5-3

手首を縛られてしまった今、なけなしの反抗心は徐々に萎えはじめていた。こうなれば、穏便に済ませてくれと祈るばかりだ。

いよいよ深瀬が俺のワイシャツに手をかける。緩慢な動きでゆっくりボタンを外され、思わずゴクリと喉を鳴らして唾液を飲みこんだ。
「脱がされている」という意識が羞恥を煽る。余計なことを考えないように目をぎゅっと瞑った。


「うわ、これやばいよ。インナーの上からでも分かるぐらい赤い」

「他人事みたいに言うなっ…。お前がやったんだろ」


俺のワイシャツをはだけさせた深瀬は、下に着ていた薄いインナーの上から見てそう言った。
思わず俺も自分の胸に目を向ける。
本当にインナーから乳首が透けていて、恥ずかしさのあまりすぐに目を逸らした。その僅かな反応を見逃さなかった深瀬は、爪を立ててインナーの上から俺の乳首を引っ掻いた。


「あぁっ!…や、やめろっ!」

「あ、乳首立った」


言うな馬鹿。乳首の実況とかしなくていいから、早くやることやって終わりにして欲しい。
そんな俺の願いも虚しく、目の前の男は俺の乳首をぐにぐと押し始める。


「ふ、ふかせっ、あ、あっ…ほんとに…やめっ…」

「優しくやってるよ?」

「そういう問題じゃなっ…んっ…」


くそぉー、腕さえ縛られていなければ、もう少しマシな抵抗ができただろうに。
俺は下唇を噛みながら、ただひたすら胸からくる快感に耐え続けた。

やばい…。これ、腰にくる。
いい加減本当に…


「福田、やめて欲しい?」


奇跡だ。俺の願いが伝わったのだろうか。
俺はヘッドバンドするかの如く頭を縦に振った。それはそれはもう脳震盪を起こすぐらいの勢いで。


「じゃあ、やめてあげる代わりにどっちがいいか選んで」


一体何を選ばされるのか分からなかったが、今の状況よりはマシだと思い「分かった」と手短かに答えた。


「俺の質問に答えるのと、俺に乳首舐められるのどっちがいい?」

「それ、もはや一択じゃん…」

「分かった、乳首舐めね」

「違うよ!逆だよ!」


その選択肢で乳首舐めを選ぶ奴があるか。相当な変態ならまだしも、あいにく俺はそこまで変態を極めていない。
というか絆創膏の話はどこにいったんだよ…。

深瀬は「しょうがないなぁ」とか言いながら俺の胸から手を離した。
「しょうがない」ってなんだ。別に頼んでないし、俺がわがまま言ってるみたいに言うな。
心の中で愚痴りながらも、とりあえずこの状況を脱出できたことに安堵する。


「それで、質問って何?」

「宮永さんのこと好きなの?」

「へ?」


突拍子も無いことを聞かれ、思わずマヌケな声が出た。


40

目次
しおりを挟む