5-4 なんで宮永さんの名前が急に出てきたのだろうか。深瀬と宮永さんって何か接点あったっけ。 だめだ、考えたところで分かりゃしない。 「なんで宮永さん…?」 「福田からの質問は受け付けてない」 「えー…。まぁ、良い人だし嫌いではないよ」 「じゃあ好き?」 「お前は0か100しかないのか…」 「…。」 深瀬はばつが悪そうな顔をして口を閉ざした。満足のいく回答が得られなかったらしく、難しい顔をしながらこちらを見てくる。 宮永さんは俺の事情を知る唯一の友達だ。俺は特に「秘密にしてて」とは言っていないのだが、彼女は決して誰にも言いふらさなかった。余計な詮索もしてこない。なにかと彼女に助けられることが多いのだ。 当たり前だが、そんな人を嫌いになるはずがない。 しかし、じゃあ好きなのかと聞かれると、正直分からないのが本音だった。 そもそもなぜそんなことを聞こうと思ったのだろうか。深瀬がゴシップ好きとは到底思えない。むしろ、そういうのはどうでも良いとか考えてそうだ。 そういえば、日直の時もこんなことあったよな…。 …はっ!まさか。 俺はある1つの仮定を導いた。これが事実ならば全ての謎に説明がつく。 「深瀬の好きな人って、もしかして宮永さん…?」 「はぁ?」 どうやら俺は地雷を踏んでしまったらしい。 深瀬は益々機嫌を損ね、眉間に皺を寄せた。 そ、そんなに怒ることか…? その顔は図星なのか、それとも本当に違うのか。はたまた宮永さんのことが嫌いなのか。こいつの考えてることが全く読めない。 今度は俺が難しい顔をする番だった。 「なに?じゃあ俺は宮永さんが好きで福田に嫉妬してるって言いたいの?」 「ち、違うの…?」 「………福田、教室戻ろう」 深瀬は深い溜息を吐くと、俺の拘束された手首をほどき始めた。解放されたのは嬉しいが、釈然としないのはなぜだろうか。 結局宮永さんの件は分からずじまいだし。 「あ、これあげる」 「貼ってくれないの?」 「貼って欲しい?」 「…。」 「…否定しろよ」 気まずそうな顔をした深瀬は俺に絆創膏を手渡した。なんとなく拒否する気になれなくて黙っていたのだが、そんな顔されたら恥ずかしくなってしまう。 しばらくの間、耳が痛い程の沈黙が続いた。 深瀬相手にこんな気まずいと思うことはなかなか無い。 そんな中、この静寂を破ったのは1限終了のチャイムだった。いつもより音が大きく聞こえる。無機質なリズムが虚しいと感じるのは初めてだ。 41 目次しおりを挟む |