2-7

休憩を終えた俺たちが行った先は視聴覚室。
ここで行うのは聴力検査だ。これ待ってる間、退屈なんだよな。喋っちゃいけないし。

部屋の隅の一点をぼーっと見つめていると、深瀬が脇腹をくすぐってきた。


「はぁっ…くっ…あはっ!」


おい!やめろよ!静かにしろって言われてるだろうが!
俺は脇腹のくすぐりにめっぽう弱いんだ。キッ!っと深瀬の方を睨めば、深瀬はニヤニヤとムカつく表情で笑っていた。とか言いつつ俺も、目は睨んでいても口は緩く笑っているのだろう。

悪戯好きの代名詞と言っても過言ではない深瀬が次にロックオンしたのは羽柴だ。羽柴の耳元に近づいた深瀬は、そのまま息を吹きかけた。
「あぁ羽柴よ…アーメン」と心の中で祈れば、羽柴の口から「ひょわっ!」と、なんとも情けない叫び声が聞こえた。

しばらく3人でクスクス笑いながらふざけてたら、遂に「福田と羽柴!いい加減にしろ!」と先生に怒られた。
なんで元凶の深瀬は何も言われないんだ!
そう思い、深瀬に目をやると、サッと前を向いて他人のフリをしやがった。おのれ覚えてろよ…。

くだらない事をしていたら、いつのまにか成瀬の番になったらしい。


「それでは、音が聞こえたら手元にあるボタンを押してください」

「はい」


耳に機械をあて、真剣な面持ちで成瀬は検査を始めた。もっと気楽にいけばいいのに。


「…シのフラット」


ん?なんだ「シのフラット」って。俺の聞き間違えか?


「…っ!ド、ドのシャープっ!」


こめかみに汗がつたい、真剣な表情で成瀬はボタンを押しながらそう言った。
やはり聞き間違えではなかったらしい。まさか、音階も当てなければいけないと思っているのだろうか。
いや聴力検査がそんな難しいことを要求するわけないだろ!
というか俺、音楽とかあまり詳しくないんだけど、聴力検査の音とか音階あんの?


「あいつ、なに言ってんの。なんか間違えてね」

「すっげー真面目な顔してるけど」


そう言いながら深瀬と羽柴は口に手をあて、笑いを堪えながら肩を震わせていた。
そして成瀬の絶対音感検査、いや、聴力検査も終盤に近づいてきたらしい。


「はい、これはどうですかー」

「…くっ!…わかりません…」


そう言いながら手元のボタンを押した。
いや、分かってるじゃん。それで良いんだよ。


「はい、おっけーです。よく聞こえてますね」


だろうな。
というか検査してる人もつっこめよ。
帰ってきた成瀬を見ると、精根尽き果て、やつれた顔をしていた。
なんか成瀬って、たまに抜けてるところがあるよね。


「去年より聴力落ちたかも…」


いや、アンタの聴力は完璧だよ。
そう思ったが声には出さず、「お疲れ…」と声をかけた。
となりで口と腹を抑えて笑ってる深瀬と羽柴がいた。


「福田と羽柴ァ!反省文書きたいのか!」


…先生。だからなんで深瀬が入ってないの。

この世界は理不尽なことだらけだ。
そう思う一日だった。


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