安全必勝祈願


気絶した綱吉をバジルさんに押し付けて私は急ぎ足で山を下った。なんで町から離れた場所で修行してるの。今日は予定が目白押しなのよ。


「ごめん! 遅くなった!」

「大丈夫だよ。今から始めるところだから」


病人が寝ているドアを思いっきり開け放ってしまった。深呼吸して息切れを整える。みんなもうすでに集まっていた。私が最後。そうだろう、集合時間過ぎているもの。

これから綱吉たちのお守り作りをする。ランボの病室で。

今日学校で京子ちゃんに提案されたことだ。綱吉たちが相撲大会で怪我をすることが多いから安全祈願と必勝祈願のお守りを作ろうと。最初何言ってるかわからなかったよね。相撲大会の意味がまずわからなかった。相撲大会の意味自体はわかるんだけど綱吉たちが相撲大会をしている意味がまったくわからなかった。それでもなんとか話を続けて行ったら綱吉たちのリング争奪戦のことを相撲大会と呼んでいることに気がつけた。笹川先輩誤魔化し方雑っ!
リング争奪戦ならぬ相撲大会のためにお守りを作ろうと京子ちゃんが笑顔で手を握ってきたので断ることなどもちろんしないでオッケーを出した。その間花ちゃんには終始怪訝な表情をされていた。私は一応無関係だから知らないふりをした。


「それぞれのお守りにみんなの特徴のデザインをつけようと思うんです」

「いいんじゃないかな。自分のだとわかって。ナイスアイデアだよハルちゃん」

「はい! ありがとうございます紗夜ちゃん!」


手のひらより少し小さめのお守りに絵柄をつける、か。とてもいいと思う。綱吉のはハルちゃんがやりたいといったので私と京子ちゃんは反対することなく許可を出す。京子ちゃんはしてはいけないだろうけれど綱吉の想いに気がつかない鈍感さんだから仕方ないか。

お守りを作っているのは京子ちゃんとハルちゃんだけではない。イーピンやフゥ太くんも。ビアンキさんは眺めている。ランボの病室でしているのは賑やかな方がランボも嬉しいのではないかというハルちゃんの提案から。
お守りに必要な材料を準備してそれぞれ分担して制作していく。

……していきたかった。


「紗夜姉……それ、何?」

「……………さあ……私が聞きたい」

「それタケシ兄のお守りだよね? ということは野球の……ボール? バット?」


私は手先が不器用なのだ。細かいことができない。ということで手のひらより小さいサイズの布に細かく縫っていくことなんてできなかった。野球ボールの丸ですらフゥ太くんからしたらなんだかわからないできになってしまったのだから。


「その、ごめんなさい……。私苦手なんです……」

「じゃあ紗夜ちゃんは文字を縫おう。安全と勝利って!」

「京子ちゃん……!」


気遣ってくれた。絵より文字の方がいいだろう、と文字を任せてくれた。だけどそういうことではなかったらしい。文字ですら歪になった。読めない。安全はまだしも勝負の文字に隙間がない。画数多いんだよ……! ……どうしよう、これ。今度は獄寺くんのをゴミにしてしまった。


「……その、紗夜姉代わろうか?」

「優しさが辛い」


フゥ太くんは綿をつめる係をしていた。イーピンは布をお守りの形に切る係。縫うのは全て私と京子ちゃんとハルちゃんでやっていた。ただし私がやったものは全てやり直し。……うん、邪魔をしているだけだね。


「そ、その……紗夜ちゃんは周りを縫うのはどうでしょうか! 文字と絵はハルと京子ちゃんでやります!」

「それならギリギリいけるような、気が……」

「やってみよ? 失敗したらまた作り直せばいいんだから」

「そうだよ紗夜姉! 紗夜姉がここまで不器用だとは計算外だったけど時間はまだあるんだし!」

「○○□□!!」

「みんな……ありがとう……!」


周りを縫うということは最後だ。文字と絵を入れてから表と裏の布を縫う。私が失敗したらまたイーピンと京子ちゃんとハルちゃんはやり直し。そしてフゥ太くんはやることがずっとない。
とりあえず今できている綱吉のを手に取ってごくりと唾を飲み込む。か、かがり縫いでいいのかな……。ハルちゃんに確認したら当たっていたのでかがり縫いを始める。小さい、怖い。誰も見てくれない。自分の作業に没頭している。ただ私のせいで何もやることがなくなったフゥ太くんだけははらはらとしながら瞬きもせずに食い入るように見つめていた。き、緊張する〜〜〜〜。


