6-5 *** 「よし、愚弟供、もう一度復唱するんだ」 「私、女だから愚弟は違くない?」 「じゃあ、ぐまい…? 愚妹!」 「俺、愚か者じゃないから愚弟は違くない?」 「じゃあ、ただの兄弟たちよ、」 「なに?愚兄」 「……もう一度復唱するんだ」 なんか腑に落ちないけどもういいや。俺は春香と啓介にもう一度とある約束を復唱するよう指示した。 「うるさくしない、迷惑かけない、結斗兄ちゃんに話しかけすぎない」 「よろしい」 啓介と春香はめんどくさそうに口を揃えて言った。ここまで口酸っぱく言っておけば大丈夫だろう。 というのも、今度の文化祭に啓介と春香が来ることになったのだ。最初は渋っていたのだが、高校見学という名目でお願いされたら断れなかった。春香に至っては今年受験生である。施設から交通の便が良いということもあり、俺と同じ学校を第一志望に考えているらしい。 「小学生じゃないんだからさ〜、そんなこと言われなくても大丈夫だって」 「念には念をだ。特に啓介、お前は春香の側を離れるなよ」 「へーい」 随分てきとうな返事だが、本当に分かっているのだろうか。迷子になって校内放送とかシャレにならないからやめてほしい。 「あ、あと…俺2時から予定あって教室にいないから」 別に隠す必要なんて全く無いはずなのに、少し曖昧にしてそう告げる。それを見た春香がニヤッと口の端を上げた。宮永さんといい、どうして女の子はこうも鋭いのだろうか。 「なに、結斗兄ちゃん彼女できた?」 春香が肘で俺の腕をつつきながら小声で言った。彼女ねぇ。深い溜息が出そうになるのをグッと堪える。彼女どころか、彼氏もできてませんよ。そう言えたらどんなに楽だろうか。俺の恋路は雪山登山のように険しい。 「友達と周るだけだよ。変な詮索するな」 「…ふーん。さしずめ、その友達を好きになってしまったってところかな」 俺は盛大にむせかえった。顔が赤いのは息ができなくて苦しいからか、それとも図星を突かれたからか。 「うわ!分かりやす!」 昔から怖いものと言えば『地震 雷 火事 親父』と言い伝えられているが、そこに『女の感』を付け足すのはいかがだろうか。ぜひとも検討していただきたい。 57 目次しおりを挟む |