4-6

『騎馬戦の選手は待機場所に集合してください』


招集のアナウンスがかかった。選手じゃない一般生徒はそれぞれが見やすい位置に移動し始める。特に俺たちのクラスに人が集まっていた。みんなのおめあては深瀬だ。


『大将戦のルールを説明します。大将戦では相手チームの騎馬を全滅させるか、先に大将騎を落としたチームが勝ちとなります。それでは選手の入場です。拍手でお迎えください』


アナウンスと共に上裸の選手達が入場した途端、女子たちの「きゃゃぁぁあ!!」という歓声が鳴り響いた。もはや断末魔の叫びに聞こえる。
俺はむさくるしい男たちの中で深瀬がぺちゃくちゃ話しながら入場しているのを見つけた。
彼は俺たちのクラスに気がつくと、「いやん」とか言いながら自分の肩を抱いた。
なにやってんだ。真面目にやれ。
それでも「きゃゃあ!!」という歓声が湧くから不思議なものだ。よく見てみろよ、「いやん」だぞ?俺がやったら絶対気持ち悪がられる。やらないけど。
とりあえず俺も応援することにした。しかし、どうせこの歓声の中叫んでも聞こえやしない。


「深瀬ー!頑張れー!」


そう言いながら持ってたタオルを回した。
…ん?一瞬目が合った気がする。いや、この大勢いる中で目が合うなんて気のせいか。
すると深瀬はこっちを向き、口をパクパクと動かした。俺は目を凝らして彼が何を伝えようとしているのか読み取ろうとする。

…ふ…く…た…ば…か

てめぇ深瀬この野郎。
お前なんか開始10秒で落とされろ。そうなったら俺らのクラス負けになるけど。あいつあんなふざけてるけど一応大将だからな。
…というか俺の応援気づいてくれたんだ。


『それでは騎馬を組んでください』


深瀬は騎馬に足を引っ掛けて上に乗った。それにしても改めて見るとやっぱりいい体してる。白くて程よく筋肉ついてて、かといってムキムキでもない。まるで彫刻みたいだ。これぞ肉体美。羨ましい。
ちなみに騎馬の前を担当しているのは羽柴だ。なんだかんだ言ってあいつらは仲が良い。実は俺も騎馬を手伝おうかって聞いてみたが、ひょろいから無理と言われてあっさり断られてしまった。ちくしょう、まじで邪魔者じゃないか。


「うわ!相手の大将ゴリラみたいなやつじゃん。深瀬君がかわいそうだよ〜…」


隣の女の子がめちゃくちゃ失礼なことを口にした。いやゴリラって…と思いながら俺も相手の大将を見るとまじでゴリラだった。なんかもう筋肉とかすごい。ムッキムキだ。首もめちゃくちゃ太い。深瀬が細マッチョならあっちはゴリマッチョだ。
ついでに男子の騎馬戦のルールは騎手を落とした方が勝ちとなる。己の体だけで戦うので、ガタイの良い方が有利なのは言うまでもない。
確かに相手が悪いなと思ったが、深瀬にはあのぐらいで丁度良い。あいつは一度痛い目にあった方がいいからな。


『それでは大将戦を始めます!よーい…はじめ!!』


一斉に両チームの騎馬が取っ組み合いを始めた。やはり男子の騎馬戦は女子よりもはるかに激しい。応援の声も徐々にヒートアップする。


「きゃゃああ!深瀬くーん!頑張ってー!」


一方深瀬はというと、戦いに全く参加せず一般席の方に寄って応援してる人たちに手を振っていた。なんかもう凱旋パレードみたくなっている。だから真面目にやれよ。大将がこんなんで大丈夫なのか?
騎馬は何してるんだと思いながら羽柴を見ると、左の髪を掴まれると左に進み、右の髪を掴まれると右に進んでいた。
え、そういうシステムなの?完全に操縦されてんじゃん。ある意味便利だな。

そうこうしてる間に深瀬は相手の騎士に囲まれてしまった。
何やってんだよもう。お前大将なんだから狙われるのは当たり前だろ。


30

目次
しおりを挟む