ジェラシーの塊
「なっ!?」
可愛い女子と友情を育んで抱き合っていると妨害が入る。舌打ちをしそうだったがお口はちゃんと閉じた。
「何やってるの!?」
後ろから腕を引っ張られる。クロームちゃんもクロームちゃんの瞳に映る私もびっくり、目を丸くしていた。
「……ボス」
「何で紗夜がこの子と抱き合ってんだよ!!」
別にいいじゃないか、私がどれだけ可愛い子と抱き合っていても。嫉妬か、嫉妬なのか? クロームちゃんに抱きつきたいの? クロームちゃんに許可をもらえればいいと思うよ。私はいただく前に抱きついたけれど。
「あの紗夜ちゃ、紗夜様」
「いいよ。ちゃんで」
「……わかり、ました」
「敬語もいらない」
泣いていた時のが素だろう。その時は様づけでもないし敬語でもなかった。
「うん」と照れ臭そうにはにかむクロームちゃん。可愛い、と顔を覆うところだった。人前だ、自重しろ。
「ハンカチとティッシュどうぞ」
「あ、……ありがと」
「いえいえ」
泣いた後だからいるかな、とポケットに入っていたハンカチとカバンからティッシュを取り出して手渡した。手渡したんだが涙を拭かずに大事そうにお守りを包んでポケットにしまった。うん、違う。ハンカチの使い方違う。
「今度、返しに行く、ね。骸様にも、ちゃんと渡す。話す」
骸に直接会えるのはいつになるかはわからない。でもすぐに出てきてくれるそうだ。骸は不敵に微笑んで宣言してくれたのだから。先に説明だけはしてくれるそうで。そこでいらないと言われたら私に知らせずに処分してくれれば幸いです。
「あのね、紗夜ちゃん……」
クロームちゃんの頬はまたバラ色になる。薄い桃色だった頬が赤く染まる。恥ずかしそうにもじもじと口を開閉させる姿はまるで恋する少女。あはは、誰に恋してんだこの空間で。
「大好き」
なんだこの可愛い少女は。告白だと勘違いしそうになるワンシーンだ。
悶えそうになったがここは外。誰にもわからないほど小さく息を吸って自我を保ってにっこりと微笑む。
「私もクロームちゃんがだい───」
「ねえ!!」
大好きだよ、と伝えようとしたら大きな声に邪魔をされた。少し怒りがこもっているような声色。
その声の持ち主は無表情に近い顔で、だけど眉間にだけはシワが寄っていた。あ、綱吉、ごめん存在忘れてた。
「……じゃあ、私行くね。またね紗夜ちゃん………………………………………ボス」
「うん、またね」
何度も振り返りながら走っていくクロームちゃんに手を振って、忘れられたことでお怒り気味の綱吉を盗み見る。眉をつりあげてクロームちゃんの後ろ姿を注視していた。珍しい。そんなに怒ることだった?
「嫉妬してても女の子の友情の邪魔はしちゃならんよ」
「なっ……!! 嫉妬とか……嫉妬してたかもしれないけど……! 好きとか簡単に言っちゃいけないって!!」
やっぱり私に嫉妬していたんだ。
クロームちゃんに抱きついて大好きとクロームちゃんに好意を伝えようとする私が気に食わなかったんだ。
「友達どうしで言うことなんて普通にあるでしょう? 山本くんや獄寺くんに言わないの?」
「言わないよ!!」
なんで嫉妬してるのよ。あなたが好きなのは京子ちゃんじゃない。クロームちゃんがいくら可愛いからって私にまで嫉妬しなくても。
鼻息を荒くして怒る綱吉にため息をついて病院に入る。ため息が聞こえていたのか綱吉の怒りは増幅した。
「オレ当たり前のこと言ってるから!!」
「そうだね」
「それに何で紗夜があのクロームって子と知り合いなんだよ!! もしかしてあの子と骸のこと知ってたの!?」
「知ってたよ。朝から大きな声出すのは近所迷惑になるからやめよーね」
「ここ廃病院」
的確な返しですね。入院患者なんてランボしかいない。私だって聞きたいさ。なんで綱吉がクロームちゃんと知り合いなの? 守護者だから。自問自答できるわこんなこと。
さーって院内地図を眺めて…………これ眺めたところでディーノさんがどこにいるかはわからない。
どうしよっかな、とディーノさんがどこにいるか考えながら綱吉にぞんざいに相槌していく。
「好きとかそう簡単に言っちゃダメだから」
「うんうん気をつける」
「……ねえ、本気で聞いてよ」
