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「で、来たは良いけど何するの?」

「福田がシャツ擦れる度に喘ぎ声出してたら周りが迷惑だろ?」

「いや、そんなずっと喘いでるわけじゃないし…。さっきのはお前が故意にやったからああなっただけで…」

「俺、福田が公然わいせつ罪で捕まるなんて嫌だよ…」

「そんなんで捕まるかよ」


深瀬は「ぐすん」と言いながら目頭を押さえて俯いた。こんなにも嘘くさい泣き演技があるだろうか。手の隙間から口元が笑ってるの丸見えなんだよ。
変な茶番はいいから早く用件を言ってくれ。


「単刀直入に聞くけど、結局お前は何が言いたいんだ」

「うん、だから福田の乳首に絆創膏を貼ってあげようと思って」

「あ、いっけなーい!そろそろ1限が始まっちゃう!深瀬君も教室戻ろうか!」

「今日の1限は自習だって」

「…。」


おいおい、勘弁してくれよ神様。
新手の嫌がらせか何かですか?
そもそも乳首に絆創膏って何だよ。あれは可愛い女の子がやるから萌えるのであって、俺がやったらそれこそ公然わいせつ罪になるだろ。


「ま、待て深瀬。もう乳首に関しては怒ってないから、」

「いやいや悪いよ。俺が強く引っ張りすぎちゃったばかりに…。責任取るよ」


お前さっきまで悪びれた様子なんか全く見せてなかったじゃないか。都合の良いように態度コロコロ変えやがって。

深瀬は絆創膏をヒラヒラとチラつかせながらゆっくり歩み寄ってきた。彼が一歩近づいてくる度に俺は一歩後ずさる。さながら火曜サスペンスでよくある殺害シーンのようだ。


「お、俺は大丈夫だから!ほら、絆創膏勿体無いし!だからお願い笑顔で近づかないで!怖い!」

「遠慮すんなって。俺とお前の仲だろ?」

「遠慮じゃない!これは拒否だ!」


そんな攻防戦も俺の背中が壁に当たったところで終止符がうたれた。その間も一歩、そしてまた一歩と近づいてくる深瀬。まじで怖い。

バンッ!

わぁお。
俺の顔の横には深瀬の長い腕。
所謂「壁ドン」ってやつですか。
しかし壁ドンって胸キュンするやつじゃなかったっけ?今の俺は胸キュンどころか、恐怖で心臓がキュンキュンしている。
むしろキュンキュンというかバクバク。胸バク。


「捕まえた」

「ひぃっ!」


深瀬は片手で俺の手を掴み、そのまま壁に押し付けた。
目の前には誰もが息を飲む絶世の美男子。

これが少女漫画でよくある展開というならば、俺は喜んで鼻血を出しながら倒れよう。
しかし状況が状況だ。
奴は乳首に絆創膏を貼るという、恋で盲目なヒロインでさえも幻滅するであろう変態行為を致そうとしているのだ。イケメンフェイスの無駄遣いとはまさにこのこと。


「ふ、深瀬君、とりあえず手を止めて!ネクタイ外そうとしないで!」

「なぁに、福田君、そんな照れちゃって」

「…勘違いが過ぎるぜ」


深瀬はいとも簡単に俺のネクタイを抜き取ると、そのまま壁に押さえつけてる手首へ持っていった。


「いやはや、これはどういうことかな?」

「手首を縛った」

「見れば分かるよ。そういう意味じゃない」


そう、奴はネクタイで俺の手を拘束したのだ。一体どこで覚えたんだい?と聞きたくなるほどの早業だった。もう本当やだ。


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