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体育祭は深瀬の活躍もあり学年で2位という好成績を収めた。残念ながら1位は取れなかったが、8クラス中2位は大健闘である。みんなが深瀬を褒め称えた。


「優太ー!部活で写真撮るから集合だってー!」

「深瀬君!私たちとも写真撮ってー!」


相変わらずの人気だ。ここまでくると羨ましいを通り越して逆に大変そう。

何も貢献できなかった俺は、せめてもの罪償いとして片付けの準備を率先して行った。俺は誰からも写真撮ってとか言われないからな。
「お!偉いな福田!」と先生が声をかけてくるが、その言葉さえ今となっては俺を虚しい気持ちにさせる。


「…先生。こんなに片付け頑張っても、誰も俺のことなんか見てないんですよ…。フツメンだから」

「そんなことはないぞ!神様はきっと見てる!いいことあるぞ!」


でたよ、その根拠のない「きっといいことあるよ」論。何回も聞いたさ。何回も信じたさ。そして何回も裏切られた。
おぉ神よ。もっとフツメンに優しい世界を…。

涙を滲ませながらパイプ椅子を運んでいると、1人の女の子が校庭でしゃがみ込んでいるのを見かけた。なんだか落ち着かない様子だ。放っとこうかなと一瞬思ったが、ここで無視をすれば男が廃る。俺は勇気を出してその子に近づいた。

覗き込んでみればなんと宮永さんではないか。彼女にはいろいろお世話になっている。助けないわけにはいかない。


「宮永さん…?大丈夫?…わっ!それどうしたの!?」


宮永さんの手からは赤い血がぽたぽたと垂れていた。ただの切り傷にしては血の量が多い。「ツバつけとけ」と言えるレベルではないことははっきり分かった。


「え…?あ、福田君。…なんか校庭に割れたビンが落ちてたらしくて、うっかり…」


そこまで言われて分かった。
落ちてたビンの破片を誤って触ってしまい、それで手を深く切ってしまったのだろう。学校の校庭にポイ捨てするなんて非常識にも程がある。俺は静かに怒りを覚えながら宮永さんの応急処置を優先した。


「とりあえず傷口を洗いに行こう。感染症とかになったら大変だから」

「あ、うん…」


傷口などから入る細菌によって命にかかわるような病気になるかもしれない。確か破傷風とかそんな病名だった気がする。
俺は宮永さんの手を引いて手洗い場に向かった。その間もポタポタと赤い血が滴る。
少し焦っていた。
宮永さんの歩調に合わせることなく足早に歩き始めた。




「うーん…なかなか止血できないね…」

「思ったより深いのかなぁ…」


傷口を洗っても血はどんどん滲み出てきた。
こういうとき、傷口の上を圧迫して止血するのが良いと聞いたことがあるが、あいにく使えそうな布がパッと思いつかない。ハンカチは一般席に置いてきてしまった。

手持ち無沙汰でポケットの中に手を突っ込んでみた。指先にくしゃくしゃに丸められた細長い布が触れる。
あ、使えるかも…


「宮永さん、これ使って。俺ほとんど一般席にいたから巻いてないしそんな汚れてないと思うんだけど…」

「え!悪いよ!…ほら…誰かと交換できなくなっちゃうよ…?」

「あはは、俺と交換してくれる人なんていないから気にしないで」


俺は宮永さんのぱっくり開いた傷の上をハチマキで少しきつめに巻いてあげた。それが功を成したのか出てくる血の量は幾分か抑えることができた。
ハチマキがあって良かった。
まさかここで自分の運動神経の悪さとフツメンに感謝する日が来るとは…。


「このまま保健室に行った方が良さそうだね」

「うん、ありがとう。1人で行けるから大丈夫だよ。ごめんね貴重な時間を取っちゃって…」


貴重な時間…
そうか。今頃みんなはハチマキ交換をしている頃なのか。くそーリア充どもめ。

…そういえば深瀬は無事交換できたのだろうか。
なんだか複雑な気分だ。

友達の恋愛話を素直に喜べない自分に嫌気がさしていると、宮永さんに「福田君」と話しかけられた。


「これあげる。福田君の無駄にしちゃったから。せめて感謝の気持ちとして受け取って。ふふっ最初から自分ので止血すれば良かったね」


「ごめんね」と言いながら宮永さんは俺に自身のハチマキを渡した。俺が勝手にやったことだから彼女が謝る必要はないのに。
謝られてしまっては押し返すこともできない。
俺は素直に宮永さんからハチマキを受け取った。

その後彼女は申し訳なさそうに「ありがとう」と言いながら保健室へ向かって行った。


「さぁ片付けに戻るか…」


俺は宮永さんが保健室へ向かったのを見届けると、踵を返して再び校庭へ向かった。


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