4-10

俺は膝をついて深瀬の肩にそっと手を置いた。緊張のあまり手が僅かに震えている。
なるべく前を見ないようにしながら、片足を上げて彼の足をまたいだ。


「おいで」


甘ったるい声で囁かれる。それが自分に向けて発せられたと思うだけで、こんなにも胸が苦しくなるなんて。
深瀬は俺の両手首を掴んで下へ引っ張った。そのままストンと腰を下ろせば、目の前に彼の白い首筋が現れる。
改めてこの格好を客観的に見ると、俺が誘っているみたいで恥ずかしい…。

ちらっと深瀬の顔を見た。「いつでもどうぞ」と言わんばかりの余裕な表情をしている。
なんか俺ばっかり必死になってて馬鹿みたい。

顔なんか見なければ良かったと後悔しながら俯いていると、深瀬の腕が腰に回された。そしてそのまま次を促すようにゆるりと撫でられる。


「…目、瞑って」


そう言うと深瀬はゆっくり瞼を下ろした。
さすがに見られながらは恥ずかしい。

目を瞑った彼は睫毛の長さが際立つ。
ハニーブラウンの瞳が閉ざされた今、俺は薄く開けられた色っぽい唇に釘付けになった。さっきまで怖気付いていた自分が嘘みたいだ。早く目の前の唇に噛みつきたい。

そう、俺だって性に貪欲な一人の男である。

腕を深瀬の首に回した。心臓の音がうるさい。相変わらず緊張で手は震えている。

俺は顔を少し傾けながらゆっくり唇を押し当てた。柔らかくて心地良い感触が直接伝わってくる。
恐る恐る深瀬の唇を舐めると、彼は俺の舌を迎え入れるように口を開いた。俺はそれを合図に、深瀬の温かい咥内に舌を挿し込んだ。


「んっ…」


この後どうすればいいのだろう…。
経験の浅い俺には具体的なやり方が分からない。
少し焦りながら、以前深瀬にされた濃厚なキスを思い出す。
それを参考にしながら彼の唇を甘噛みしたり、鼻を擦り合わせるように角度を変えてみたりした。その間も深瀬の手は、俺を宥めるように優しく腰をさする。
そして舌をぐるりと一周させた時、急に深瀬がふふっ、と軽く笑い出した。


「ふっ…んっ……な、なに……?」

「いや、頑張ってるなぁって」


深瀬は俺と唇を僅かに触れ合わせながらそう言った。もしかして下手くそだと思われたのだろうか。やはり俺では経験不足だったらしい…。
自分の不甲斐なさにしょぼくれていると、突然耳元にちゅっとキスをされた。頬が擦れ合う。耳朶に触れる唇が擽ったい。


「もっとやらしいキス教えてあげる」


そのまま耳元で囁かれた。
俺はとうとうフリーズしてしまう。
もう完全に乙女思考にさせられた。あんなのずるいよ。胸キュンが止まらない。むしろ胸キュンしすぎて息苦しいぐらいだ。

深瀬は俺の腰をぐっと手前に引き寄せると、再び唇を重ね合わせた。今度は俺が深瀬の舌を迎え入れるように口を開く。すると彼は自身の舌を俺の舌の下に挿し込んだ。そしてそのまま裏側を舐め始める。
あまりの快感に腰が引けそうになった。しかし深瀬の手が腰に当てられているためそれは叶わない。


「んんっ!ふっ…んっ!んっ…」


いつのまにか深瀬の片手は俺の後頭部を押さえつけ、隙間なく密着させられていた。

不意に深瀬が俺の上顎を撫でる。
擽ったくてゾクゾクするような感覚がした。思わずピクッと体を反応させる。そんな俺を見た深瀬は舌を重ね合わせながら、時折思い出したかのように上顎を舐めた。


「ふっ…はぁっ…んっ…んんっ!」


何度も角度を変えては舌を抜き挿しされる。さっきまでのキスとは比べ物にならないほど濃厚だった。


「はぁっ…福田、舌出して」


ようやく唇が離れたかと思いきや深瀬が新たな要求をしてきた。
既にぐずぐずになっていた俺はぼーっとしながら彼に言われるがまま舌を差し出す。深瀬は優しく笑うと、俺の舌を咥えながらじゅっと吸い始めた。
なんだこれ。気持ち良すぎておかしくなる。

こんな甘くてどろどろに溶けたキスを俺は知らない。体も心も満たされる。そんなキス。
俺は少しでも快感を逃そうと身をよじらせた。


34

目次
しおりを挟む