られているんだった。
そんなことも忘れるぐらい切羽詰まっていたのかと、自分に嘲笑した。

「玲、これ解いて」

「…晃介、お前すっげーエロいよ…」

「…はぁ?」

「このまま俺も挿れていい?」

「死ね」

玲のヘラヘラ笑った顔を睨みつけると、悪びれた様子も見せずに「冗談だよ」と言いながら俺の手の拘束を解き始めた。
ほんとこいつ何考えてるのか分からない。

「あいつら生きてる?」

「知らね」

俺たちの周りには男たちが呻き声を上げながら横たわっていた。腰を押さえながら覗きに行ってみれば、一応呼吸はしているようだ。しかし顔はモザイクをかけないと見せられないレベル。

「そんな奴放っておけよ」

床に転がってる汚い面をじっくり目に収めていたら、僅かに苛立った顔をした玲に手を引かれた。体に力が入らない俺は、玲が座っている足の間にストンと尻餅をつく。抱きとめられたため痛くはなかった。
なんだかなぁ…。

「タバコ吸いてぇ…」

身体中の痛みとか、この格好はなんだとか、女みたいな扱いをするなとか、いろんな不満をひっくるめて出てきた言葉は「タバコ吸いたい」だった。しかし生憎俺のタバコは根性焼きをされたときにどっかいってしまった。チッと舌打ちをしながら後ろの人物にもたれ掛かると、目の前にシルバーの特徴的な箱が現れた。数字の7と書かれたパッケージ。彼が好きな銘柄だ。

「俺の吸う?」

玲が後ろから手を伸ばして俺にタバコを渡してきた。
俺がいつも吸ってるやつじゃないけどまぁいいか。
「ありがと」と言いながらそれを口に咥えて火をつけた。そしていつものように煙を肺に入れた瞬間むせかえる。頭がクラクラした。

…こいつのタバコ、タール量多いんだよ。

玲はそんな俺を見てクツクツと笑いながら、彼も一本取り出して口に咥える。すると俺に顔を寄せてきた。
また火を分けろってか。
察した俺は斜め後ろを向きながら息を吸い込んで火の勢いを強める。タバコの先端が重なり合うこと数秒、彼が咥えているものに赤い火が移った。それを確認した俺は再び前を向こうとする。
その時だった。
玲は俺の口からタバコを取り上げると、急に噛み付くようなキスをしてきたのだ。突然のことにびっくりして何か言葉を発しようと口を開けば、熱くて苦い舌が差し込まれる。深いコクのあるタバコの味だ。

「ふっ…んっ…んんっ…」

玲はしばらく俺の舌を味わうように撫で回した後、ちゅっとリップ音を立てて名残惜しそうに離れていった。


「…お前、本当に何考えてんのか分かんねぇ…」

「分かるだろ。そのままの意味だよ」

「…」


俺は相手をするのが面倒くさくなって、視線を逸らしながらタバコを咥えた。


「お前顔真っ赤だよ」

「…うっせ」



こいつを見ていたら、いつ捨てても良いと思っていた命が少しだけ愛おしくなった。


戻る

7/7

一覧