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「えー、今日は宿泊防災訓練です。皆さんふざけずに真面目に取り組みましょう」


朝の集会で先生が気だるげに言った。
そう、今日は宿泊防災訓練の日なのである。高校生活はじめての宿泊行事が学校で寝泊まりなんてちょっと嫌だなと思ったが、これは大切な訓練である。自分の命は自分で守らなければいけない。
俄然やる気が出てきた俺は、体育着をしっかり着こなし真剣に先生の話を聞き始めた。


「おい!ちょっ、やめろって!」

「パンツださっ」


隣で深瀬が羽柴のズボンを脱がしにかかっている。何やってんだお前ら。
不意をついて体育着のズボンを脱がすのは伝統芸だ。だが今やるな。
隣の列の女の子が「深瀬君ったら〜」とか言いながら熱い視線を送っている。
なぜだ、あいつの今の行動のどこに頬を赤らめる理由があるんだ。女子はわからんな。

チラッと隣に視線を送れば、「ちんあなご」と書かれたパンツが目に入った。


「ださっ!?」


思わず俺まで声をあげてしまったではないか。なんだそのセンスは。


「これ、水族館のお土産で買ったやつ。意外と高くて、お土産はパンツしか買えなかったから大切に着てるんだ」


なるほど。だからチンアナゴの絵と文字が書かれているのか。他に違うものを買う選択肢は無かったのかと疑問に思ったが、「羽柴だから」という理由で片付いた。


***


最初に避難訓練を終えた俺たちは、その後消化器の扱い方や心肺蘇生法の講習を行った。
こういう講義に限って時間がたつのは早いもので、今日一日のカリキュラムは全て終わってしまった。
普段の授業はあんなに長く感じるのに不思議なものだ。
それにしても、胸骨圧迫があんなに疲れるものだなんて初めて知った。肩が痛い。




「一階の教室は女子部屋で、二階の教室は男子部屋にします。それぞれ毛布などをここから持って行ってください」


なんだ、男女で部屋分けるのかよ。
まぁ当たり前か。少しでも僅かな希望を抱いていた分、落ち込みようが半端ない。

俺たちは教室の床にダンボールやら緩衝材やらを敷き詰め、毛布を各自1枚ずつ持っていった。


「俺、こんなんじゃ寝れねーよ…」


隣にいた深瀬がぼそっと呟いた。
お前はお気に入りの人形が無いと寝れない女子か。男ならどこでも寝れるぐらいの度量を持ちやがれ。


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