博識者からのメール
綱吉と話し終えたディーノさんが首を後ろに回したことで目があった。忘れられてはなかった。私がいることを覚えていながら社外秘の内容を私の前でガンガン話していただけだ。それじゃあ社会人失格だ。マフィアにもそんな感じの掟あるんでしょ? 前に骸が言っていたから知ってるよ。
「紗夜も恭弥が心配で来たのか?」
「いえ全く」
綱吉はディーノさんに恭弥の体調について尋ねに来ていたので私も同じだと勘違いされた。案内された部屋には獄寺くんと山本くんと笹川先輩もいたし、みんな同じだったから私も一緒だと思い込んでしまったのだろう。何時からいるのか、全員就寝中だ。
「恭弥が負けるところは想像できないので」
「そうか……紗夜は恭弥を信頼してるな」
信頼? 信頼なのか? ただ想像できないだけだ。でもそれは信頼してるのか? ん? 待てよ?
「……あ! 想像できました! 骸に負けてましたから!」
「…………………それ恭弥の前で言ったら紗夜でもぶっ殺されるぞ」
「あ、はい。知ってます。私バカではないので恭弥の前では言いません」
も〜〜そんなこと知ってますよ。伊達にお隣さんしてきたわけじゃないんですよ。恭弥の怒り沸点ポイントはよくわからないけれど、少なくとも骸の名前と負けたという事実はストライクど真ん中だということは知ってる。女子は殴らない精神の恭弥でも今回は殴ってくる。お隣さんではない綱吉もわかってる。顔真っ青。
顔を押さえるディーノさんと青い綱吉に対して一人だけあははっと正反対の笑顔でいた。
「どうして紗夜がここにいんだ?」
「あああああああ!!!!」
だけど私もすぐに青ざめることになる。反射的に前にいた綱吉に飛びついた。「えっ、ちょっ、待っ……」とか言ってリトマス紙もびっくりするほど一瞬で真っ赤になった綱吉に気を遣う余裕はない。
「どうかっ、どうか言い訳を聞いて!! ご慈悲を!! 私たちお隣さんじゃない!!」
「オレと紗夜は隣じゃねーな」
「紗夜紗夜、恭弥じゃなくてリボーンだ。後ツナを離してやれ。いろんな意味で死んじまう」
「えっ……綱吉! 息してる!? ごめん首しめてた! お願い喋って!」
「………………だ、だいじょうぶ、……」
顔赤くして鼻をおさえる綱吉はなぜか私と目を合わせない。生きていることに安堵している私はなぜ目を合わせてくれないかは気にならなかった。
悪口を話していて急に後ろから話しかけられたらそれは本人登場だと勘違いしてもおかしくないだろう。声が全く違かったとしても恭弥だと思ってしまうのは仕方ないじゃない。
命を大事にを合言葉にしているのに自ら投げ出すところだった。リボーンだとわかった今でも心臓の鼓動が早い。
ディーノさんにぽんぽんと背中を撫でられている綱吉。羨ましい。代わって欲しい。なぜか綱吉を見るディーノさんの目がとても優しいのだがなんでだろう? 綱吉も綱吉でまた自分の世界に入ってしまうし。
「それで何で紗夜がこんな早朝にここにいんだ? ヒバリが負けるところは想像できなくても骸に負けたところは見ちまったからやっぱり想像できた紗夜が」
「そこから聞いてたの!? それ絶対に恭弥に言わないでね!! ……ディーノさんに用事があるの。4日前にカルロさんからメール来て」
「カルロから!?」
「…………………だれ、それ」
「え?」
リボーンもカルロさんは知っていたらしく特に驚く素振りを見せない。綱吉だけが唯一知らなかった。赤かった顔が一瞬で元の素肌の色に戻ってまた何やら無に近い表情になってしまった。そっか、カルロさんディーノさんの友人の裏社会の人間だから綱吉はもうとっくに知り合いだと思っていたけれど、カルロさんに出会ったのイタリアでだ。日本に来たことはないんだった。そうだった。私が知っている裏社会の人間は綱吉を通して知ることが多かったけどカルロさんはディーノさんを通してだった。
「ディーノさんのご友人」
「ゆ、友人とは少しちげーかな……」
「だって。……どうしたの綱吉。……怒るようなことあった……?」
今日の綱吉わけわからない。なんで急に機嫌悪くなったり戻ったりするの。今何もなかったじゃん。恭弥が機嫌悪くなるならとってもわかるけれど綱吉が悪くなる意味わからない。綱吉も骸の名前タブーの人?
