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「よし、愚弟供、もう一度復唱するんだ」

「私、女だから愚弟は違くない?」

「じゃあ、ぐまい…? 愚妹!」

「俺、愚か者じゃないから愚弟は違くない?」

「じゃあ、ただの兄弟たちよ、」

「なに?愚兄」

「……もう一度復唱するんだ」


なんか腑に落ちないけどもういいや。俺は春香と啓介にもう一度とある約束を復唱するよう指示した。


「うるさくしない、迷惑かけない、結斗兄ちゃんに話しかけすぎない」

「よろしい」


啓介と春香はめんどくさそうに口を揃えて言った。ここまで口酸っぱく言っておけば大丈夫だろう。
というのも、今度の文化祭に啓介と春香が来ることになったのだ。最初は渋っていたのだが、高校見学という名目でお願いされたら断れなかった。春香に至っては今年受験生である。施設から交通の便が良いということもあり、俺と同じ学校を第一志望に考えているらしい。


「小学生じゃないんだからさ〜、そんなこと言われなくても大丈夫だって」

「念には念をだ。特に啓介、お前は春香の側を離れるなよ」

「へーい」


随分てきとうな返事だが、本当に分かっているのだろうか。迷子になって校内放送とかシャレにならないからやめてほしい。


「あ、あと…俺2時から予定あって教室にいないから」


別に隠す必要なんて全く無いはずなのに、少し曖昧にしてそう告げる。それを見た春香がニヤッと口の端を上げた。宮永さんといい、どうして女の子はこうも鋭いのだろうか。


「なに、結斗兄ちゃん彼女できた?」


春香が肘で俺の腕をつつきながら小声で言った。彼女ねぇ。深い溜息が出そうになるのをグッと堪える。彼女どころか、彼氏もできてませんよ。そう言えたらどんなに楽だろうか。俺の恋路は雪山登山のように険しい。


「友達と周るだけだよ。変な詮索するな」

「…ふーん。さしずめ、その友達を好きになってしまったってところかな」


俺は盛大にむせかえった。顔が赤いのは息ができなくて苦しいからか、それとも図星を突かれたからか。


「うわ!分かりやす!」


昔から怖いものと言えば『地震 雷 火事 親父』と言い伝えられているが、そこに『女の感』を付け足すのはいかがだろうか。ぜひとも検討していただきたい。

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