3-1 「あー、めんどくさい…。福田一人でやってよ」 「ふざけんな。お前も日直だろ」 今日、俺たちは日直だった。 そのせいで迅速に帰宅することを目標としている帰宅部の俺は、帰宅部として恥ずるべき居残りをさせられていた。 そして目の前で気だるそうに座っているこの男もまた日直である。 「帰宅部だからどうせ暇でしょ。俺部活あるし」 「帰宅部だからこそ早く帰りたいんだ。それにこの後バイト入ってる」 帰宅部イコール暇とか、なんという偏見だ。あながち間違いではないけど。 だがしかし、最近の俺はバイトを始めたことによって「暇な帰宅部員」から「少し忙しい帰宅部員」にランクアップしたのだ。 「福田バイトしてたっけ?」 「ちょっとお金が欲しくて」 深瀬は興味無さそうに「へぇー」とか言いながらペン回しをしている。 最初は携帯のためだけに始めたバイトだが、社会勉強にもなるし今ではやりがいを感じているのだ。 「深瀬、さっさとやって早く帰ろう」 「わかってるって。えーっと…授業の内容と今日の出来事書けばいいんだよね」 ぶつぶつ言いながら深瀬はペンを進めた。 いつも思うんだけど、日直がやる仕事って本当に必要なのか?そもそも先生がやれば良くない? 心の中で日直の存在意義について物申していると、どうやら深瀬が書き終えたようだ。 どれどれ、授業の内容は…『寝てたから分からない』 しょ、正直者だな。 今日の出来事は…『福田が昼休み後の授業で勃起していた』 「うぉおい!書き直せ!今すぐ書き直せ!」 「えー。せっかく一生懸命書いたのに」 どこが一生懸命なんだ!? お前は一生懸命俺の股間見てただけだろ! というか… 「バレてた…?」 「うん。ポッケに手を入れるフリして押さえつけてたよね」 「どんだけ凝視してんだよ」 いや、違うんだ。 別にやらしいことを考えてたわけではない。眠くなると急に勃つ生理的なアレだ。そう朝勃ちみたいなもん。これは同じ男なら誰でも経験したことがあるだろう。 「ちゃんと抜いとけよ」 そう言いながら深瀬は意地悪い笑みを浮かべた。 正直、最近抜く暇が無いのは事実だ。共同部屋となると、タイミングを見計らうのが難しい。中学生のとき女性職員に見られてから、どうも慎重になりすぎているのかもしれない。今思い返してもあれは地獄だった。 いや、俺の下の話はどうでもいい。 とりあえずこの日誌を早く終わらせて帰りたい。 俺が出席人数と欠席者を書いていると、突然教室の扉が開いた。 「優太ー!なんか顧問が呼んでんだけど、今大丈夫ー?」 「全然大丈夫ー!今行く」 全然だいじょばないだろ。 深瀬は剣道部の友達に呼ばれると、俺のことなんか御構い無しに教室を出て行ってしまった。まったく自分勝手なやつだ。 17 目次しおりを挟む |