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「最後福田の番だよ」

「あ、うん。深瀬は身長いくつだった?」

「179cm。ちょっと踵浮かせれば良かった」


「そしたら180いったのに」とか言いながら戻ってくる深瀬と交代で身長計に乗った。


しばらくしたら深瀬がこっちに向かって歩いてくるではないか。
忘れ物でもしたのだろうか。


「顎引きすぎちゃダメだよ福田。もう少し上向かなきゃ」

「…へ?…ぁっ…ちょっ…」


急に耳元に近づいてきたと思ったら、周りに聞こえるか聞こえないかぐらいの妙に色っぽい声で深瀬はそう言った。吐息が耳にかかる。擽ったいような、ゾクゾクするような。

そして顎を親指と人差し指の間に挟まれたかと思うと、そのままくいっと上を向かせられた。
えっと…いわゆる顎クイってやつだ。
いつか女の子にやってみたいとは思っていたが、まさか男にやられる日が来るとは…。


「…っ」


上を向かせられた拍子に、深瀬のハニーブラウンの瞳と目が合った。そこにいつもの胡散臭い笑いは無く、その表情からは何を考えているのか分からない。


「ちょっ…ふ、深瀬…?」

「…」


何秒見つめあっただろうか。いい加減気まずい。
それにしても改めて見るとこいつイケメンだな…。
深瀬の端正な顔に圧巻してぼーっと見つめていると、彼は不意に目を細めてふっと笑った。
深瀬お得意の、悪戯な笑みだ。


ガンッ

「いてっ!」


思わぬ展開に不覚にもドキドキしていたら、急に頭に硬いものが当たり衝撃が走った。
深瀬が身長計の頭に乗せるやつを勢いよく降ろしてきたのだ。


「えーっと、福田は153cm」

「そんなわけないだろ!痛い痛い!首曲がってるから!」


なんてやつだ。
俺の自己紹介を捏造した上に、身長まで捏造するつもりか!


「ちょっ、助けて…」


周りに助けを求めたが、成瀬と羽柴は2人で話をしていてこっちに目もくれない。係の人に至っては深瀬に熱い視線を送っている。
勘弁してくれ。


結局俺はもう一度計り直してもらった。
結果は…まぁ…またいつかね…。別にこの4人の中で1番身長低かったとか気にしてるわけではない。…気にしてないからな!


「成瀬と羽柴ー!福田の身長168cmだってよー!」

「お、おまえぇ…!」


俺は深瀬を許さない。


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