大空のリング戦A


獄寺くんが雷の守護者と、恭弥が嵐の守護者と戦闘最中、私はモニターを眺めながらとあることを考えていた。

先程リボーンが本物の守護者は使命だけでなく関係性も天候に酷似しているんだ、と述べていた。
みんなの天候の使命はもちろん、白虹の守護者の使命すら覚える気がなかった私は何一つ覚えていないが、白虹と関係性がある天候はなんなのだろう。
白虹がそもそもよくわかっていないけど白い虹だよね。兵乱とか不吉な物言いされたけどベースは虹かな? 後でリボーンに聞こっと。

今、見事獄寺くんがヴァリアーの雷の守護者をダイナマイトの怒涛の攻撃でぶっ倒してランボを解毒した。
少しだけ観覧席が活気付く。獄寺くん強い。瞬殺していた。正しくは殺していない。気絶させた。命を尊重する獄寺くんに喝采を送りたい。

次は恭弥と嵐の守護者だ。何千本もの特徴的なナイフを宙に浮かばせる。目を引く華麗な技。戦い方も華麗で、まるでナイフが舞っているようだ。一般人を殺そうとする野蛮人からはありえない繊細な技術。ほお、と嘆息を吐くと変態が憐れむような視線を恭弥に送って私を注意する。変態の真剣な顔は初めて見たかも。


「素直なのは紗夜ちゃんのいいところだが……」

「恭弥だから平気ですよ」

「いやいやっ、あいつベルフェゴールがナイフとワイヤー使いだってこと知らねえから苦戦してるだろ!! 相手は天才なんだぞ!」


あの人ベルフェゴールって言うんだ〜〜。へえ、どうでもよかった。
ナイフとワイヤーを武器とする人と恭弥は戦っている。きれいな高偏差値の顔面にたくさん傷をつけて血を流し、更には腕や足からも血を流す。ワイヤーが目視できない。私には飛び回っているナイフでさえ早すぎて見えない。ワイヤーは肉眼では見えない特殊な素材らしいから余計見ることはできない。


「ん〜〜大丈夫じゃないですか」


なぜ変態が心配するのか。不思議だな。恭弥が勝負してんだぜ。恭弥だよ。象に打ち勝った恭弥だよ。ほら、見てみなよ。リボーンとコロネロも全く心配していない。


「恭弥が負けるとか───」


スクリーンでは恭弥が尻もちをついていた。金髪は勝利を確信してナイフを投げつけて


「ありえませんって」


受け止められていた。素手で特殊な形状のナイフを掴む恭弥。恭弥に勝負をしかけた時点で金髪の負けだ。
恭弥はもしかしたら生まれた時から人間やめてたんじゃないかな。私はあの人にナイフを投げつけられた時へたれこむことしかできなかったというのに。気分で見逃してもらえたラッキーガールだというのに。


「まあ骸には負けたけど」


恭弥はワイヤーを仕込み玉鎖で断ち切り、撃退に成功する。今度から恭弥のことは人間ではない別の次元の生物だと認識していこう。
金髪は集団戦だから恭弥に時間かけずに他のリングの元に行った。頭がいい。利口な人だ。撃退には成功したが金髪に怪我はない。次はどこに向かったのか。雨か晴か霧か……………ん?


「なに…? みんな揃ってこっちを見て……」


突き刺さる視線。金髪の行き先を考えるのは中断してみんなに恐る恐る伺うと何人かはため息をつき何人かは同情の視線をモニターに向けた。


「そうだビョン! 骸さんは強いんらからな!!」

「好きな子にそんなこと言われてるなんてあのガキは知らねーんだろうな。可哀想に」

「骸贔屓が集まるとめんどくせぇ」

「……なんでみんな急に骸のことを…」


………………もしかして、声に出してた?

