大空のリング戦B
観覧席に戻ると人が増えていた。警戒しながら近づくと全員知っている人。
重傷を負っている一人の人物をイスに縛りつけて数人がかりで拳銃を向けるという厳重警戒体制。
「こんばんは……」
「あれ!? 紗夜も参加してんのか!?」
「うーん……ほとんどしていませんね」
赤外線センサー内に閉じ込められているのはディーノさんと数人の部下、そして憎たら羨ましいロングヘアーの男性。艶のあるストレートヘアー。もし仲良くなれたら手入れを伝授して欲しい。そんな日が来たらいいな。絶対来ないだろうけど。
観覧席にはディーノさん率いるキャバッローネファミリーと山本くんが死なせてしまったと遺憾の意で告げた人がいた。……生きて、たんだ。
話したことのない人でも生きているのを知ったら自然と口もとが緩む。
「なんでディーノさんたちが増えてて……あ、イスどうぞ」
ふかふか座り心地抜群一度座ったらもう立ち上がれないイスを怪我人に使ってもらおうとしたのだが、赤外線センサーのせいで受け渡しできない。ロン毛さんが座っているのは硬い車イス。今だけでもふかふかイスに座ってもらいたかったができなかった。そもそも車イスに縛り付けられて立ち上がれないから私のイスには座ることできない。
怪我人の横で優雅に座るのもアレだし私もみんなみたいに立っていようかな。
「なんでチェルベッロは紗夜を観覧席の外にいさせてるんだ?」
「紗夜が白虹の守護者だからだ」
「なんでディーノさんたちが増えているんですか?」
私としてはこちらの方が重大な疑問だ。身体中包帯ぐるぐるの怪我人をここに連れてくるなんて……。よくよく考えたら獄寺くんも一度お見舞いに行った時身体中包帯ぐるぐるだった。マフィアに怪我の具合は関係ないのだろうか。恐ろしい組織。さすが裏社会。
「オレというより……こっちだな。スクアーロを連れてきたんだ。こいつには話してもらわないといけないことがある」
……訳ありみたいな雰囲気を出さないでくださいよ。
「へ、へぇ〜。そうなんですかぁ〜」
下手っくそか。なんでロン毛さんは自分の話をされているのに気にならないでスクリーンだけを眺めていられるんだろう。私だったら名前が出るとなんの悪口かなと不安になって集中できなくなるというのに。
大空の戦いはピークに達している。私が学校をうろうろしている間に零地点突破改という技に進化したそうだ。
遠慮なしの全力のぶつかりあい。綱吉の死ぬ気の炎とXANXUSさんの憤怒の炎がぶつかって拮抗して……大爆発した。スクリーンは黒煙で何も見えない。
数秒経つと煙が晴れて……立っていた人物に絶望を与えられた、がすぐに立ち直った。先に姿を見せたのはXANXUSさん。手が凍るという超常現象を起こして。少し離れたところでは綱吉が些か唖然としていた。ローマ文字の10、]のついたグローブを直視して。
「恐らくこれが初代のあみだした零地点突破」
「!!!」
リボーンはボンゴレの歴史に詳しい。誰も知らないことを次々と教えてくれる。炎を凍らした技。炎と氷どちらが強いかの証明が今されました。答えは氷です。私は今まで炎だと勘違いしていた。氷って炎で温めるから溶けるじゃない。だが綱吉が編み出した氷は死ぬ気の炎を凍らせた。二度と解けることがない氷。
『そのキズ……お前が前にも全身に零地点突破を受けた証拠』
綱吉がXANXUSさんの負けを宣言する。見下していた中学生に手を凍らされて負け犬扱いされたXANXUSさんは憤慨して凍った手を膝に打ちつけて氷を砕こうとする。しかし氷の方が強く膝が負傷した。血が飛び散る。
『無駄だXANXUS。これ以上やるのなら…9代目につけられたその傷ではすまないぞ』
観覧席は驚きに包まれる。
