唯一無二のプレゼント
よくわからないリングを渡されたのは夢ではなかった。次の日起きたらリングは寝る前に置いた場所と全く同じ場所にあった。動いていたらそれはそれで怖いが。
ベッドから降りると足にピリッとした痛みが走る。そうだ、怪我をしていた。
虹の絵が描かれたボンゴレリングに怪我をした足。着替え直したパジャマに睡眠不足を訴える身体が昨日の出来事を明確にする。
「………はぁーーー…」
制服に着替え、怪我した部位を地面につけないように爪先立ちで階段を降りる。くっ……階段から転げ落ちそうだ。
なんとか一階に降りてリビングで朝食を取る。適当に食べて洗い物をし、カバンを持ってローファーを履いて外に出ると、なぜかいた。
「恭弥……。おはよう」
「……おはよう」
いつも別々で登校するのに。人の家の前で待ち伏せしてどうしたのだろう。ひょこひょこゆっくり歩いて近づいてくる私の姿に恭弥は片眉をあげる。
「歩けないの?」
「歩けるよ。少し振動が辛いだけで」
お、恭弥がいたのはこういうことか? 道路には一台のバイクが停車している。恭弥の愛用のバイク。乗せてってくれるってことかな?
無免許なのかもしれないがこの子はなぜか怒られない。一度並盛町ではない雲雀家の息がかかっていない警察に叱られればいい。もしかしたら免許取っているかもしれないけれど。恭弥のそういうところは知らないし怖くて聞けない。これで無免許と言われたら私乗りたくない。だけど足が痛いから乗りたい。つまり何も知らないのがいいのよ。まだ事故を起こしたとは聞いてないから。
「乗せてくれるの?」
「今日はね」
「いえ〜い。怪我してよかったね」
自虐したら恭弥が顰めっ面になる。ごめん、しないほうがよかったね。私もそう思ってる。
……もしかして待っててくれたのかな? 私は恭弥の登校時間知らないから恭弥だって私の登校時間知らないだろう。知ってても今日は登校に時間がかかると考えていつもより早く出てきたし。……待ってないな。待つぐらいなら恭弥は家に上がってくる。インターホン鳴らす。偶然同じタイミングだったのかな?
「じゃあお願いします」
「ん」
出されたのはヘルメット。フルフェイス。恭弥は被らないが私は被らないといけないらしい。交通ルールを無視するのか守るのかよくわからない人だ。……ていうよりこれ二人乗り専用?
「早くしなよ」
「あ、はい」
紗夜は考えることをやめた
今テロップが流れたぞ。
恭弥はもうすでにバイクに跨って出発する準備ができている。私も早く乗ろうと足を上げたが高い。高くない? 私の足が短いわけじゃないよ? スカートがめくれちゃうよ。
それでも乗れないことはないのでちょっとだけスカートをあげてなんとか乗る。
「乗れたよ……なんでそんな仏頂面」
「……別に。ヘルメットして掴まって」
カバンはどうしよう。背負う? リュックのように背負うしかないのか? いつものように肩にかけるのが正解なの?
カバンの行方を少し考えてからお守りの存在を思い出した。今日京子ちゃん達と一緒に綱吉たちに渡す約束をしていたのだ。クロームちゃんと骸の分だけもう渡したけど。
「恭弥これ」
「……何これ」
「一応お守り」
交通安全ではないけど。必勝祈願と安全祈願をこめたお守りだと伝える。交通安全じゃない安全だけどね。
恭弥は渡されたお守りをまじまじと見つめる。ドキドキしながら後ろから表情を覗くと
「………………」
とても柔らかい笑みをしていた。やべぇ惚れる。たまに見たことあるけれどこの私手作りのゴミのようなお守りにするとは……。もしかしてここにいる恭弥は恭弥のそっくりさんじゃない? 全くの別人じゃない?