恭弥が骸に負けましたよ事件。恭弥に聞かれたら命が危うくなってしまう事件。口に出してはいけない内容だとは承知しているのに口が滑ってしまうことはよくあるよね。……恭弥にさえ聞かれなければいいか。


一人納得して、大空の空中戦をまた眺めていた私はやにわに叫ぶこととなった。


「…………………いるじゃないか!!」


スクリーン越しじゃなくても数歩移動すれば肉眼で戦いが見られる場所に恭弥がいたぞ。
白虹のリングの存在を思い出した私はリングを渡そうとふっかふかな、お尻をはなしてくれないイスから根性で立ち上がった、がもうその時には誰もいなかった。
















死ぬ気の炎とは誰にでもあるもの。生命エネルギーに近いもの。前世とは違う世界の現世では死ぬ気の炎は誰もが持ちうる生命エネルギーなのだ。生命エネルギーは生きていくに必要なエネルギー。生命が活動するにはなくてはならない大切なもの。
それほど大切な死ぬ気の炎を敵もいないのに綱吉は垂れ流しにしている。ノッキングするような不規則なオレンジ色の炎。親指と人さし指で三角を作り、何かを狙っているような。

その技は死ぬ気の零地点突破という、綱吉がずっと取得するために修行していたものだそうで。XANXUSさんは綱吉の炎の無駄遣いの正体がわかると間髪入れずに攻撃を繰り出した。今までは手加減してくれていたんだ、と思い込ませるほどの段違いのスピードと猛烈な攻撃。
綱吉はXANXUSさんの攻撃を何度くらっても同じポーズを取り続ける。時間のかかる技みたいで出すまでに隙が沢山できてしまう。死ぬ気の零地点突破の弱点をXANXUSさんが見過ごすはずはなく、真上から銃を連発した。今度は避けることもできず…………直撃した。


見ていられなかった。目をつぶって顔を逸らす。
眩い光が学校を覆う。大空戦の試合を観戦できていない守護者たちは何が起こっているのかわからない。


観覧席にいる人たちからの声で綱吉に何かがあったことだけは理解できた。悔やむ声に息を呑む音に信じられないと疑う声。


『ふっ 死んだか…。バカなカスめ。てめーの死期をてめーで早めやがった』


信じたくなかった。だがスクリーンからはXANXUSさんの声が鮮明に届く。聞きたくないのに……っ!

先程まで関係性がうんたらかんたらと余裕を持っていたのはなんだったのか。守護者同士の戦いはどこも有利だったが、肝心のボスたちの戦いは追い込まれていたのだ。
綱吉はつい最近まで普通の中学生で普通の生活を送ってきていた。たった数週間で暗殺部隊とやりあえれる実力なんてつくわけがないんだ。獄寺くんや恭弥といった元々基礎が出来上がっていた、裏の世界を知る者たちとは違う。勝てる、わけがないんだ。なんで、私は止めなかったんだろう……っ。

今更後悔しても遅い。恐る恐る目を開くとXANXUSさんの拳銃での攻撃によってでこぼことしている地面に横たわる綱吉がいた。手からも額からも生命エネルギーの象徴である死ぬ気の炎は消えていた。


「…………………よ、つなよし…」


XANXUSさんはとどめをさそうとしている。


「……、綱吉……お願いだから……」


やめてよ、死なないでよ。
痛いんだよ苦しいんだよ辛いんだよ。

痛いよお腹がいたい。


ねえ、だれか助けて


「死なないで……………綱吉、お願い……」


リングを握りしめて祈る。
白虹の守護者はあらゆる全てをつなぐ架け橋。もし私にそんな力があるのなら……。お願いします、綱吉の命を現世と繋いでください。あの世に行かせないでください。

震える手で縋っているとスクリーン越しに大きな音が響きXANXUSさんの驚いた声が。周りからは歓喜。


よかった。
生きてたんだ。


視線を上げるとスクリーンには大きな炎を額に灯し希望を失わずにXANXUSさんを睨みつける綱吉がいた。

綱吉はXANXUSさんの死ぬ気の憤怒の炎を中和したことで無事だったらしい。その技こそ初代が使ったという死ぬ気の零地点突破、と綱吉とリボーンは解釈した。しかしXANXUSさんは高らかに笑う。全く違う、と。使い手が大怪我を負う技がボンゴレの奥義ではない、と。


