2-9

***

「俺は携帯を手に入れた」

「へぇ。…で?」


そう、俺はついに現代っ子の仲間入りを果たしたのだ。
人生で初めて携帯を手に入れ、舞い上がっていた俺はとりあえず深瀬に報告してみた。
そしたらこの返事だ。「良かったな!連絡先交換しようぜ!」的な返事を期待していたのに、素っ気ない深瀬の反応に拍子抜けしてしまった。


「もっとさ、こう…『連絡先交換しよ!』みたいなこと言ってくれないの?」

「じゃあ…交換しよ?」


めんどくさそうな顔で仕方なく言った深瀬に多少不満はあるが、この機会を逃せば一生交換してくれなさそうなのであえてなにも言わなかった。


「え、えっと…どうやるんだっけ…?」

「はぁ?」


そう、俺は今まで携帯を含む電子機器とは無縁の生活を送ってきた。パソコンすらあまり触ったことが無い。機械音痴の中の機械音痴。じじばばレベルなのだ。
携帯を買ったは良いものの、どうすればいいのか分からず、何も弄ってなければ設定もしていない。画面には『結斗さん、ようこそ』という文字が出ているが、俺は一体誰に招待されているのだろうか。怖い。


「し、しばらく触ってなかったから…」


あまりにも苦しい言い訳だろうか…。深瀬が怪訝な顔でこちらを見ている。


「…お前、携帯はじめて買ったの?」

「ギクゥ!な、なぜ分かった…」

「本当にギクゥ!なんて言葉を言いながら驚くやつ初めて見た。…まったく、強がって壊れたとか嘘つくんじゃねぇよ」


嘘がバレて急に恥ずかしくなった。別に強がって嘘ついたわけではないが、良い言い訳も見つからなかったので何も言わない。


「貸してみ」


そう言いながら深瀬は俺の携帯を奪い、なにやら難しそうな操作をしだした。
なにをやっているのだろうか。俺には全くついていけない。


「はい」


そう言って返された携帯の画面には、『深瀬 優太』と書かれていた。
連絡先を登録してくれたらしい。なんだかんだ言って優しいなお前は!さすが名前が「優太」というだけある。


「これ、どうやってやったの?」

「やだ、教えない」

「なんでだよ!」


全然優しくなかった。もう「鬼太」とかに改名しろ。
このまま分からなかったら、深瀬以外の人を登録できないじゃないか。羽柴たちに聞けば良いんだろうけど、「なんでそんなことも知らないの?」とか言われて、まためんどくさくなるのが落ちだ。
どうしたものか…と悩んでいると、深瀬がまた俺の携帯を奪った。
こいつ奪うの好きだな。寝取られモノとか好きそう。ごめんてきとうに言った。


「…おい。俺の携帯で自撮りするなよ」

「記念すべきアルバムの一枚目は俺にしとこうと思って」

「やめろ」


「童貞奪っちゃったっ」とか言いながら、どこぞの女の子のモノマネをしている深瀬に呆れていると、目の前に羽柴が通った。


「あ!羽柴!これ見て!」

「お!携帯治ったのか!良かったな!」


そう言いながらどこかへ行ってしまった。

いや、連絡先聞かないんかい!
ロリっ子☆プリンセスの話したいから、連絡先交換しよって言ったのお前だろ!お前は忘れてても、俺は覚えてるからな!
というかロリっ子☆プリンセスってなに!?いまだに分からない!

落ち込みながら深瀬に視線を戻すと、「プークスクス」と笑っていた。


「…笑え。どうせ俺は、誰からも連絡先を聞かれない寂しい男ですよぅ…」

「まぁまぁ、そう落ち込むなって!ほら、今なら無料で俺とツーショットが撮れるよ」

「普段は金とるんかい」


深瀬がカメラを向けてきたので、反射的に近づいてニッと笑った。そのとき僅かな柔軟剤の香りと、深瀬本人の匂いが絶妙に混ざった香りがして、一瞬ドキッとした。もし俺が女の子だったら、絶対好きになっていただろう。

アルバムの2枚目は、深瀬とのツーショットになった。うん、よく撮れてる。
別に写りが良いわけではない。ただ、この画像の中の2人は本気で笑っていた。だから良いと思った。
それにしてもこいつ、破顔してもイケメンだな。俺なんか、笑いすぎて目が線になっている。

そんなことを考えていると、深瀬が俺の携帯を「はい」と戻してきた。よく見ると、ホーム画面がさっきのツーショットになっているではないか。


「俺、お前のことが大好きみたいじゃん…」

「大好きだからいいじゃん」

「じゃあいっか。ってなるか!」

「それじゃ、俺この後部活だから」

「あ!おいっ」


そう言って深瀬は教室を出て行った。

確かに深瀬のことは好きだが、それは友愛的な意味でだ。それに女の子ならまだしも、男子高校生がツーショットをホーム画面にするのはちょっとイタくないか?とくに俺がやると。

そんなことを考えつつも、ホーム画面の変更の仕方が分からないので、しばらくこの画像のままだったのは言うまでもない。

二章終わり



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