白虹の守護者@


プロポーズのように向けられた指輪。これが求愛行動における指輪だったらどれだけ嬉しいことか。見知らぬ女性からの指輪は恐怖で断るけれど、これが結婚指輪ならまだよかった。でも実際は悲しくも呪われた指輪である。


嫌だ! いらない!


そのように叫べたらどれだけいいだろう。日本人の性が悲しい。どうしても空気を読んでしまう。
静まり返った空気の中騒ぐ事ができない。拒否することもできなかった。だからといって死ぬ可能性がある指輪を受け取ることもできなかった。黙っているだけ。プロポーズしているように見える女性を視界に入れないように俯いている。なぜこのパジャマを着ている時に誘拐されたのだろうか。家でぐらい好きなの身につけていいと思うんだ。よだれ大丈夫かな、と口を拭きたいが微動だにすることも許してくれない空気。


「ねぇ」


それを壊してくれたのは我が道を行き周りを介さない男。私とお姉さんの間に入ってくれた。黒い学ランで求婚してくるお姉さんが見えなくなったことにほっとする。……言葉にしないから誰もつっこんでくれない。セルフツッコミするか。求婚じゃないだろ!!


「死ぬとかなに」

「紗夜ちゃん……!」


恭弥の声は不愉快さがありありと滲み出ていた。それと同時に可愛い黒曜生が腕に抱きついてきた。彼女との関係はなんて表していいかわからない。友人でいいのかな? それなら私はとっても浮かれる。ノリで呪われたアイテムを身につけてしまうぐらい。………それだとダメじゃない? 今は友人だと思ってはいけない時だ。


「貴方達に邪魔をする権利はございません。見ていればいいのです。見ているだけで」

「……………きみ、くっつきすぎ。殺すよ」


話を聞いてやれよ……!


恭弥から聞いたんだろ……! お姉さんたち無視されて呆気にとられているよ。ぽかんとしているよ。
私を庇ってお姉さんに反論してくれると思いきや、クロームちゃんを睨みつける恭弥。クロームちゃんは恐怖からか、私に抱きつく力が強まった。クロームちゃんの可愛らしさと相反するかのように恭弥は顰めっ面になっていく。足怪我しているんだから大人しくしていなさいよ。今視界に入ったけれどズボン破れているじゃないか。そこから血がダラダラ出ているじゃん。

負けたのかな?
……そんなわけないか。恭弥が珍しく怪我をしていて足を引きずっているが、誰かを目の敵にしてターゲットにしていなければ勝ったということだ。負けてたら今も私なんかほっといてその相手のところに一直線に向かっていく。


「紗夜……っ! どういうこと……!? なんで、ここに……というより守護者ってなに!?」


今度は綱吉だ。綱吉にパジャマを掴まれた。大丈夫、そんなことしなくても逃げないよ。この空気の中逃走する勇気ないから。……まぁ綱吉はそんな理由で掴んだのではないことぐらいわかっているけど。


「なんで紗夜まで……」


心配してくれているだけだ。ただそれだけ。ボンゴレファミリーの有益は関係なく友人である私を心から本気で心配しているだけ。不安そうに瞳が揺れている。


「お離れください。迂闊に近寄ると命を落としますよ」

「なんでだよ!! 死ぬとか……!!」

「白虹のボンゴレリングは選ばれた者にしか身につけることができない、それだけです。沢田綱吉、以下5名、今すぐ鳴神様から距離をとりなさい」


以下5名? クロームちゃんに恭弥で二人。あと三人?
振り返るとすぐ近くに獄寺くん山本くん笹川先輩がいた。なんだどいつもこいつもすぐ近くまで来て。何度もしつこいほど言うが私は寝起きなんだ。見せれる顔じゃないの! 一度も声にしていないからみんなには伝わらないんだろうけどね!! だけどね、そこは空気を読んでほしい。寝起きとか一番見られたくない。一番は言いすぎだな。