「くだらねぇ嫉妬してないでいくぞ」
「嫉妬?」
「うっ、うるさいな!!」
「……ごめんね」
「ちがっ、紗夜じゃない!! うるさいのはリボーン!!」
「ツナの方がうるせえ。今何時だと思ってんだ」
「ここ廃病院だろ!!」
私の時と同じやりとりをしたよ。朝っぱらからうるさいよ近所迷惑でしょ、と何度も言われる綱吉だがここは廃病院なんだ。
「紗夜とカルロの関係はツナが想像しているもんじゃねえ。そんなことよりこれから修行だぞ」
「今日の勝負で決まるんだぞ!! もうオレが修行する意味なんてないんじゃ……。それに気になって修行どころじゃないよ!!」
「バカが」
リボーンの飛び蹴りがみぞおちに決まる。痛そう。ディーノさんと二人でうわぁ……と被害者の綱吉に同情の視線を送る。涙目になっている綱吉をリボーンはずるずると引きずっていく。少し休ませてあげなよ……。
「最終決戦だからこそだぞ。おまえもしもの時どーすんだ?」
「も、もしも……?」
「カルロのことで修行に見に入んなかったら元も子もねーから、ひとつだけカルロのこと教えてやる。カルロはディーノの初恋の相手だ。お前にとっての紗夜」
「リボーン!!」
「え!? 女の人だったの!? ……そっか、そうなんだ……よかったぁ……ん? よかった?」
ずるずる引きずられながら会話していく綱吉はもっと周りを見たほうがいい。リボーンが階段を降りようとしている。考え事していた綱吉は階段の存在に気がつかず、階段もガタガタと引きずられて降りていった。
「あいつ………!」
「……男の人ですよね?」
「……女だったらまだよかったんだけどなぁ」
「初恋相手だったんですね」
「過去に戻ってやり直したい…っ。もうこれ以上オレの傷を広げねぇでくれ……」
「……私べつに同性の恋愛とか気にしませんよ?」
「あいつの場合は性別じゃなくて性格に問題があるんだよ……」
「そうですか? そこまでおかしくありませんでしたけど」
カルロさんは優しい好青年だ。イケメンさんだ。ディーノさんとのやりとりでは少しだけ男子の嗜みをしていたけれど、ちょっとお茶目なイケメンさんだと思う。そこまで性格は変ではない。強いて言うならカルロさんが私に近づいたのは仲良くしたいからではなく、下心があってということだ。そのぐらい気がつく。ボンゴレだと勘違いしているから親しくしてくれている。ボンゴレは裏社会では権力者だから。それぐらいなら誰にでもあることだろう。
そのぐらいは性格に問題があるとは言わない。だから何がディーノさんにとって気に食わないのだろう。投げ飛ばされていたことかな? 駄馬と罵られていたことかな? 魔法使い目指してるの的な扱いされたことかな? ………………よくよく考えると性格に問題ありだ、な。
「あいつまだ紗夜の前では大人しいからな」
「……ディーノさんを背負い投げして蔑称をつけて、魔法使い扱いしたのはこの目で見てたので……、その、少し性格難ありですね」
「……そういえばそんなことあった。あいつ紗夜に優しくしているだけでもう素は出してるのか。……気をつけろよ。一度素を知ってしまうと……終わりだ」
「噛み締めさせていただきます。何も知らないふりをさせていただきます」
やっぱりイケメンはロクなのいない。容姿いいと性格がぶっ壊れてしまう。どちらもいいのなんてディーノさんぐらいだ。恭弥見て育ったからイケメン査定厳しいのよ私。恭弥は顔だけならドストライクなんだけどな。どこかに恭弥みたいな顔で優しくて温厚な人いないかな。
イケメン眼福と見上げていると何を思ったのかディーノさんは優しい笑みで頭をぽんぽんしてくれた。今日一日幸せに生きれます。
「オレ魔法使い扱いされてたっけ?」
