逃亡劇に終幕を


「皆さまお待ちください!」

「今宵はまだ終わりではありません」


雲のリング戦がどんな形であれ終わりとなった。明晩に大空のリング戦を遂行されると決まった瞬間、チェルベッロが真ん中で声を張り上げる。9代目が瀕死という最悪な状況に陥っても、9代目を手にかけたのがツナと仕組まれても雲のリング争奪戦は終了。それなのにまだ何かあるのか。
帰ろうとしたものも9代目の危篤状態に悲しんでいたものも怒っていたものも全員チェルベッロに注目する。


「明日全てが決まります」

「その前にボンゴレリング最後の一つ、白虹のリングの継承を行わさせていただきます」


チェルベッロの言葉に はいそうですか、と頷けるものは誰もいなかった。当たり前のように、やらなければおかしいといったように平然と言いのけたがほとんどのものが白虹のリングという言葉を初めて知った。


「しろにじ……?」

「ボンゴレリングは全部で七つじゃねーのか?」

「しろにじってなんだよ」

「うむ……聞いたことないな」


全員の疑問は無視してチェルベッロは円滑に進めていく。


「それでは白虹の守護者、────様、こちらへ」


チェルベッロに様づけで呼ばれるのはXANXUS以来。XANXUS以外はどんな者ででも様をつけなかったチェルベッロが様をつけた人物、それは────。


ツナ側の守護者は名前で想像できていた。白虹も適任者の存在も知っていたリボーンだけが中学生の叫び声の中で舌打ちをした。隠していたはずの存在が今ここにいる。


目立つ真紅の髪に青色の瞳。後ろめたそうに目を泳がして居た堪れなさそうに何度も髪を耳にかけている。
モスカの暴走によって紛争地帯に変わった夜の学校にそぐわない淡い色のパジャマを着た赤髪の少女の横にはチェルベッロが控えている。


並盛中学校生徒会長であり2-Aに在籍する生徒、鳴神紗夜が夜の学校にいた。


紗夜を白虹の守護者にするのは博打なのだ。

リボーンは紗夜が前世の記憶を持っていることは確信している。
出会ってすぐに紗夜から出た前世の一言で怪しんで経歴を調べあげた。このことは迅速に9代目と門外顧問に報告をし、両者からそれとなく探るように命じられた。もともとツナの近くにいた少女なのでリボーンとも関わることも多数あり、ツナを10代目に相応しい人物にするというミッションより簡単であるように思えた。いつもリボーンが紗夜と会話する時に考えていたのは紗夜が本当に前世の記憶を持っているのかの有無だった。
だが探っても紗夜は中学生ぐらいの少女にしか思えない。幼少期は大人びていて、それはもう自分と同じ境遇の人間かと間違えるほど浮いていたらしい。しかしリボーンが己の目で見る紗夜は大人びているところがあってもそれは中学生の範囲内におさまる。
嘘ではないかと少しずつ疑心になっていた前世云々が確信に変わったのは約一ヶ月前。骸の起こした事件での一言。


何かを持って生まれた


骸の言葉からわかったこと。その一言がリボーンの疑心を確信に変えた。あとは言質を取るだけなのだが紗夜は絶対に首を縦に振らなかった。横に振ることはあるのに縦には絶対に振らない。
どうやって白状させようかとまごついている間にヴァリアーという次の問題が来てしまった。ヴァリアーに見つかる前にツナ側に引き込みたかった門外顧問が紗夜にダイレクトに聞いたら彼女は泣きそうに顔をくしゃりと歪めて早々に退室したそうだ。見た目はか弱い中学生にそんな顔をされたらもう強く出れなかった。

それでも潔く諦めきれなかった。初代以来の白虹の守護者、になれる可能性を僅かだが持っているかもしれない少女。数字に表せないほどの価値である。諦めきれないけれど手が出せない。一度紗夜の件は置いてリング争奪戦に全神経を傾けていたら、あちらから歩んできた。諦め癖があるのか、もうどうでもいいといったように紗夜がボンゴレに入ることを遠回しだが宣言したのだ。