「紗夜が作ったの?」
「……うん」
「紗夜が僕に……」
別人だよこの人。声も柔らかかった。昨日9代目をしばらく放置した私を暗殺に来た殺し屋かな? 身の危険を感じてバイクから降りようと跨いでいた足を戻そうとしたけど、やっぱり恭弥だったからやめた。
「ふっ 下手くそ」
「それが私の全力なんです」
嘘でもお世辞を言わない。正直に感想を述べる。
裏話だが作っている時にふと頭に浮かんだんだよ。恭弥がお守りなんかに頼るわけがない。神様にすがるわけない。自分の力しか信じていない。恭弥にお守りは必要ないと確信したのは作り終わった後だ。
どうせ捨てられるのなら私の手で処分するべきだったな。渡す必要なかった。
「これなんて書いてあるの?」
「……一応、必勝と安全」
「読めない」
「知ってるよ!!」
字が潰れているのはみんなわかっているんだから!! “勝” は画数が多いんだよ!!
「この線は?」
「……………一応トンファー」
「線だよ」
トンファーはどうやって刺繍すればいいのかわからなかった。出来上がった刺繍は初見でトンファーだとわかる人はいない、ただの線でしかない。でもそれが私の全力なんだよ。
「僕にお守りなんて必要ないけどね」
「っじゃあ返せ!!」
恥ずかしくなって奪い返そうとしたができなかった。恭弥に勝つとか無理だった。
「仕方ない。もらってあげるよ」
「いいよ貰わないで! どうせ捨てるんでしょ!!」
「さあ。僕のものを僕がどう扱おうが紗夜に文句を言われる筋合いはない」
「返せ!!」
「嫌だね」
恭弥はそのままなぜか学ランのポケットに入れやがった。どこに捨てる気だ。学校と家、どちらだ。唯一救われたのは恭弥は見せびらかす友達がいないから私の下手くそなお守りが誰にも見られることがないことだけ。
「早く被って掴まって」
くっ……!
お守りの回収は失敗して悔やんでいたら恭弥がヘルメットを被らしてくる。さっさとしろですか。すみませんね。
エンジンをかけてバイクが動き出す。私免許取ったとしても二輪車を運転できる気はしない。自転車は乗れるんだけどバイクは難しそう。その点だけはすごいな、と恭弥の黒い背中を見る。
恭弥がお守りを渡されてから一部始終ずっと口もとが緩んでいたのは見逃した。
京子ちゃんと合流し、綱吉たちにお守りを渡すために探していたらリボーンからリークが入った。屋上にいるということで私は気を利かせて京子ちゃん一人で行かせた。綱吉から何か奢ってもらわないといけない。
ハルちゃんとビアンキさんフゥ太くんイーピンと合流してから屋上に向かう。なぜか全員並中の制服を身につけていた。私以外全員コスプレでしかないけど。ハルちゃんはまだ並中生に見えるけど他は全員コスプレだった。
屋上で綱吉も同じことを思っていた、というより半分ぐらい口に出した。その不注意でポイズンクッキングでビアンキさんに狙われてしまう。……なんで綱吉は言っていいことと言ったら危険なことの区別ができないんだろう。
「……はぁ」
「朝からお疲れ」
「……なんでビアンキいきなり……」
「綱吉が乙女心わからないからだよ」
若く見られたいのさ。そして大人っぽくも見られたいのさ。年増と子どもっぽいは禁止だよ。大人びていると若いねは褒め言葉なのに。同じ意味だけど言葉が違うと全く別の意味で捉えられちゃうんだから。
ビアンキさんとの騒動をフェンスに背中を預けて眺めていた私。綱吉はどうにか抜け出てきて私の隣に立つ。
栗色の髪に茶色の瞳。映しているのは京子ちゃんたちだ。背を丸くして人の顔色を伺うように見上げていた頃の綱吉はいない。真っ直ぐと正面から相手を見る。
強くなったな
綱吉が不意に視線を京子ちゃんたちから外して私を映した。ドキッと心臓が鼓動する。タイミングが悪い。
「足は平気?」
「うん」
「肩は?」
「大丈夫だよ」
触られなければ痛みはない。足は歩くたびに痛いんだけどね。事情の知らないクラスメイトには隠すように平然と涼しい顔で歩いているから気づかれないけれど。
心配してくれてありがとう、と微笑むと綱吉は破顔する。
……あれ?
