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「あー、めんどくさい…。福田一人でやってよ」

「ふざけんな。お前も日直だろ」


今日、俺たちは日直だった。
そのせいで迅速に帰宅することを目標としている帰宅部の俺は、帰宅部として恥ずるべき居残りをさせられていた。
そして目の前で気だるそうに座っているこの男もまた日直である。


「帰宅部だからどうせ暇でしょ。俺部活あるし」

「帰宅部だからこそ早く帰りたいんだ。それにこの後バイト入ってる」


帰宅部イコール暇とか、なんという偏見だ。あながち間違いではないけど。
だがしかし、最近の俺はバイトを始めたことによって「暇な帰宅部員」から「少し忙しい帰宅部員」にランクアップしたのだ。


「福田バイトしてたっけ?」

「ちょっとお金が欲しくて」


深瀬は興味無さそうに「へぇー」とか言いながらペン回しをしている。
最初は携帯のためだけに始めたバイトだが、社会勉強にもなるし今ではやりがいを感じているのだ。


「深瀬、さっさとやって早く帰ろう」

「わかってるって。えーっと…授業の内容と今日の出来事書けばいいんだよね」


ぶつぶつ言いながら深瀬はペンを進めた。
いつも思うんだけど、日直がやる仕事って本当に必要なのか?そもそも先生がやれば良くない?
心の中で日直の存在意義について物申していると、どうやら深瀬が書き終えたようだ。

どれどれ、授業の内容は…『寝てたから分からない』
しょ、正直者だな。
今日の出来事は…『福田が昼休み後の授業で勃起していた』


「うぉおい!書き直せ!今すぐ書き直せ!」

「えー。せっかく一生懸命書いたのに」


どこが一生懸命なんだ!?
お前は一生懸命俺の股間見てただけだろ!

というか…


「バレてた…?」

「うん。ポッケに手を入れるフリして押さえつけてたよね」

「どんだけ凝視してんだよ」


いや、違うんだ。
別にやらしいことを考えてたわけではない。眠くなると急に勃つ生理的なアレだ。そう朝勃ちみたいなもん。これは同じ男なら誰でも経験したことがあるだろう。


「ちゃんと抜いとけよ」


そう言いながら深瀬は意地悪い笑みを浮かべた。
正直、最近抜く暇が無いのは事実だ。共同部屋となると、タイミングを見計らうのが難しい。中学生のとき女性職員に見られてから、どうも慎重になりすぎているのかもしれない。今思い返してもあれは地獄だった。

いや、俺の下の話はどうでもいい。
とりあえずこの日誌を早く終わらせて帰りたい。
俺が出席人数と欠席者を書いていると、突然教室の扉が開いた。


「優太ー!なんか顧問が呼んでんだけど、今大丈夫ー?」

「全然大丈夫ー!今行く」


全然だいじょばないだろ。
深瀬は剣道部の友達に呼ばれると、俺のことなんか御構い無しに教室を出て行ってしまった。まったく自分勝手なやつだ。


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