そこからは上手くいくと思っていた。ツナがXANXUSに勝って10代目の座を手に入れたら紗夜を守護者に引き込む。そうすればツナも逃げることはしないし、雲雀や骸もボンゴレに縛りつけれる。リングも紗夜が白虹の守護者に本当に適任かを調べあげてから継承させればよかった。


全てが終わってから。


未知な白虹のリング。適合者は過去に一人しかいない、多くのものを亡き者にした曰く付きの呪われたリング。


それが今ここで継承されようとしている。







日付が変わる時間帯。私はいつも特別な何かがなければ寝ている時間だ。今日並盛中で〜〜〜とかマフィアの〜〜〜とかあったかもしれないけれど私には関係ないからいつも通り布団をかぶって眠りについて、夢を見た。

あの人が屋上でタバコを吸っていた。あの人は未成年だけどよくふかしていた。あまり好きではなかったタバコにそれなりに好感を持てるようになったのはあの人が吸っていたからだ。
あの人が何か言っていた。口をぱくぱくしているだけで聞こえない。聞き返してもやはり聞こえない。大事なことを言っているような気がして、聞き逃してはいけないような気がしたのに……聞き取れる前に私は夢から起こされた。


「おはようございます鳴神紗夜様」


目を開くと私のベッドの横に立っていたのは知らない女の人。 「ぎゃあ!!」と悲鳴をあげた私は正常。ピンク色の長髪、羨ましいストレートの髪で、目をマスクで隠している。白色のフリルがついた服に黒色のジャケットを羽織っているスタイルのいい女の人が横にいた。私がもう少し冷静だったら警察を呼んでいた。


「貴女は白虹のリングに選ばれました」


混乱している私に宗教の勧誘のようなことを伝えてくる女性。神に選ばれました、だったら完全に宗教だった。


「ふ、……不法、侵入ですよね……?」


私は誰かを家にあげた記憶はない。この家には私以外誰もいないから他の人があげることもない。鍵を閉めて寝てもいるから勝手にあがることだって本来は不可能なのだ。


「これからリングの継承を行います。今すぐ並盛中へお向かいください」


一方的に話しかけてくる女性。会話はしてくれない。ガンガン豪速球を投げてくる。勢いがありすぎて受け止めれない。
ぽかんと口を開けていたら、女の人は何を思ったのか「失礼します」と私に触れてきた。そうして気がついたらベッドの感触はなくなっていて抱えられていた。悲鳴をあげそうになった。お姫様抱っこだ。この女性のどこに私を抱え上げれる力があるのだろう。
乙女のように恥じらっていたら女の人はなぜか寝る前は閉まっていたはずの窓に近づいた。開いている窓に足をかけてそこから屋根伝いで駆けていく。本当の悲鳴をあげそうになった。気絶するかと思った。

そうしてたどり着いたのが並中だった。


場違いな戦場に足を踏み入れてしまった。裸足で。砂埃がすごい。みんな注目してくる。待って待って。私寝起きのままで来ているの。身支度整えてないからあまり見ないで。よだれとかついていないよね? 身だしなみ整える時間くらいくれても良くない? 私女の子だよ?


「紗夜……なんで、ここに……」

「綱吉?」


綱吉が私を見る目には泣いたあとが残っていた。綱吉のすぐ近くには倒れているおじいさん。


……え? もしかして私すごい時に来ちゃった?