何か胸あたりが変。いつもと一瞬違かった。ときめいたかもしれない。綱吉にときめくことなんてなかったのに。
………………気のせいだね!
「昨日はごめんね。巻き込んで。あれから全てリボーンに聞いた」
「ううん。綱吉のせいじゃないんだから謝らないで」
綱吉は私を庇ってくれた側なんだからさ。謝罪をもらうのではなくて私がお礼をしなくてはいけない。改めてまた頭を下げると綱吉は困ったように眉尻を下げた。
「……オレは紗夜を今回の戦いに関わらせたくなかった。それなのに……紗夜を危険な目にたくさんあわせている」
「いいよ。もう、それは……少し前から覚悟していたから」
「覚悟?」
「うん」
マフィアが私に目をつけたと知った時に全て諦めた。諦めるしかなかった。前世の記憶があるばかり巻き込まれるなんて……。
本当に前世の記憶というのはデメリットばかりだ。メリットもあるのに……デメリットの方が大きい。いらなかったけれどあってよかった。欲しかったけれどいらなかった。
目を伏せて考える私に綱吉は話題を変えるように声を張り上げる。
「……そのっ! お守り紗夜も作ってくれたんだね! 京子ちゃんに聞いた」
「ああ……歪なところが私制作だよ」
綱吉がお守りを出したので周りを縫ったことを指して示す。一箇所だけ変なところがあるけれど綱吉は特に害することなかったらしく頬を緩ませる。
「ありがとう紗夜。手作り貰えるなんて嬉しいよ」
「どういたしまして」
「これがあれば今日勝てる気がする」
正解例の受け取り方だな。綱吉のは刺繍はきれいだから捨てたいと思うことないんだろうな。大好きな京子ちゃんの手作りでもあるし。
「絶対に勝つね。紗夜をXANXUSたちのところに行かせはしない」
「お願いします」
そういえば……綱吉は強いのだろうか。骸に勝ったという話を聞いてはいるが、綱吉が強いというのは全くもって想像できない。ひ弱で逃げ癖がある綱吉が強いなんて。
失礼だが結果は予想できてしまっている。
「だから安心して待ってて」
「……うん」
前までの綱吉だったら勝負と聞いただけで怯えていた。相手が強いなら尚更。それなのに今の綱吉は……何かが違う。だからなのかな、私が思わず返事をしてしまったのは。
「オレにとって紗夜は一番大切な人だから」
本当に何か違かったのかもしれない。綱吉の口から出たセリフはくさかった。綱吉が言葉にできるものではない。びっくりして綱吉から視線を外せなかった。綱吉のきれいな茶色の瞳に映る私は目尻が切れるのではないかと心配するほど大きく開いていた。
「わ、」
「わ?」
「ワンモアプリーズ……」
「え? ……紗夜はオレにとって一番たいせ、………………」
綱吉の顔がみるみるうちに赤くなる。あ、よかった。正気に戻った。ストレスでおかしくなっていたのかな。きっと、そうだ。そうでなければあんなことシラフでぺらぺら喋れるわけがない。
胸を撫でおろす私とは違って綱吉は真っ赤になった顔を両手で覆う。
「ごめん紗夜……その、オレ少し緊張してるかもしれない……」
「絶対そうだよ」
京子ちゃんというものがありながら。京子ちゃんの聴覚が獄寺くん並だったら聞こえてしまっていたぞ。
「口、すべらした……。本音、出てた……」
「え?」
綱吉が緊張して弁解でも変なこと言い出した。それに気がついていないのか本音という言葉については弁解がない。
「大切な友達……? なんか違う気が……。なんだろう……京子ちゃんとも違うし山本たちとも違うし……。……あれ? 山本たちと京子ちゃんが同じ? あれ?」
迷走している綱吉の声も聞かず、私はその場にしゃがみ込み赤くなった顔を同じように隠すこととなった。
ストレスのせいで思考が鈍っているだけなのに……なんで照れてしまうんだろう…。