3-3

宮永さんが教室を出て行った後、すぐに深瀬が帰ってきた。


「福田終わったー?」

「お前…!全部俺に押し付けやがって」

「全然終わってないじゃん。まったく福田はぐずだなぁ」

「俺がぐずならお前はクズだ!」

「言うじゃん」


深瀬は反省の色も見せずにケラケラ笑っている。くそー腹立つ。あの優しい宮永さんとは大違いだ。同じ人間とは思えん。


「…なんか良いことあった?」

「え?」

「顔がにやけてる」


さっきの宮永さんとのやり取りを思い出していたら、どうやらにやけてしまっていたようだ。
ふふふ。だが深瀬、お前には教えてやらない。


「さっき宮永さんが教室を出て行ったの見た」

「なんだ知ってるのかよ」


ちぇっ。俺だけの思い出にしとこうと思ったのに。知ってて聞いてくるのはタチが悪いぞ。


「キスでもした?」

「はぁ?」

「え!してないのにそんなニヤついてるの!?福田きもっ」

「このぐらい別にいいだろ!俺はお前みたいに恋愛経験が豊富じゃないんだよ!」


深瀬が突拍子もないことを聞いてきた。
俺の顔まで馬鹿にしやがって。お前がイケメンだから余計にムカつく。
そもそもなんで急にキスが出てくるんだよ。


「というか急にキスとかするわけないだろ!お前は女の子とすぐするのか!?」

「…そういえばこの前された」

「え」


それから俺たちは男2人だけで恋バナを始めた。
なんか青春って感じでいいな。イメージはテラスハウスだ。


「この前違うクラスの女の子に一緒に帰ろって言われたから帰ったんだよ」

「う、うん」


くそっ!この時点で羨ましい。俺なんか高校生になって以来、毎日一人で帰ってるというのに。この際お前でもいいから一緒に帰ってくれ。


「そしたら帰り際に急にキスされて、『好きなの』って言われたから『ありがとう』って言ったら『それだけ…?』って聞かれて『うん』って答えたらビンタされた」

「な、なんだそれ…。女子って怖いな」


のろけ話でも聞かされるのかと思いきや、なかなか衝撃的な話だった。深瀬相手にそんなことができるなんて何奴。
深瀬に告白でもさせたかったのだろうか?
モテすぎるのも大変だな。俺もそんな経験してみたい。


「さすがに俺でも引いちゃうよ」

「俺、お前に散々貶されてきたけど、こればっかりは同情する」

「福ちゃん慰めて」

「俺じゃなくて可愛い女の子に慰めてもらうんだな。お前のその携帯のアドレス帳にたくさんいるだろ」

「福田のアドレス帳は家族と俺しかいないもんね」

「その通りだよ!」


声を上げてそう言えば、深瀬は腹を抱えて笑っていた。楽しそうで何よりだな。
だが1つ間違っていることがある。実際登録している連絡先はお前だけだ。家族はいないからな。なんかもっと惨めに思えて泣けてきた。今度雅人さんの連絡先聞こう。

そんなこんなで俺たちは日誌を書き終えた。
だいぶ時間かかってしまったな。バイトの時間まで結構ギリギリだ。


「じゃ、お疲れ。部活がんばれよ」

「じゃあね。福田もバイト頑張って」


てきとうに別れを告げた俺たちは教室をあとにした。

夕日が廊下の窓から差し込んでいる。
茜色の光が横から深瀬を照らし、肌が陶器のように白くみえ、栗色の髪の毛は金色に光り輝いていた。その姿があまりにも美しくて、まるで絵を見ているようだと思った。


19

目次
しおりを挟む