「………………………はい?」
「魔法なんて現実じゃ使えないだろ? カルロ現実主義だからそういうこと言わないけどな」
「………………妖精、といえばわかりますか?」
「妖精?」
死にたくなった。本当に死にたいわけではないけど死にたい。ディーノさん共々記憶喪失になりたい。
もしかしてこれは日本特有の言い回しなのだろうか。それとも私が汚れていてディーノさんがきれいだという証明なのだろうか。
「どうした紗夜。顔赤いけど……さっきのツナより真っ赤だぜ?」
「〜〜〜きた、汚くてごめんなさい……!」
「汚い? どこか汚れたか? ……もしかして傷開いたか!? 見せてみろ!!」
「違うんです……。生まれた時から汚いんです……」
ディーノさんに心配されるたびに心が痛む。私は14の女の子なのにナニを知っているのだろうか。こんなこと一般常識だと思ってたのに。急に魔法使い妖精と言われたらなんだこいつとはなるが、カルロさんが童貞とディーノさんを蔑んでいたことを思い出せばわかるよね? ディーノさん言い返してたじゃないか。わかるの私だけ? 私そのあとすぐに消えてしまったから結果どうなのかは知らないけれど。知りたくないけれど。
「その、…… 〜〜〜話を変えましょう!! カルロさんからメールが来たんですが! イタリア語で読めないんです!」
ディーノさんは眉を落として私を気にかけてくれる。ただ顔がとても近い。いろんな意味で赤くなってしまう。
話を変えないと、とポケットから慌てて携帯を取り出して問題のメールを開く。知らないアドレスからだったから怖くて送り返す気にはならない。最後にCarloと名前があったことから私が知っているカルロの名を持つのは一人なので勝手にディーノさんの同級生のカルロさんだと決めつけた。最初は自分で調べて解読しようとしたけれど音を上げた。イタリア語難しい。
「カルロがわざわざな……」
顔ちっか。携帯の画面が小さいから仕方ないけれど近い。ディーノさんはもう一度自分がイケメンだということを自覚してほしい。ほっぺが熱い。
「あの……私カルロさんにアドレス教えてないんですけど……ディーノさんが教えました?」
「オレは紗夜の連絡先を誰にも教えていない。カルロのことだし……調べたんだろ」
「怖っ」
ただの一般人のメールアドレスなんて一瞬で手に入れられるらしい。プライバシーはないのか。良いイケメンさんだと思っていたのにどんどん理想が打ち砕かれる。……でも、まあそのぐらいならまだマシなのか? ……やめよう考えるのは。何も知らないんだから。
「えっと、な……どこであいつはリングの情報手に入れたんだ」
すぐ横にあるディーノさんの顔が眩しい。少し険しいが内容を日本語にして教えてくれた。もしかしたら通訳あるあるでマイルドな表現にされていたりして書いてあることをそのまま私に教えてくれてないかもしれないがそれはディーノさんの優しさだと思うんだ。
「……どちらが勝とうが結果は同じ。10代目となりえるのはたった一人。片方は資格がない。もう10代目は決まっている」
カルロさんのメールは『勝負は無駄でしかないから安心してね』で終わっているらしい。
「……どちらか圧勝してますか?」
「今は引き分けで……今日全てが決まる」
「プレッシャー」
恭弥のプレッシャー凄まじい。本人は気にしないだろうが。
決まっているとはなんなのか。まだ決まっていないのに。ディーノさんが私の許可を得て返信をしたが送信不可で送れなかった。メアドは存在していないらしい。ディーノさんの携帯で電話をしても出ない。知ってるのかよお互いの連絡先。
解読できたがまた次の疑問が残る。はっきりとわかるまで私とディーノさんだけの秘密になった。