ゆらめく炎を宿した瞳
大空戦開始前。リング争奪戦とは無関係な場で負傷者が出た。
被害者 Dr.シャマルこと変態。加害者 鳴神紗夜こと私。目撃者多数。綱吉にバジルさんにリボーンにコロネロに目つきの悪いヴァリアーボスのXANXUSさんにチェルベッロさん。
加害者は罪を認めなかった。自己辯護を続ける。
私は悪くない
そうやってずっと私は否定していた。その通りだもの。
味方のはずの男子たちの目が痛くても。チェルベッロさんも困惑しているようにも思えるけれど。この一部始終の出来事がどうでもよさそうに表情を変えないXANXUSさんの反応が一番ありがたかった。
目の前には言葉にならない声をあげてもがいている変態。
この惨状に至るまでの説明をするには少し時間を遡らないといけない。
守護者が散らばって少し経った頃、変態とコロネロがこの場に来た。それぞれ骨を拾いに来た、野次を飛ばしに来たと照れ隠しをして。変態が来た瞬間私は遠くに避難。バジルさんとリボーンのところに迅速に退散したのだが変態はなぜか私を視界に入れていた。甘いきざったい言葉と共に名前を呼ばれたが、気がついたら私の足は変態の弱点に向かって振り上げられていた。裏社会で有名だとしても、変態も流石に人体の急所を鍛えることはできなかった。私でもやっつけれた。
そして今に至る。
ここまでわずか一分の出来事。
「……わ、私は!! 間違っていない! だからそこ!! ひそひそ話すのやめろ!!」
リボーンとコロネロが野郎の急所、金的を蹴り上げた私を視線で非難する。同じ男だから同情してんのか。女子はみんな私の味方だからな。こっちはファーストコンタクトで胸を揉まれてるんだよ!! 同年代の男子の前で! あんな悲劇二度と起こさせない。事前に予防するのが吉。
「っ、まだ優しいから!! 警察に連絡していないんだから!!」
変態は獄寺くんの家庭教師をしていたらしく女子に飢えていて、チューさせてくれ、と近づいてきた。だから私のしたことは間違っていない。正当防衛。
この場にいる知り合いが男子だからいけない。女子なら親身になって話を聞いて私に共感する。男子はなぜか自分が攻撃されたように痛みを共感していた。
「おいシャマル。紗夜で遊んでんだろ。紗夜の蹴りぐらいお前も簡単に避けれるだろ」
「……リボーンにはわかっちまうか。いや〜〜オレは攻められるより攻める派なんだけどね。紗夜ちゃんがそっちを求めるならたまにはなぁ」
「きっっっっもち悪いんですよ!!! 私とクロームちゃんに近づくな!!」
「おっ、まだかわい子ちゃんいるの?」
はっ! クロームちゃんの存在こいつ知らなかったのか。私が自ら教えてしまった。くっ……不覚。
クロームちゃんは少し人との距離感がみんなと違う。気がつくとほぼゼロ距離でいつも隣にいてくれる。嬉しいし可愛いし私はそんな気を起こさないけれど……こいつは別だ。こいつに迫られて拒めない子だったらどうすんだ。……絶対近寄らせてはいけない。
「紗夜がここまで敵意丸出しにするやつそうそういねぇぞ。すげーな逆に」
「ちげーよリボーン。紗夜ちゃんは好きなヤツ相手には素直になれない子でな」
「獄寺に『オレに落とせねぇ女はいない』とか言ってたみたいだがすぐそばにいるな」
「そいつだけじゃなくてあいつも絶対に落ちねぇぞコラ」
「あいつはもう落ちてるからな」
「何言ってるかわかんないですけど私を惚れさせたかったらディーノさんを用意することですね!! ディーノさんレベルじゃないと惚れませんから!!」
びしっ、と指をさして変態に宣言したが、少し冷静になると撤回したくなった。私は今、この場から今すぐ消えたくなるほどの発言をしたのではないか? ほら、綱吉やバジルさんが非難する瞳からシフトチェンジしたもの。片一方はそうなんですか、と生暖かい瞳。もう片方は瞳孔が開ききっている。
「……紗夜ってやっぱりディーノさんが好きなの?」
はい、来た。勘違い一歩目の発言。私も言いたいけどさ、イケメン好きじゃない女子っている?? 男子だって可愛い美人な子大好きじゃん。それとおんなじじゃない?? きゃあきゃあ騒ぐのも仕方ないよ。ディーノさんイケメンなんだもの。目の保養なんだもの。いつもディーノさんで例えてしまうから勘違いされるがそれには大きな理由がある。
「私は恭弥と一緒に育ったんだよ……っ」
「え?」
ディーノさん好きなの? の返しが恭弥と一緒に育った。日本語通じてないよね。綱吉が驚くのも仕方ない、けれどこれであっている。
「恭弥の顔が基準で育っちゃったんだよ……っ」
全てこれがいけないんだ。お隣さんが顔の偏差値高いやつだった。だからイケメンには抗体ができてしまった。アイドルや芸能人と比べても恭弥の方が顔いいんだよ……っ!