「紗夜は関係ねぇ」

「鳴神までもオレたちと同じようなことをさせる気か!!」

「というより白虹って……。天候じゃないだろ……」


山本くんと笹川先輩までもが私を庇ってくれたのは嬉しいけれど獄寺くんの言葉で嬉しさは吹っ飛ぶ。獄寺くん 白虹が何なのか知ってるの? 私も一応白い虹って教えてもらったけれど一発で正しい漢字変換できなかった。
それとどんどん人が集まってくることで恭弥の苛立ちが増して恐怖でしかないし、クロームちゃんが私の腕に絡みつく力も強くなっていく。


「しろにじ、ってなんなの獄寺くん……」

「……恐らくそのままの通り、白い虹と書いて白虹です」


獄寺くんは女の人がプロポーズするためにずっと私に差し出しているリングを一瞥した。虹のマークが描かれているのを確認して綱吉に、いや少なくとも山本くんと笹川先輩も表情からわかっていないのは伝わる。その三人に、そして張本人のくせに何も分かっていない私にも説明する。


「凶兆、武器または兵乱の象などとされています。白虹貫日、白虹日を貫くという言葉にもありますように戦乱によって危険な状況に陥る前兆として現れるとも……」


いい意味ではないな。災害をもたらす系のものなのね。白い虹とだけ聞くときれいそうなんだけど。あと白虹貫日と白虹日を貫くという言葉を知っている前提で話さないでほしいね。ほとんどが首を傾げたぞ。イタリア育ちの獄寺くんが知っているというのに私たち日本人ったら。


「白虹の守護者の使命って……」

「白虹は幸運 兵乱 凶兆、それらを独自の裁断でもたらすことを許される唯一の存在でございます。白虹の使命、それは……」


みんな何も言えなくなっちゃったよ。幸せを呼びおこすことも暴動を呼び起こすことも自由だって。そいついないほうがよくない??


「ファミリーの命運を握り、あらゆる全てをつなぐ架け橋」


………それが、白虹の守護者の役目……。
架け橋とはなんだ。何を繋げばいいんだ。全てって広すぎだよ。曖昧に濁してんじゃないよ!


「白虹にする意味はあるのか? 虹の方がわかりやすいだろ」

「いえ白虹です。お間違いなく」


笹川先輩の言葉はズバリと切り捨てられた。重要らしい。

……あの、お隣さん方。ばちばちしていないで。しているのは片方だけなんだけど、もう少しお姉さんたちの話聞いてあげれない? なんで見つめ合って睨み合っているの。クロームちゃん私そろそろ悲鳴あげそう。ちょっと痛い。


「どうぞ、おつけください」


押しが強いなぁ。つけたくないから無言を貫いているんですよ。

時間を使えば使うほど暗殺集団からの視線が痛くなる。どうでもいいからさっさとしろ、という視線がひしひし伝わってくる。いいんじゃない? 帰ればいいじゃない。律儀にいなくていいよ。マフィアの意向なんて無視して帰ってよ。お願いだから、ねぇマフィアの暗殺者ども。ちらりと暗殺者たちの様子を伺うと赤い瞳が私を見ていた。ひえっ。
赤い鋭い眼光が私を捉えていた。部下二名と違う視線で私を視界に入れていた。怖っ。

なぜか今白虹のリングというものの継承が行われているので後から来た人立ち入り禁止、帰宅禁止らしい。重傷で虫の息のおじいさんを早く病院に運びたいのにできないことでリボーンとバジルさんからの視線も痛い。
さっさとしろ、彼らの視線には絶対にこの意味が含まれている。言葉にしてこないのはこのリング特有の危険性のおかげ。急かして死なれたら後味悪いよね。


「……あのおじいさん、だれ?」

「9代目のことか?」

「……………そっ、か。9代目……」


獄寺くんの返事に俯いて髪をくしゃりと握る。

予想はしていた。リボーンとバジルさんが焦燥感に駆られながらも素早く正しい応急処置をする様子からボンゴレ関係者であることは予想できていた。だがあのおじいさんが現トップだとは思わなかった。バジルさんの上司かと。ボンゴレボスがなぜ日本にいると思えるの? 自分がしかけた後継者争いを自分の目で見たかったのかな? じゃあなんであんなにぼろぼろなんだろう。


