8個目のボンゴレリング
学校が終わり制服から私服に着替えてとある場所に向かった。そしたら第三者が見れば警察を呼びたくなる場面に出くわしてしまった。タイミングが悪いのかいいのか。不良が多く治安が悪いことで有名な黒曜中生徒二人が気絶している中学生のすぐそばに立っているんだよ。どこからどう見たってガラの悪い不良が気絶させたようにしか見えない。視線に気がついたのか、まだ真面目そうに見える方が目を少しだけ開いた。
「……、お前……」
「どうしら柿ピー……って何でお前がここに!?」
「……久しぶりだね柿本くん城島くん。元気そうでよかった」
綱吉の修行場に向かう途中で黒曜の二人と出会うと予想していた人はいない。ちょっと心の準備ができていない。骸もだがこの二人もなぜ唐突もなく私の前に現れるのか。今回の場合私が現れたのか。
「誰に用事があってきたんだ?」
「リボーンだね」
「そうか」
本当は綱吉のお父さんにだったけど日本にいないって綱吉のお母さんに聞いたからリボーンに尋ねに来た。綱吉の修行につきあっているリボーンに。
穴があくほど凝視してくる柿本くんと城島くん。
え? 服が変かな? それとも髪が変?
私の身体にいったいいくつの穴をあけるのだろうか。ずっと凝視してきている。一言も言葉にしないでずっと見続けてくるから私は目を合わせないように努める。
第三者から見ると私はどう見えるのだろう。綱吉を一緒にいじめる悪党か、それとも黒曜生にいじめられている女子か。
「おまえら今度は紗夜を叩きのめす気か」
「だよね! そっちだよね!」
「んなことしてねーっての! そいつが勝手にぶっ倒れたんらよ!」
よかった私は被害者だ。加害者には見えない。冤罪ぶっかけられるところだった。危ない危ない。
城島くんがぎゃあぎゃあ叫ぶがリボーンは華麗にスルー。相手にされてない。なんかランボを見ているような気がして慰めたくもなるが城島くんにそんなことしたらお陀仏になる可能性がある。
「……骸様と会った?」
「へ!? 私!?」
城島くんの声でかき消されそうな小さな声を柿本くんが出す。顔は私に向いていたけれど念のために私への質問か確かめると柿本くんは頷く。
「一応……」
「そう」
……それだけですか。
黒曜ヘルシーランドにいた時に会話した相手の割合。8割は骸。1割5分が城島くん。残り5分が柿本くんかな。柿本くんとはほとんど会話してなくて今も何を話せばいいかわからない。
「っんとーーおめえらウゼーー!! いこーぜ柿ピー」
城島くんはリボーンとなぜか綱吉にも悪意を向けた。二人の会話を全く聞いてなかった私には何があったかわからないが、柿本くんは耳を傾けていた。私と会話しながらリボーンと城島くんの話を聞いていた。
「お前! 骸さんに今度礼しろよ!」
「うん」
「じゃあな!」
怒り口調で遠ざかっていく背中。……なんで二人はここにいたんだろう。それも……。
見上げるとお店の看板がある。駄菓子屋と書かれた看板。お店の中には人はいない。黒曜中生がたむろっていたら良い子は入りづらいだろう。
「んで、紗夜はどうした?」
懐かしいお菓子からリボーンに顔を向ける。隣には綱吉が気絶していた。そういえばリボーンと城島くんがそんな感じのこと話していたな。気絶させた、勝手にした、とか。
綱吉が横になっているせいで私の座る場所がない。意識を失っている間に膝枕されていたと知ったら綱吉はショックでまた気絶してしまうかもしれないけれど、いいや勝手に座ろう。綱吉ごめん。
「もう逃げるのはやめようかと思ってね」
綱吉の上半身を起こして隣に座る。膝枕はさすがにやめて私に寄りかかるように固定した。地面に寝転がしたり膝枕したりするよりはマシなはず。一番は私が立って綱吉はベンチに寝転がるのがいいのだろうが。
リボーンは「喜ぶだろうから膝枕しとけばいいのに」とぼやいたがそれはないだろう。
「逃げるって何からだ?」
リボーンはしらばっくれているわけではない。だけど何もわからないわけではない。
「ボンゴレファミリーは私に何かさせたがっているんだって?」
「……なんで紗夜が知っている」
「とある伝手」
リボーンのその表情……本当のことなんだ。
時間はあまりなかった。今の騒動が終わる前に答えを出さなければならなかった。答えを出すも何も巻き込まれることは決まっている。だから私が決めることは簡単。巻き込まれるのを怯えて待つか自ら赴くかのどちらか。
「いつ来るか分からない非日常に怯えて待ち続けるのは嫌だった」
もしかしたら五秒後には非日常に取り込まれているかもしれない。十分後、一時間後、一日後かもしれない。だけど私は近々マフィアの世界に足を踏み入れなくてはいけないそうだ。一度漏らした秘密のせいで。望んで手に入れたわけではない記憶のせいで。
「だから聞きに来たの」
待つのはしない。他人の勝手に巻き込まれて死ぬなんてもう二度としない。
憎悪に満ち溢れた目は忘れることができない。どうやって死んだかはいまだに思い出せないけれど殺されたことだけは前世の記憶を思い出した日からずっと覚えていた。
どうせ裏社会を覗いてしまうのなら自らの意思で覗こう。足を踏み入れよう。とても怖いけれど、これがベストの答えじゃないかな。前世の記憶をある人間をボンゴレは捕らえたいらしいから。
「……ボンゴレには、いわくつきのリングがある」
「うん」
「ツナたちが持っているボンゴレリングの存在は知ってんだな」
「なんとなく」
リボーンはしばらくして重い口を開いた。じゃっかんいつもより声も低かった。
「ボンゴレリングは全部で7つ、……ってのは嘘なんだ」
「そうなんだ」
「実際は8つ。これを知っているのは初代ボスと守護者たち、そして受け継がれた代々ボスと門外顧問のみ」
今この世に存在する人で知っているのは今のボンゴレボスと綱吉のお父さんのみか。リボーンは日本に来るときに今のボンゴレボス、リング争奪戦というふざけた企画をした9代目から聞いていたらしい。ということで実質三人。企業秘密を教えられるなんてリボーンは相当信頼されているんだろうな。
「その一つが他の七つのリングとは桁違いのいわくつきでな、初代のそのリングをつけていた守護者以外の適性者が現れない」
「守護者ってそうやって決めるんだ」
「………………それだけ、例外なんだ」
獄寺くんや山本くんは選ばれた勇者のようなものではなかった。他の六つ、ボスのリングを除いた他のボンