6-4

「福田」

「ん?」

「文化祭、誰かと一緒に周る予定ある?」


やはり深瀬は棒アイスに視線を送らせたまま口を開いた。ここ数分、目が合わないように感じるのは気のせいだろうか。


「あると思う?」

「思わない」


即答してんじゃねぇ。その手に持ってる棒アイス、溶けてそのまま地面に落ちてしまえばいい。俺は深瀬のアイスに念を送った。


「ねぇ、俺は予定あると思う?」

「なんだよ、人気者アピールするつもりか」

「あると思う?」


俺の言ったことを無視して再び同じことを訊いてきた。どうやら彼は俺にどうしても答えて欲しいらしい。どうせ答えは決まっているのだから、わざわざ聞く必要もないだろうに。


「そりゃあ、お前のことだからあるでしょ」

「ないよ」

「え、」

「ないから、福田君は俺と一緒に周ろうか」


あ、やっと目があった。

何を言われているのか理解するよりも先に、呑気にそんなことを考えた。そして事の重大さに気づく。

あの深瀬が一緒に周る予定の人がいないだと。それどころか俺のことを誘ってまでいる。いやいや、そんなわけがない。だって、女の子たちが深瀬のことを放っておくはずがない。
何か企んでやがるな。俺は怪訝な顔で深瀬を睨んだ。


「何するつもりだ…」

「文化祭の日、14時に教室で待ってて。迎えに行くから」

「え、ちょ、ちょっとまって」

「返事は?」

「……はい」


有無を言わせないような話し方をされ、思わず承諾してしまった。未だに不信感は捨てきれないが、内心少しだけ、いやかなり嬉しい。

ああ、なんて俺は単純な人間なのだろう。さっきまで彼のことは友達として大切にしたいとか言っていたくせに、もうこの有様だ。自分の気持ちとは裏腹に『好き』という感情はどんどん加速していく。
少し乱暴にまた一つ、アイスを口に放り込んだ。


「それ美味しい?」

「食べない奴は損してる」

「じゃあ一個ちょうだい」

「やだ」


俺は今機嫌が悪いのだ。原因は自分の節操の無さという、なんとも自己中心的な理由だけども。横からの視線を無視しながら残りのアイスを全部口に入れた。そこで後悔する。一気に冷たいものを食べたら頭が痛くなった。

不意に深瀬が俺の肩を掴む。流石の彼も怒ったのだろうか。やりすぎたかもしれない。 「ごめん」と謝ろうとした時だった。


「……ん!? んー!……ふっ、んっ」

「…ほんとだ、美味しいね」


深瀬は自身の唇をペロリと舐めた。俺はその動きを呆然と見つめながら、半分の量に減った口の中のものをゴクンと飲み込む。

30年ぶりの記録的猛暑? そんなの知るか。
こちとら人生最大規模の記録的猛暑である。特に顔のあたりが熱帯地域もびっくりの暑さだ。


「福田のアイス、横領しちゃった」


「てへっ」とでも言うかのように彼は後頭部に手を当てた。文化祭の資金だけでは飽き足らず、俺の口の中のものまで不正に奪いとったてか。
やかましいわ。

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