1-5 *** 「ただいま〜」 「おかえり結斗!」 家に帰るとエプロンを着た雅人さんたちが出迎えてくれた。 雅人さん、いい歳してそのフリフリエプロンはどうかと思う。そのエプロン着るなら着るで、何かボケてほしい。ちゃんとツッコむから。真顔でやられるのが一番困るのだ。果たしてこれは突っ込んでいいものなのか…? 「いや、雅人さんそれ似合ってないから」 「…。」 どうやら俺は選択を間違えたようだ。 雅人さんは酷く傷ついた顔でエプロンを脱ぎ始めた。逆に聞くけど似合ってると思ってたんか。 「結斗くん宿題手伝ってぇ〜…」 小学生たちはもう既に学校から帰ってきていて、宿題が終わるまでおやつをお預けにされているらしい。いつものように俺におねだりをしてきた。 だがここはお兄ちゃんとしてしっかり言わなければ。 「自分で考えないと、いつまでたっても出来ないままだぞ」 「もうできるもん!めんどくさいから頼んでるだけだよ」 「めんどくさいことを他人に押し付けて逃げるのはいけません!」 「結斗にぃはケチだから、他の人に頼もうよ」 聞こえているぞ晴人。 誰が深夜のトイレに付き合ってあげたと思っているんだ。 まぁなんとでも言うがいい。 これはお前たちのためなんだ。今のうちにちゃんと勉強する習慣つけないと高校行けないからな。高校行けなかったらここを出ることになる。 そうならないためにも俺は心を鬼にして言っているのだ。 そんなことを考えながらお菓子をボリボリ食べていたら、集団で妬ましい目をこちらに向けてきた。 数の暴力とはこのことである。 「…見ててやるから早く解け」 またいつものパターンだ。結局俺は年下に甘い。 *** 中学生たちが部活から帰ってきて、みんな揃ったところで夕飯の時間になった。 「ねぇ結斗聞いてよ。春香ったら生徒会に立候補したんだぜ。こいつが生徒会役員なんかになったら絶対に独裁政権が始まるよ」 からかうような声で啓介が俺に話しかけてきた。 生徒会に立候補するなんて素晴らしいじゃないか。しっかり者の春香には適職だろう。 同じ環境で育ったというのに、俺なんかより何倍もできた人間だ。 というか啓介、さすがに言い過ぎだと思う。「独裁政権」の使い方も合ってるのか疑問だし。最近社会の授業で習った言葉を使いたくなっただけだろ。 「早く謝れ」と諭すかのように啓介に視線を送っていると、隣の席で「バンッ!」と机を叩く音がした。 ほら、言わんこっちゃない。 「は!?うるさいんだけど!啓介みたいな問題児にとやかく言われたくないし!そういえば結斗兄ちゃん!この前啓介ね、学校にセクシーモデルの写真が載ってるトランプを持って行って生徒指導受けたんだよ!?ありえなくない?」 けしからん、聞き捨てならんな。 ぜひ俺にもそのトランプを見せて欲しい。そんなトランプどこで見つけたんだ。 あ、良い子のみんなは学校に余計な物は持って行っちゃダメだぞ! 「啓介、今度俺にも見せて」 「えー、ここに持ち帰ってくるのやだよぉ。あのおばさん職員、ノックしないで勝手に部屋入ってくるじゃん」 まぁ言いたいことは分かる。 ただでさえ相部屋でプライベート空間が無いというのに、ノックもせずに入ってくる女性職員は俺たち思春期男子の敵だからな。 「はぁ…。結斗兄ちゃんにチクったのが馬鹿だった」 春香が呆れた口調でつぶやいた。 分かってくれよ春香。男なんて大抵そんなもんだ。 起きてる時間の8割はエロいことを考えている。 「ところで結斗は友達できたのか?」 雅人さんが俺に話を振ってきた。 今日は深瀬という奴と話したが、もう友達と呼んでいいのか微妙なところだ。とは言いつつも、心配はさせたくなかったので「まぁぼちぼち」と答えておいた。 一章終わり 7 目次しおりを挟む |