……私も驚いた。現ボンゴレボス9代目が傷をつけたことにではなく、綱吉がボンゴレのトップシークレットを知っていることに。リボーンの顔を見る限りリボーンも知らなかったよ。たぶん。ポーカーフェイスのリボーンから読み取ることは難しいから絶対ではないが、何も言わないでスクリーンを眺めているから。
『だまれ!!』
図星の反応。怒り狂ったXANXUSさんは綱吉に向かっていく。攻撃は単調で簡単に見極められ、綱吉に一発腹を殴られて血反吐を吐いた。膝をついたXANXUSさんに綱吉は
『零地点突破ファーストエディション』
全身を凍らせていく。
観覧席でロン毛さんがやめろと叫んだが綱吉に届くわけがない。観覧席の声は大空戦の参加者たちの元まで届かない。ロン毛さんの声は大きいからもしかしたら届いているかもしれないが。私は耳を塞いでいる。難聴になってしまうから。
XANXUSさんの全身が氷に包まれた。二度と解けることがない氷で仮死状態にされた。綱吉が凍らせた氷は日の光や温もりや熱で解ける氷とは全く別物。
………………あったま、いた。私の頭では理解が追いつかない。
それでも綱吉が勝ったことは事実。わーい、と心の中でバンザイする。死人誰一人出ずに終わったぞ。
「“揺りかご” の後8年間眠っていたのと同じようにな」
綱吉がXANXUSさんを冷凍させたことでリボーンが意味不明なことを告げる。みんな驚いているが私にはよくわからない。新規さんに優しくないぞ。“揺りかご” とは……あの揺りかごのことか?
「さあ話してもらうぞスクアーロ。8年前の揺りかごであったことを…」
「おまえらの想像通りだ。9代目に奴は凍らされた…。 …………それだけだぁ」
“揺りかご” が何も分からなくて横の観覧席をじーっと凝視していたらディーノさんが気づいてくれた。「あー……」とリボーンと目を合わせて何か許可をもらう。
「“揺りかご”、紗夜は知らないのか」
「……ホームセンター等で売っている赤ちゃんの眠る揺りかごなら知っています」
8年前までXANXUSさんはその揺りかごで眠っていたんですか、と尋ねると観客席のとあるところから咳が。笑いを堪えている。……想像すると笑いより恐怖だと思うんだ。あの強面が揺りかごに横になっているんだよ。部屋に入った瞬間叫ぶわ。
「“揺りかご” は8年前にヴァリアーが起こした史上最大のクーデターだ」
「名前紛らわしいので変えてください」
「……オレキャバッローネだからそこは口出しできねぇな」
クーデターでいいじゃないか。なんでわざわざかっこつけ……てないな。可愛い言い方にしたんだ。私が恥をかいた。
とりあえず教えてくれたディーノさんは親切心の塊だ。さすが顔も性格もイケメンさん。素直にお礼した。
……………あれ? そういえば一瞬だけ映った体育館の守護者たちの争いの結果はどうなったのだろう。誰もボスの元に来ないけど。
勝利条件をまだ満たしていないからスクアーロさんが喚いても赤外線センサーは解除されない。ボス候補のXANXUSさんが凍らされて生涯仮死状態というむごい負け方をしたのだからもう解除してもよろしいような。
安全なら綱吉の元で救急箱持って待機していようかな、と考えているとヴァリアーの守護者が現れて綱吉に攻撃した。間違えて私の暗殺を部下に命じたのに謝罪を一向にしない男とモヒカンさん。動けない綱吉に攻撃したが幻覚だったらしく途中で消える。代わりに現れたのは藍色のアルコバレーノ。手のひらにはボンゴレリングがあった。
「……白虹の絵柄もある……」
7つ、守護者のリングは全てあった。獄寺くんは負けちゃったということかな? 体育館の攻防一瞬しか映してくれなかったから何があったのかわからないんだよ。クロームちゃんが捕まり、獄寺くんと山本くんが幻術にかかっていたところを笹川先輩が助けたことしか知らない。