もしかしてお通夜状態の時にここに来たのかな? いやいやそんなことないよ、ね?
ほら、周りを見回すと………………お通夜だなぁ。どこからどう見てもお通夜だな。


「鳴神様。貴女には白虹のボンゴレリングに相応しい存在なのかをこれからここで立証していただきます」


……どうしてマフィアは空気を読んでくれないのだろう。横にいるお姉さんは一方的にボールを投げてくる。準備ができていないのに。

逃がさないようにずっと横にいるお姉さんと目を合わせずに俯く。無理無理無理。今何があってどうなってこうなったかは全くわからないけれどわかることだってあるんだよ。戦争で使うような道具がたくさん校庭にあって、校舎の外壁も窓ガラスもぐっしゃぐしゃ。恐ろしい顔をした暗殺集団ヴァリアーもいるし、死にそうなおじいさんもいるし、おじいさんのすぐ近くにはわけがわからないと目を見開く綱吉に唇を噛むリボーン。私の知っている友人やお隣さんや他校さんも私がここにいる意味がわかっていないので戸惑っている。大丈夫、私もわかっていないから。
ヴァリアーはなんか一悶着あった奴らばっかりがいてほとんど関わっていない人たちがいない。今から私が主役だから言葉を交わしたことがあるやつだけ残ってくれたのか? なんだその気の利かせかた。ずれすぎ。それに言葉交わしたの金髪だけだから。
ヴァリアーはあまり驚いていなかった。驚いてはいるけれどそれよりも興味や関心の方が大きいらしい。一人だけ無関心で私を見てすらいないが。一番偉そうで中心的存在のような男。


「そいつが白虹のリングを身につけれる条件を満たしているか、明確な証拠はねぇ!!」

「いえ、鳴神様は白虹のリングに選ばれました」

「そんな証拠どこにあるんだ!!」

「リングをつける、それが証拠です」


私が空気を読んで一言も発さないで応答をせずにいたらリボーンがお姉さんに言い返してくれた。
味方になってくれるとは……! リボーンはてっきり私の意思なんてどうでもいいからさっさとボンゴレに引っ張り込もうとしていると思ってたよ。マフィアは汚い欲に溺れた集団だって骸が教えてくれていたし。
少しだけ感謝だ。でもさ、リボーン言ってたじゃん。私を巻き込むつもりはない、と。男に二言はないんじゃないのか。あれ? 女だっけ?


「……それをつけたやつがどうなってるのかお前らは知ってんのか」

「今までこのリングを身につけようとしたものたちのことでしょうか。彼らは条件を満たしていなかった。もし鳴神様もニセモノで条件を満たしておらず白虹の守護者に相応しくなければ、待つのは死、それだけです」

「え、」


お通夜みたいなこの空気で喚くことなんてできなかったからずっと黙っていたんだが最後の声には無言でいることができなかったよ。

確かにリボーンに聞いてはいたけれども驚いてしまうよね。この女の人たちも私の命なんてどうとも思っていない。死んだらそこまで。だからこそずっと冷静で鉄仮面でいられる。私の生死なんて関係がないのだから。
反するように騒めくのは綱吉たち。ヴァリアーも少し驚いたがそれはリングをつけたら死ぬという言葉に。私が死ぬことはどうとも思っていないだろう。あの二人は私を殺めようとしてきた野郎たちだ。なぜ本当によりによってあの二人がこの場にいる。そして他がいない。


私が間抜けにも口を開いていると隣にいる女の人がポケットからリングケースを取り出した。入れ物には紋章がある。銃や弾や貝が描かれた。たぶんこれはボンゴレファミリーの紋章。


「それでは……鳴神紗夜様、どうぞおつけください」


場所と周りの惨状が少しでも違かったらプロポーズなのに、全くそんな幸せな気配がない。荒れ果てた学校に傷だらけの群衆。

リングケースの中には恭弥が見せてくれた半分に割れたリングが完成したような形の指輪がある。絵柄は虹だった。


憧れのプロポーズ

婚約指輪

結婚指輪


形だけならそのようにも見えるのに、全くときめかないのはなぜだろうか。


少し肌寒いなぁ。


跪かれて指輪を出されているというのに、私は腕をさすって遠い夜空を眺めた。