「あの顔いいやつ性格はイカれてるじゃん……」
「ちょっと待って!? ヒバリさんのことそう思ってたの!!?」
「綱吉だって思うでしょ? あの顔面だけ偏差値高い男は性格いいと思う?」
顔をそらされた。それが答えですね。あ、間違えた。恭弥は顔面と強さと無機物への異常愛だけは偏差値以上だ。
「恭弥でイケメン見慣れてしまった私の元に突如現れたのがディーノさんだよ」
恭弥とは違ったタイプのイケメンさん。アイドルにも負けないイケメンさん。
「性格も良好。天は二物を与えないんだと恭弥で諦めていたけれどディーノさんには二物も三物も四物も与えてるじゃん」
「待て紗夜。ツナのメンタルを勝負前に潰す気か」
イケメンは大体頭の何かがぶっ壊れている、そう信じ込まされていた。だがそんな常識をディーノさんが覆してくれた。
「顔良くて性格良くて気配りできる。それを鼻にかけないし、周りとの関係も良く町民に好かれている。少しドジっ子のところもギャップで可愛いし、信頼しているから隙を見せてくれているのかな、って嬉しくなる」
ディーノさんが学生時代の頃告白されなかったことがとても不思議。罰ゲーム的な告白はされたことあるんだって。その女子どんな頭をしている。ディーノさんにする告白は本命でしかできないだろ。ディーノさんの同級生だったら私ディーノさんに恋してた。リアルではディーノさんを犯罪者にしてしまうから無理だよね。未成年に手を出すことはさせられない。
「あれだけ素敵な人他にいないよねぇ。恭弥も顔だけならドストライクなんだけど性格がアレだから。ディーノさんみたいな性格だったらな〜」
「紗夜」
ディーノさんの良さを語っているとリボーンが飛び跳ねてとぉーっても軽くだが私の口を押さえた。
「今度ヒバリの顔した温厚な奴紹介してやるから今はそれ以上やめてくれ」
「いらない。恭弥が温厚とか気色悪い」
「ヒバリじゃねえ。お願いだ、今だけはディーノじゃなくてツナを褒めてやってくれ」
言い方はいつもと変わらないのになぜか切羽詰まっているように聞こえたのでディーノさん語りはやめた。
綱吉を褒める……………どうした綱吉?
「なんで魂抜けてるの?」
試合前のプレッシャーに耐えきれなかったかな? 褒めたら少しは自信がつくということか。リボーンの考えは安直じゃないかな? それでもやってみるか。
「綱吉」
「…なに……?」
「私は大空戦に参加しないけど」
これだけはラッキーだ。暗殺集団と殺し合いとかなぜみんなできるのだろう。
「綱吉の勝利を願っているから。誰よりも応援するよ、綱吉」
「……────うん。ありがとう。勝ってくるよ」
真剣な面持ちで私に宣言した綱吉はXANXUSさんに向かい合う。XANXUSさんは鼻で笑った。
守護者が各フィールドに到着したとチェルベッロさんが告げる。
それぞれの守護者のフィールドにはポールが設けられていて守護者のリングがあるそうだ。
説明を聞き私はポケットに手を入れる。虹の絵柄のボンゴレリング。一応みんなと同じ種類のリング。少し眺めてまたポケットに戻す。チェルベッロさんの説明に耳を傾け視線を頭上のモニターに向けた。何やらみんな、綱吉XANXUSさんの守護者関係なく全員苦痛に表情を歪める。
「ただ今守護者全員にリストバンドに内蔵されていた毒が注入されました」
「「「!!」」」
何言ってんのこの人!?