ちょっとよくわからないがとりあえず今のうちに私は用事を済ませてこよう。
ふらりとイスから立ち上がる。ふかふかのイスは今度は簡単に私をはなしてくれた。


「どこ行くんだ」


おぼつかない足取りで観覧席を離れようとした私にコロネロがすぐさま気がつく。


「リング……渡して、くる。ここからなら、晴のフィールドが一番近い」


正門前にいるはずだ。まだ解毒していなければ。

もともとはっきりとしていたが、さらに明瞭となった。
XANXUSさんの下につく自分を想像することができない。綱吉の下につく自分も想像できないが、一緒に笑い合っている姿はいとも容易く想像できた。これから共に生きていくなら綱吉と綱吉の守護者だろう。ヴァリアーではない。


「気をつけろよ。ベルフェゴールがどこにいるかはわからないからな」

「うん……会わないようにする」


「ありがと」とリボーンにお礼してノロノロと歩き出す。

無事に誰とも遭遇することなく正門前にたどり着いた。足に力が入らなくてとてものんびりな移動だったもので時間は使ったが、ちょうど獄寺くんとランボも正門前に来たところだった。私が手を貸さなくても獄寺くんの手で笹川先輩が解毒される。タイムリミットの30分まであと少し。まだ解毒したか不明なのは山本くんとクロームちゃん。


「……私、何もできないけど……」

「ンなこと考えるな。リング届けてくれてありがとよ」

「オレたちを選んでくれただけで極限に嬉しいぞ」


これから他の守護者のもとに行く獄寺くんに白虹のリングを渡した。下手に触れると手助けと過干渉を疑われる。そうしたら全て終わりだ。綱吉の頑張りもみんなの頑張りも水の泡。手当てもできないしランボを預かることもできない。


「がんばれ……!」

「「おう!」」


応援することしかできないのか。傷だらけでボロボロな年下二人を見守るしか。年下だと思ったことは一度もないが、同学年先輩としかいつもは思えないのだが二人は生きている年数は私より少ない。人間はやはり環境に順応して生きていく生物。中学生に囲まれて中学生までの経験しかない私は中学生以上に見えることはない。私も、みんなも中学生なのだ。


「……がんばって……」


お願いだから生き残って。勝たなくてもいいから全員生き延びて。そしてまた笑い合おう。


獄寺くんを見送り出すと笹川先輩に観覧席に戻るように助長される。できれば綱吉の戦いを近くで眺めていたかったが戦いの邪魔になるだろう。ベッドに縛り付けられているヴァリアーの晴の守護者と笹川先輩に一礼して観覧席に少しだけ早足で戻る。獄寺くんと笹川先輩と話したら不安が少し薄らいだ。

戻る途中、また誰とも会わなかった。獄寺くん以外にも動けるはずの守護者がいるのに……。恭弥とヴァリアーの嵐。他の守護者のもとに向かったと思っていたのに晴のところにいない、ということは……。ベルフェゴールさんは他のリングの元に向かったのだから体育館か校舎のB棟、どちらかでまた血を流す戦いが起こるということだ。


「……がんばれ」


応援しかできない。届くことがない応援をすることしかできない。

観覧席に戻る際に綱吉とXANXUSさんがグラウンドで炎の応酬をしているのが視界に入った。熱風が私のもとまで届く。XANXUSさんの顔にはこの戦いとは無関係の古い傷が広がっていた。なんで?


「……がんばれ…綱吉」


聞こえない声。それなのに綱吉は口角を上げた、ように思える。遠目だから見間違いであろう。たとえ上げていても聞こえるはずがないから偶然に決まっている。


私が今見ているのはマフィアの世界を縮小したもの。マフィアの世界では当たり前の戦い。


「……………なんで、」


諦めてしまったのだろう

受け入れてしまったのだろう

抗うことをしなかったのだろう


ほんの少しだけ押し寄せてきた感情に気づかないふりをして、今度はよそ見せずに観覧席まで足を進めた。