4-11

静かな校舎裏ではいまだに2人の荒い息遣いと水音だけが響いていた。どちらのものかも分からない唾液が口の端から溢れ出る。深瀬はそれを器用に舌で掬い上げ、俺の口に押し込んだ。与えられる唾液をコクっと喉を鳴らして飲み込む度に下腹部が熱くなる。
キスだけなのに、この空間には濃厚な性の香りが漂っていた。

不意に深瀬の手が体育着の裾から侵入してきた。
下腹部、臍、脇腹、と徐々に上へ優しく撫でられ、彼を抱きしめる腕に力が入る。
期待は少しずつ大きくなっていった。
そして遂に深瀬の指先がそこを触れる。


「ひゃぁ!…あっ…んんっ…」

「福田ここ弱いね」


思わぬ声が出てしまい顔に熱が集中した。
乳首を自分で触ることなんて滅多に無いし、弱いのかどうかなんて分からない。それでも深瀬に触れられると、羞恥心とか背徳感とか全ての感覚が快感に変換されてしまう。


「痛くされる方が好き?」

「あぁっ!ひっ…あ、あっ…」

「喘いでばっかいないで答えろよ」

「あっ!ひ、ひっぱんない…でっ…あぁっ!」


深瀬は質問に答えなかった俺に痺れを切らしたのか、親指と人差し指で挟んで強く引っ張った。ぎゅーっと伸ばされて痛いはずなのに、腰の辺りがじんわり重たくなる。


「ねぇ福田、答えて」

「い、いたいっ…ほうが、すきっ…あぁっ!」


深瀬は薄く笑うと、「だろうな」と小声で呟きながら俺の顔をじっくり覗き込んできた。
今の俺にはどういう意味か理解することはできない。ただ、自分が恥ずかしいことを言ってる自覚はあった。しかし彼を目の前にすると、どうも調子が狂ってしまうのだ。


「これじゃあ福田へのご褒美だね」

「んっ…あ、ご…ほうび…?」


ご褒美。
このヘンテコな展開の発端だ。
そういえばもとの要求はなんだっけ。

俺は薄々感じていた。

さすがにこれ以上はおかしい。

頭の中では分かっているのに身を委ねようとしてる自分がいる。このまま彼が与えてくれる快感を感じていたい。自分だけを見ていて欲しい。
今この状況ではそれが叶っているのだ。
俺がためらう理由なんて1つもない。

でも彼はそれでいいのか?この滅茶苦茶な流れで俺とこんなことをして。



…そういえばお前、好きな人がいるじゃん…。
俺とこんなことしてたらダメだろ…。

失いかけていた理性をなんとか繋ぎ止めて深瀬の肩を押し返した。


「…お前っ、さすがに誰かと間違えてない?」


深瀬の動きがピタッと止まった。
僅かに上げられていた口角は徐々に降ろされる。俺の胸に置かれた手は、強く引っ張られたそこを労わるようにそっと離れていった。

そして次に彼が見せた顔は無表情でもなく、どこか悲しげだった。


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