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「宮永さんがやってる琴って生田流?」

「そうそう!深瀬君詳しいね〜」

「実はばあちゃん家に琴置いてあるんだよね」


帰り道、俺の前を歩く2人は楽しそうに会話をしていた。話の内容が専門的すぎて、俺の入る隙なんてこれっぽっちも無い。
深瀬と宮永さんが不仲かもしれないと、少しでも考えた自分が馬鹿みたいだ。
なんか友達に友達を紹介したら、自分より仲良くなってしまったみたいな。そんな気持ち。

俺、すごい心の狭い奴みたいだ。
はぁ…。また自分の嫌な部分が出てきてる。
体調は悪いし、頭もクラクラしてきた。

…ん?本当にやばいかも。
視界が歪んでいる。冷や汗は止まらない。
朝から体がおかしいとは思っていたが、まさかこんな時に悪化するとは。
2人に怪しまれないように、フラフラになりながらも必死に歩いた。

あともう少し歩けば、3人が分かれる交差点に出る。そこまで我慢だ。
なんとかもってくれ…

しかし俺の貧弱な体は限界だったらしく、一気に力が抜けて膝から崩れ落ちた。


「福田?…どうした?」


前を歩いていた深瀬が俺の異変に気が付いた。血相を変えて近づいてくる姿に少し嬉しいとか思ってるうちは、まだ大丈夫なのかもしれない。


「おい、大丈夫か…?」

「だ、だいじょぶ…。少しクラっとしただけ…」

「大丈夫そうに見えないけど…」

「少し、休憩してくから…先帰ってて…」

「はぁ?こんな顔色悪い奴置いていけるかよ」

「でも…」


心配してくれるのは嬉しいが、宮永さんもいるし迷惑はかけたくない。
顔を隠すように膝を抱えて俯くと、深瀬が目線を合わせるように隣でしゃがんだ。
背中に手を置かれ、下から顔を覗き込まれる。


「顔真っ青だな…。日も暮れそうだし、家まで送る」

「い、いいっ!大丈夫だから!」


俺が勢いよく顔を上げたため、深瀬は少し驚いた顔をした。
まずい。そんなことされたら、俺が施設にいることがバレてしまう。


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