縫って縫って、綿を入れる部分だけ残して………一旦終わった、が


「………ごめんなさい!!」


やったね。やりやがったよ私。かがり縫いの幅が違う。
なんでこんなこともできないんだよ。お守りがもう少し大きかったら上手くできた、はず。細かい作業苦手。
ううっ、と地面に横になって嘆く。京子ちゃんとハルちゃんが作り直せば大丈夫と何度も声をかけてくれる。ここまで来たら私参加しないほうが良くない? フゥ太くんと代わった方がいいよね? 綿入れるだけなら失敗しないと思うし。
私応援係する。お守り制作班から抜けさせてもらおう。


「いいと思うわよこれはこれで。紗夜が言うほど幅に差はないし頑張って作ったんでしょ?」

「ビアンキさん……」

「それに、ツナはこれをもらうのがどんなお守りよりも嬉しいと思うわ。あなたたちの気持ちがこもっているんだから」

「そうですよね! 紗夜ちゃん頑張ってたじゃないですか!」

「うん。作り直す必要はないね」


ちょっとおかしいお守りはフゥ太くんの手に渡り綿を詰められる。そうしてまた私の手元に戻ってきた。綿が入って膨らむとさらに歪さが目立つ。


「ほら、あとは口を閉じて紐をつけるんでしょ?」

「……私がするの?」

「紗夜以外誰がいるの」


うっ。確かにそうだ。周りは私がやるのだから。
針山から針を抜いて糸を玉結びにする。玉が隠れるように内側から刺して今度こそ上手くいくようにさらに慎重に縫っていく。紐をつけるのも忘れないで………最後に玉止め。


「………………よし」

「上手くいきましたね!」

「すごいよ紗夜ちゃん!」


なんだろうこの園児を褒めるような言葉。褒められているのに心に何か刺さった。完成した綱吉のお守りは一カ所以外は変なところがない。一カ所だけ、私が失敗したと騒いだところだけ少し形がおかしくなってしまった。それ以外は上出来た。綿を入れてから縫った部分は真っ直ぐで間隔も一定だ。

次の分を受け取る。ボクシンググローブの絵。笹川先輩のだ。


「そういえば……ビアンキさんはやらないんですか?」

「ええ。……話しながらできるの?」

「な、んとか! 首は向けれません!」


下しか向けれない。お守りから目を離したらまたおじゃんにする。今のところとてもきれいにいけている、はず!!


「一応……念のため警戒しとかないと」

「そうなんですね……やった! 上手くいった!」

「すごいよ紗夜姉! 今度こそ完璧!」


二つ目の笹川先輩のは感覚を掴んだのか綱吉のより上手くいった。えっへん、と胸を張り綿が詰まったものを受け取って口部分を縫う。


「リボーンと話はできた?」

「まあ……なんとか」

「今日は霧戦らしいわね。……紗夜はツナの霧側の守護者誰だか知っているの?」

「骸ですよ」


いや骸じゃなくてあの子というべきか?

言い直そうとするとガサッと何か落としたような音がした。笹川先輩のお守りはちょうど出来上がって玉止めしていたところだ。ビアンキさんとの話を中断して二人して音がした方に目を向けると顔を青くしたフゥ太くんがいた。たぶん落としたのは綿の入っている袋。


「どうしたのフゥ太くん?」

「な、なんでもない。ごめんね京子姉……」

「気分悪いなら休んでくださいね」

「うん……ありがとうハル姉」


京子ちゃんとハルちゃんイーピンに心配されながら私とビアンキさんに視線を送るフゥ太くん。……そうだった。骸の名前NGは恭弥以外にもいたんだ。フゥ太くんは私とは違って恐怖を与えられていたらしく今でも骸を怖がっている。