何度目かの相槌に綱吉の声が低くなった。
院内地図から綱吉に顔を移すと……わあ結構なお怒り。目も唇も微塵も笑ってない。
「……綱吉だってよく好きって言ってたよ」
「それは小さい頃だろ」
「中学生でも使ってたけど」
何度か聞いたことあるような気がする。小さい頃じゃない。綱吉だって友情を深める時に使っているじゃないか。それなのになぜ私が使うと怒る。
図星だったのか少しだけぴりっとしていた綱吉がいつものようになり、怒っていた顔が崩れた。
「なっ、でもっそれは……!!」
「はいはい。私は綱吉のことも大好きだよ。クロームちゃんも綱吉のことが大好きだよ」
「ええ!!?」
「そんなに驚かんでも」
はーい、終了。私の好きはいろんな人に使えます。クロームちゃんにも綱吉にも使えます。だからそこまで嫉妬しなくていいんだよ。クロームちゃんにしたのは愛の告白ではないのだからあちらも本気で受け取ったりしない。クロームちゃんをあなたから奪おうとはしていません。……クロームちゃんが綱吉のこと大好きかは知らないけれど。嘘だったらごめんね。
綱吉は熟したトマトのような顔色をしてぷすぷすと変な音が出るぐらい動揺してしまった。……うわぁ。
「……ごめん、そこまで混乱するとは」
「混乱!? 混乱ではない、……よう、な」
その後も何かもごもご喋っていたが私はディーノさんに会いたいのでスルーさせてもらう。
とりあえずここに立ち止まっていてもディーノさんのいる場所わからないから、と歩き出すとなぜか綱吉もついてきた。
「綱吉はどうして廃病院にいるの?」
「っ!! あ、うん、ディーノさんに会いに!!」
「綱吉もディーノさんか」
「紗夜も?」
「うん」
ディーノさんみんなに探されているじゃないか。ディーノさん尋ね人はこちらにどうぞ、と案内看板必要だったんじゃない? なんて。
「……やっぱり紗夜ってディーノさんが……」
「なに?」
自分の名前が出てきたら気になる。だけどまた綱吉は自分の世界に入っていた。私の声なんて届かない。
上の空の綱吉をパーティーに加えてディーノさん探索。どこにいるかわからないから一階から順に室内を確認していく。パーティーといっても綱吉と二人きりのパーティーなんだけどね。
探索箇所半分は見終わってきたころにすぐ近くのドアからディーノさんとロマーリオさんのボソボソとした真剣な声色が聞こえてきた。綱吉と共にビクリと身体を揺らす。綱吉がドアノブにおもむろに手を伸ばして私を見たので頷く。開けていいと思うよ。私の返事で綱吉はまたゆっくりと開けて、音を鳴らした。
「誰だ!?」
「え…あの…、さ…沢田…です」
「………………鳴神です」
ディーノさんらしくない怒鳴り声に私も綱吉も萎縮する。まるで別人のようだった。怒られたかと思った。スクールカバンを肩にかけ直して綱吉の後ろに隠れるように待機する。
「……なんだよツナと紗夜か! 早ぇじゃねーか!」
「おはようございます! 眠れなくて…あの…」
綱吉とディーノさんは歩きながら会話していく。私はその後ろを考え込みながらついていった。
ドアを開けた瞬間は別人のように険しい顔をして私たちを警戒していたディーノさんは、私たちの正体がわかると病室から出てきていつものように明るい太陽のような笑顔で接してくれた。扉はもちろんすぐに閉められて中の様子はわからない。
その姿は、まるで……………私たちから何かを隠しているようだった。見られてはいけない、何かを。この平凡な並盛の廃病院で隠すものとは。
………………………うん、考えたらいけない。だってディーノさんマフィアよ? 一般人に見られてはいけないものの一つや二つあるじゃない。私は今回のことには関わらなくていいとリボーンから許可が得ている。今後もお迎えいらないけどね! あ、ディーノさんにもこのこと伝えた方がいいのかな?
目の前では今夜行われるらしい雲のリング戦、恭弥の勝負を心配する会話がされている。安心していい、とディーノさんの声に綱吉はほっと息を吐いてここに来てから初めて安心したように雰囲気が柔らかくなった。
………………あの、後ろに部外者いること忘れていませんか? それ、トップシークレットじゃないですか?