4-2 *** 「ただいまー」 「結斗にぃお帰り!あのさ!あのさ!明日、荒レンジャーが来るからさ、僕も見に行きたくて、結斗にぃお願い!」 「晴人、一旦落ち着け」 学校から帰れば、晴人が興奮気味で俺になにかを訴えかけてきた。だが何一つ理解できない。 後から落ち着かせてよく聞いてみると、どうやら近所のショッピングモールに晴人が好きな「荒レンジャー」という戦隊モノが来るから一緒に見に来て欲しい、ということだった。 明日は土曜日で特に用事もない。 「しょうがないなぁ」と言えば、晴人は「やったー!」と大きな声で叫びながらぴょんぴょん飛び跳ねた。 大丈夫だとは思うけど、一応外出許可願いを出しておこう。 *** 「晴人ー!準備できたー?」 「もうちょっと!玄関で待ってて!」 約束通り、俺は晴人の付き添いで荒レンジャーを見に行くことにした。 準備遅いなぁと思い覗いてみれば、晴人は小さなリュックに荒レンジャーのグッズをたくさん入れていた。そんな持って行っても絶対使わないだろ。失くしたら失くしたでビービー泣くくせに。 「まったく…」と思いながら外で待っていると、近所の人たちの会話が聞こえた。 「ここらしいよ、養護施設。この前小学生が集団下校したときに分かっちゃったのよ」 「そうなんだ〜。施設の子を偏見するつもりはないけど…やっぱり自分の子と遊ばせるのは不安なのよね〜…」 こういうのは慣れっこだ。 別にこのぐらいでいちいち落ち込んだりはしない。それに、母が子を思いやる気持ちは素晴らしいからな。 そう!俺は強靭な精神力の持ち主なのだ。それでも昨日は危うく深瀬の毒舌に負けそうになったが。 しかし、ここで井戸端会議をするのは見過ごせない。晴人がもうすぐ来てしまう。 「おはようございます〜。良い天気ですねぇ」 「えっ!お、おはよう…ございます…」 「あ!も、もうこんな時間だわ!それじゃ、またね!」 主婦二人組はそのまま早足でどっか行ってしまった。 人の顔見た瞬間血相変えて逃げるなんて失礼よね!んもうっ! 俺まで主婦みたいな話し方になってしまったじゃないの! 「結斗にぃお待たせー!今誰かと話してなかった?」 「遅いわよ!誰もいなかったわよ!」 「結斗にぃ気持ち悪い…」 俺は晴人に避けられながらショッピングモールへ向かった。お目当てのショーは午後2時からだったが、てきとうに買い物とかしたかったので午前中から行くことにした。 「楽しみだね!ショッピングモールに荒レンジャーが現れるってことは、そこに怪物がいるのかな?」 なんて純情なんだ。小学生のときの啓介とは大違いだ。あいつは小4で「セックスしたら子供できるんだぜ」とか言ってた。不健全極まりない。 だが、晴人もここまで純情だと逆に心配だ。 「晴人、知らないおじさんにおもちゃあげるって言われても付いてっちゃダメだぞ」 「分かってるよ!でも啓介にぃは『貰えるものは全部貰っとけ』って言ってた」 あいつは本当にそういうことばっか覚えやがって…。将来ろくでもない人間にならないか不安だ。 だが啓介がそういう考え方になってしまったのは、仕方のないことなのかもしれない。確かあいつが施設に来た理由は親の経済的な問題とかだった。きっと彼にしか分からない苦労があったのだろう。 しかし、それはそれ、これはこれだ。 ちゃんと注意せねばならない。 「いいか晴人、知らない人からは絶対貰っちゃだめ。たとえ啓介が良いって言ってもだめだ」 晴人は「はーい」と軽い返事をした。本当にちゃんと分かっているのか気になったが、これ以上はなにも言わなかった。 「あれ、福田君じゃない?…あ!やっぱりそうだ!」 「わ!宮永さん!」 てきとうにショッピングモール内を晴人とぶらぶらしていたら、見知った顔に話しかけられた。 26 目次しおりを挟む |