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なんで宮永さんの名前が急に出てきたのだろうか。深瀬と宮永さんって何か接点あったっけ。
だめだ、考えたところで分かりゃしない。


「なんで宮永さん…?」

「福田からの質問は受け付けてない」

「えー…。まぁ、良い人だし嫌いではないよ」

「じゃあ好き?」

「お前は0か100しかないのか…」

「…。」


深瀬はばつが悪そうな顔をして口を閉ざした。満足のいく回答が得られなかったらしく、難しい顔をしながらこちらを見てくる。

宮永さんは俺の事情を知る唯一の友達だ。俺は特に「秘密にしてて」とは言っていないのだが、彼女は決して誰にも言いふらさなかった。余計な詮索もしてこない。なにかと彼女に助けられることが多いのだ。
当たり前だが、そんな人を嫌いになるはずがない。
しかし、じゃあ好きなのかと聞かれると、正直分からないのが本音だった。

そもそもなぜそんなことを聞こうと思ったのだろうか。深瀬がゴシップ好きとは到底思えない。むしろ、そういうのはどうでも良いとか考えてそうだ。
そういえば、日直の時もこんなことあったよな…。

…はっ!まさか。
俺はある1つの仮定を導いた。これが事実ならば全ての謎に説明がつく。


「深瀬の好きな人って、もしかして宮永さん…?」

「はぁ?」


どうやら俺は地雷を踏んでしまったらしい。
深瀬は益々機嫌を損ね、眉間に皺を寄せた。
そ、そんなに怒ることか…?

その顔は図星なのか、それとも本当に違うのか。はたまた宮永さんのことが嫌いなのか。こいつの考えてることが全く読めない。
今度は俺が難しい顔をする番だった。


「なに?じゃあ俺は宮永さんが好きで福田に嫉妬してるって言いたいの?」

「ち、違うの…?」

「………福田、教室戻ろう」


深瀬は深い溜息を吐くと、俺の拘束された手首をほどき始めた。解放されたのは嬉しいが、釈然としないのはなぜだろうか。
結局宮永さんの件は分からずじまいだし。


「あ、これあげる」

「貼ってくれないの?」

「貼って欲しい?」

「…。」

「…否定しろよ」


気まずそうな顔をした深瀬は俺に絆創膏を手渡した。なんとなく拒否する気になれなくて黙っていたのだが、そんな顔されたら恥ずかしくなってしまう。

しばらくの間、耳が痛い程の沈黙が続いた。
深瀬相手にこんな気まずいと思うことはなかなか無い。

そんな中、この静寂を破ったのは1限終了のチャイムだった。いつもより音が大きく聞こえる。無機質なリズムが虚しいと感じるのは初めてだ。


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