「……ふふふ、ふふふふふふふ」


一周回って笑いしか出てこなかった。みんなの表情はわからないけれど驚いているんだろうな。急に笑い出した気持ち悪い女子に。クロームちゃんが「紗夜ちゃん?」と組んでいた腕を離したほどの奇妙さだったのだから。

一呼吸して顔を上げる。指輪を差し出してくれている女の人に口元を緩めた。私が笑ったらなぜかみんな驚いた。綱吉と綱吉の守護者たちだけでなく指輪を差し出している女の人までもがなぜか動揺をしめす。


「それをつければいいんですか?」

「……はい」

「どの指につければいいんですか?」

「お好きにどうぞ」

「わかりました」


左手の薬指じゃなくていいのか。なんだ、とまた笑みを浮かべてしまう。どこにつけるのがいいのかな。あいにく私は左手の薬指以外の意味は知らないからどこでもいいか。
リングケースから虹の絵が描かれたリングを取り出す。シルバーアクセサリー。私はあまり身につけない系統のアクセサリーだ。どの指にしようかな、と考えて適当に左手につけようとする私の手を掴んだのは───


「なんで……、危険、なんだよ」

「綱吉……」


私の手を掴んで動けなくさせたのは綱吉だった。


止めてくれるのか。


なぜかまた笑みが漏れ出た。私の笑みに綱吉はなぜか泣きそうに顔を曇らせる。


「なんで諦めたように笑うの……?」

「諦めた?」

「そうだよ……っ! 諦めたように……っ。……ねぇ…紗夜が、……紗夜が死にたがっている、っていうのは本当なの……?」


この子はどれだけ頭が平和なのだろう。


ふんわりと笑みを浮かべて綱吉の手を優しくほどく。


「生きたいよ。だから、生きるためにはつけるしかない」

「チェルベッロはつけたら死ぬとか言ってるんだ! やめてよ!」


このお姉さんチェルベッロさんって言うんだ。不思議な人。この人ももしかしたら私に前世の記憶があることを怪しんでいるのかな。私は誰にも言っていないのにマフィアの間ではどんどん広まっていく。……おかしなことだ。

綱吉は私を心配している。ひたむきな瞳を向けてくる。


違うよ綱吉
つけなかったら死ぬんだよ


私の唇は無意識にまた弧を描いていた。


「私がここでもたもたして時間を取るとね、ボンゴレ9代目は間違いなく……死ぬよ」


綱吉の瞳が揺れた。わかってくれるかな?


「ボンゴレ9代目を助ける道はただ一つ。一秒でも早く病院に搬送して手術すること。だが外との接触を禁止された今、この白虹のリングというものの継承が終わらないとそれもできないじゃない」

「で、でも……っ、紗夜は!? 紗夜が危険なんだよ!! オレもよくわからないけれどふさわしくなかったら、死ぬ、って……」

「……そうだね。私もよくわからないけれど……───ボンゴレからしたらこんな小娘と現ボスの命は天秤にすらかけてくれないから」


私がここで駄々をこねることはボンゴレ9代目を見殺しにするのと同じ。白虹のリングというものを拒んで普通の生活を送ったとしても9代目の腹心によって明日には殺されている。もしかしたら今この場にいるリボーンやバジルさん、暗殺集団……もしくは綱吉たちの誰かが殺しに来るのかもしれない。私の命なんてマフィアからしたらそれほど軽く、ないのと同じ。
リングを拒めば死、つけても死。まだつけたほうが生存確率はほんの少しだけある。


「それならつけるしかないよ」


リングを指につける。綱吉が絶叫した。綱吉だけではない、周りにいるみんなが何かしら声を出して、いたのだろう。私の耳には何も届かなかった。


「っっっっ!!!!」


つけた途端、リングから炎が。マッチのような小さな炎ではない。人なんて簡単に燃やせるほどの勢いがある火柱がリングから発火された。

前振りもなく突如発火した白い炎に誰もが声を出さなかった。否、出せなかった、が正しい表現だろう。