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『全員しっかりハチマキ付けろよー』


校庭に着くと体育の先生が拡声器を使って呼びかけていた。ときおり「キィィン!」という音を鳴らす。いつも思うんだけど、あれは絶対に鳴っちゃうものなの?耳が壊れそうだ。


「羽柴、俺がハチマキつけてあげるよ」

「まじで、助かるわ」


深瀬は羽柴からハチマキを受け取ると、器用な手つきで頭に巻き始めた。だがなんか違う。ちょっと縦に巻きすぎではないか?


「できた」

「さんきゅ!」


羽柴の頭には女の子のように縦に巻かれたハチマキがあった。更に余った部分でリボンまで作られている。いや気づけよ。
面白いので敢えて何も言わなかった。

ハチマキの巻き方って個性出るよね。
俺みたいにスタンダードな巻き方のやつもいれば、祭りみたいにねじったり。
一方深瀬は首からさげている。もはやハチマキではない。そんな深瀬のハチマキの意味を成さないハチマキは女子からの視線を集めていた。やっぱり人気がすごい。隣に立ってるのが嫌になるレベルだ。


「深瀬はハチマキ交換する相手とか決まってるの?」

「うん、まぁね」


なんとなく聞いてみたらやっぱり決まってるらしい。それが誰なのか気になったが聞く勇気はない。なぜか知るのが怖かったからだ。
きっと深瀬ぐらいモテるなら女の子はよりどりみどりなのだろう。だがハチマキは1つだけだ。選ばれた子の嬉しさは計り知れない。


「福田はもちろん決まってないよね?」

「勝手に決めつけるなよ。物好きが交換してくれるかもしれないだろ」

「どちらにせよ今のところいないってことでしょ?」

「…そうだけど」


深瀬は一通り俺を馬鹿にした後「物好きねぇ」とぼそっとつぶやいた。
なんだよ、そんなやついるわけないって言いたいのか?
分からないじゃないか!可能性は0ではない。1パーセントでもある限り信じるんだよ!
…ハチマキ失くしたら0だけどね。




その後の深瀬は忙しかった。
出る種目が多い分ほぼ一般席にいることはない。なによりも常にあいつの周りには人が集まっていた。俺が話しかける隙なんてこれっぽっちも無い。きっとこれを誰もが認める「人気者」というのだろう。
対して俺は出る種目が全級リレーしかないためずっと一般席だ。ちなみに全級リレーはクラス全員が参加する種目である。なんだこの差は。


「短距離走の深瀬君めっちゃイケメンだった〜!」

「ねー!ぶっちぎりで1位だったもんね!期待を裏切らないよね」


近くに座ってる女の子たちの会話が聞こえてきた。そう、やつは短距離走で1位をとったのだ。前から足は速いと思っていたが、あそこまで早いとは思わなかった。なんで剣道部なんだ。もう陸上部とかの方が良いんじゃないの。


「私思い切ってハチマキ渡してみようかな…」

「えっ…!まじで…?でも私の知ってる限り他に渡そうとしてる子が15人はいるよ…?」


ぐはっ!すごすぎ…。
二桁かよ。この子が知ってる限りということは、他にもっといるということだろう。
やっぱり顔か?顔なのか?
よく見てみろよ。あいつ俺に嫌がらせばっかしてるぞ。ちょっと顔が良くて運動神経抜群で人当たりが良くて愛嬌あるだけじゃん。
俺なんて髪の毛サラサラで爪きれいで……………。
…やめよ。考えたら鬱々としてきた。髪の毛サラサラで爪きれいなのはやつも同じだ。1つぐらい勝たせろ。

勝手に一人で落ち込んでいたら、深瀬がハチマキ交換する人は決まっていると言ってたのを思い出した。その人はその15人の中に含まれるのだろうか。だとしたらやっぱり付き合うのかな。もしそうなったら俺の相手なんか二の次どころか五の次ぐらいになりそうだ。
単純にやだな…と思う自分がいた。


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