「デスヒーターと呼ばれるこの毒は瞬時に神経をマヒさせ立つことすら困難にします」
私含めてほぼ全員が驚愕する。焦燥感に駆られる。だが、たった一人だけ、XANXUSさんだけはまだ口角をあげていた。薄ら笑いを浮かべているXANXUSさんがなぜか同じ人間に見えなくてゾッと背筋に寒気が走る。
「そして全身を貫く燃えるような痛みは徐々に増してゆき30分で……絶命します」
「そ、そんな!」
「ど、どーゆーことだよ!! 大空戦なのになんでみんながこんな目に!!」
「大空であるボスの使命だからです」
晴 雷 嵐 雨 霧 雲 白虹すべてに染まりつつすべてを飲み込み包容することが大空の使命。だから守護者全員の命がボスの手に委ねられる戦いが大空戦の内容らしい。
あっぶな。よかった。いや、危険なことには変わりないけど私は免除となっているから。みんなには悪いが本当によかった。
ホッとする傍らで解毒方法の説明がチェルベッロさんからある。リストバンドの凹みに同種類のリングを差し込めば内蔵されている解毒剤が投与される。大空戦は守護者のリングも重要だということ。
「大空戦の勝利条件はただ1つ。ボンゴレリングを全て手に入れることです」
……ん? 全て? 全てとは白虹のリングも?
もう一度ポケットからリングを取り出す。私は毒に侵されてないからもういらない。先に渡しとけばいいかな?
手のひらに乗せてうろうろと綱吉とXANXUSさんチェルベッロさんに向けているとやはりみんな同じ疑問を抱いたらしい。
「白虹もか」
「はい」
「鳴神殿は参加しないんじゃ……!?」
「参加はしません。解毒も必要ありません。白虹の守護者は毒では絶命しませんから」
「え?」
どういうこと?
私ただの人間だよ? ヴァリアーでも動くことが困難な毒が私ごときに効かないわけないじゃない。
彼女たちは審判の鏡だ。義務的に滞りなく進行をする。私たちの疑問はスルーで綱吉とXANXUSさんにボンゴレリングをセットするチェーンを渡した。綱吉も毒にやられているみんなが心配で早く始めようと急かす。優先順位をきちんとわかっている。毒を注入されていない私より30分で亡くなるみんなの方が深刻なのだから。
「では最後に一つだけ」
「勝負開始後は一切の部外者の外部からの干渉を禁止します。特殊弾もしかりです」
「了解したぞ」
リボーンの返事後、間髪いれずにXANXUSさんが綱吉を殴った。そこらのケンカとは違う、殺意が込められたパンチ。私の真横を通って綱吉は吹っ飛んだ。校舎に突っ込んで瓦礫の下敷きに。
………全然気がつかなかった。風が吹いて、校舎の崩れる音がして、気がついたら綱吉がやられていた。……これが、マフィアの強さ……。
「卑怯だぞXANXUS!!」
「あぁ? 特殊弾を撃つ前はまずかったか?」
開始合図前に攻撃したXANXUSさん。誰もが終わりだと絶望した。綱吉は戦闘不能だと。
────一人を除いて。
「なめんなよ。オレを誰だと思ってる」
リボーンはいつの間にか拳銃を手にしていた。硝煙が昇っている。
綱吉が壮絶な破壊音で己を埋めていた瓦礫を除去して起き上がる。生きていたことに、動けないほどの怪我をしていない綱吉に息をつく。手当てを、と走り出そうとしたらコロネロに止められた。
「ツナ、XANXUSは片手間に戦える相手じゃねーぞ。6人の守護者を救出しながらの交戦は命取りだ。まず……」
「わかってる……」
俯いていた綱吉の顔が───
「先にこいつを片付ける」
上がった。
きれいなキリッとしたオレンジ色の瞳とオレンジ色の炎に、私は息をするのを忘れるほどみとれていたのだ。