5-15

***

「福田、嘘ついてるでしょ」


更衣室の中、深瀬がワイシャツに腕を通しながら呟いた。
彼の急な発言に俺は気が気でない。
さっきまで仲直りの雰囲気だったじゃないか。なんでまたここで掘り返すんだ。
まさか、俺が施設にいることを知っていたとか…?
分からないまま闇雲に喋るのは危険だ。
俺は彼の次の言葉を促した。


「な、なんで…?」

「宮永さんのこと好きじゃないって、嘘ついたでしょ」

「え?」


深瀬はワイシャツのボタンも閉めずに、俺の顔に穴が開きそうなぐらい見つめた。まるで、表情の変化一つ見逃さないと言わんばかりだ。
でも、俺は本当に宮永さんのことは好きじゃない。だって俺の好きな人は今目の前にいる。
だからどうして彼がそう思ったのか分からなかった。


「…なんでそう思うの?」

「ハチマキ」

「ハチマキ?」

「宮永さんとハチマキ交換したんだろ?」

「…あぁ、宮永さんが手を怪我してたから俺のハチマキで止血してあげたんだ。そしたらお礼にハチマキくれて…。あれ交換って言うのかな?」


「どう思う?」と聞きながら深瀬の顔を見たら、彼は呆然とした表情で立ち尽くしていた。
心配になって顔を覗き込むと、なぜか半目で俺を睨み、不機嫌そうな顔に変わる。


「もうやだ…。お前ややこしい…」

「何が?」

「…なんでもない」


深瀬は溜息をつきながらボタンを留め始めた。俺はその動作をぼーっと見つめる。


「俺が深瀬に家知られたくないって言った時、傷ついた?」


実はこのことをずっと気がかりにしていた。
あの時はこうでも言わないと話が先に進めないと思っていたため仕方なく言葉にしたが、改めて考えると酷い物言いである。
心の中でずっと罪悪感を感じていたのだ。

袴を畳んでいた深瀬は俺の方をゆっくり振り返る。
懐かしく感じる無邪気な笑顔。
部活後の第2ボタンはやっぱり開けられていた。


「俺がお前の家知ったら毎日ピンポンダッシュするし、正しい判断なんじゃない?」


小学生かよ。

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