リングに秘められた力。藍色のアルコバレーノがつらつらと話していく。前回9代目に凍らされた氷が溶かされた床には8つの小さな焦げ跡が残されていた、と。
『誰がやったかはさだかではないが、この形跡は一つの仮説を立てるに充分だ』
私には仮説が何もわからない。首を捻っていると綱吉が完成させた大空のボンゴレリングとアルコバレーノが持っている守護者のボンゴレリングから炎が灯った。無機質の指輪から。綱吉のはオレンジ。アルコバレーノの手にあるのは赤黄緑青藍紫の6色。私含めた数人は昨夜見た現象にあまり驚かなかったが、一色ないことだけには疑問を持つ。
『んん? 白虹のリングからは炎が出ない。なぜだ?』
昨日私が指につけた途端真っ白な炎を燃え上がらせていた白虹のリングだけは炎が灯らなかった。……昨日エネルギーを使いすぎちゃったのかな! もうっ、白虹だけせっかちなんだから! ……ボンゴレリングって無機物だけど意思ってあるのかな? ………いわくつきの年代物ならあるよね! 深く考えたらいけないよ!
『……まぁいい。6つでもやってみる価値はある』
私の指につけたらまた発火するかもしれないが私の手を借りることはできない。やるしかないよね。ダメ元でもやってみるしかない。
藍色のアルコバレーノはリングから出ている6色の炎をXANXUSさんを凍らせている氷に近づける。
……仮説の意味がようやくわかった。ボンゴレリングが氷を溶かしたのではないか、とアルコバレーノは考えている。理解するの遅いな私。眠たいからかな。二日続けて夜更かしは辛い。
アルコバレーノの仮説は正解。氷はみるみるうちに溶けた。やはり氷より炎の方が強い。
『完全なるボンゴレリングが継承されし時、リングは大いなる力を新たなるブラッド・オブ・ボンゴレに授けると言われている』
『! ボンゴレの…血に……?』
綱吉が血の英単語を知っていたことにとても驚き。
事態はみるみる変化して金髪までもが現れて綱吉の手にナイフを投げて怪我を負わさずにリングだけを奪い取る。……なんであの人一般人にナイフ向けるイカれた男なのに繊細なことができるのだろう。不思議。
XANXUSさんが氷からの眠りにまた目を覚ました。アルコバレーノがXANXUSさんの首にかけているチェーンにリングを全てはめる。綱吉の守護者とチェルベッロさんがグラウンドに駆けつける。金髪がXANXUSさんの指にリングをはめようとする。
「……あ、負けるじゃん」
なんでこんなところで呑気に眺めていたのだろうか。私の将来に関わる案件だぞ。これで勝った方の下僕にならないといけないんだぞ。今すぐ走って止めにいっても私のスピードでは間に合わない。逃亡準備した方がいいな。携帯とお金とパスポートを持って海外に逃亡しよう。念のために夜逃げの準備をしてくるべきだった。
XANXUSさんの中指にリングがつけられる。
それかディーノさんに頼み込んでキャバッローネに就職させてもらおうか。ボンゴレと戦争起こそうぜ、てきな。ディーノさん嫌がるだろうなぁ。じゃあ内藤くんのトマゾファミリー? ……失礼なのは承知だが、彼ら強くなさそうだから一瞬で殲滅しそう。パンテーラちゃんが機敏なことしか知らない。
諦めの境地に至っていた時、突如XANXUSさんが血を吐いた。内臓のいくつかはぶっ壊れたのではないかと心配する量。
『……………リングが…XANXUSの……血を…拒んだんだ……』
白虹よりも呪われているのではないだろうかと心配になる大空のリング。つけたものを吐血させたリングにみんなが言葉を失い静まった空間で、綱吉の声がどこまでも響いていた。