「ごめん……」

「大丈夫だよ紗夜姉……」


次に渡されたのは獄寺くんのお守り。二度目の制作早いな京子ちゃんとハルちゃん。スピードが上がっている。
フゥ太くんに悪いことをしてしまった。気が紛れるように楽しい話題を振る。徐々に顔に赤さが戻ってきたフゥ太くんにホッとした。その間に最後の分まで終わっていた。


「変なこと聞いてごめんなさいね」

「いえっ! ビアンキさんの質問は当たり前のものですよ! 私の配慮が足りなかっただけで……」


私は骸のことを完全に許しているけれどそうではない人も多い。ビアンキさんだって全ては許していないのだから。
ビアンキさんもあまり骸の話をしたくないのかもう霧の守護者については触れてこなかった。「あと霧と雲が勝てば終わりね」と美しい笑みを向けて口を閉じてしまった。


「それにしても紗夜姉はこの短時間で裁縫上手になったね!」

「ありがとう」


私もそう思う。最後のお守りは寸分の狂いもないかがり縫いとなった。嘘、誇張した。だがそのぐらいきれいには仕上げれるようになった。綱吉以外のはきれいだ。綱吉以外の人のお守りは他人に見せても恥ずかしくない出来上がりだ。……綱吉のは、その、ごめん。でも少しだけだから。最初に作ったのがいけなかった、のかな?


「…………………あ」

「どうかした?」


みんなは片づけをしていた。
まだ布も余っているし綿もある。糸もある。少なくとももう二つ……いや三人分だ。もう三つは作れる量はある。


「あのさ……後三人分作らない?」

「まだ相撲大会に参加している人いるの?」

「うん。その人たちの分も」

「いいですよ! どなたですか?」


受け取ってくれるかはわからないけれど作るだけ作ってみてもいいと思う。誰だかわからないとその人に合った刺繍ができないよね。人物名を出そうとしたがビアンキさんに止められた。確かに骸の名は出せない。またフゥ太くんが体調を崩す。


「じゃあどんなデザインを縫えばいいかだけ教えてください!」

「その必要はないわよハル」

「はひ? どうしてですかビアンキさん」

「紗夜が一人で作るから」

「はい!?」


何言ってるのビアンキさん!!? 私の不器用さ見てなかったかな?? ぐっちゃぐちゃで何の刺繍かわからない文字も読めない縫い方をする私だよ!?
その思いは顔に出ていたらしく、口をあんぐりと開けている私にビアンキさんは呆れてしまった。


「霧と雲が紗夜以外の人間が作ったお守りを受け取ると思うの?」

「うっ……なんだかんだ雲の方は女子には優しいので受け取ると思います!」

「その子が優しいのは女子ではなくて紗夜によ」

「そんなことないです!!」


恭弥はなんだかんだ女子には優しいよきっと!! みんな違うって言うけれどそうなんだよたぶん!! 節穴め!
骸はたぶん誰が作っても無理だ。そもそも骸のことを京子ちゃんとハルちゃんは知らない。骸が知らない人から物をもらうわけない。もらっても捨てる。万が一の可能性があるとしたら知り合いである私が作ること。……骸の場合私でも無理じゃない?


「霧と雲は紗夜だけが作ったものなら受け取るわよ」


だがビアンキさんが言い切る。それなら、としぶしぶ布をお守りの形に切り取る。イーピンにアドバイスしてもらいながら。これならまだいける。


「その、雲とか霧とかなんですか?」

「天気かな?」


隠語を使ったから誰だかは京子ちゃんとハルちゃんはわからない。でもその話はさせない方がいいから話題を変えるために穏やかに微笑みながら二人に話しかける。


「刺繍のレクチャーってしてもらえる?」

「はい!」

「もちろんだよ。どんな刺繍にするの?」


これ喋ったらほぼ答えだな。だけど教わるためには教えないと。隠語にした意味が消えた。


「トンファーと……三叉槍と…………………ネコの三つ」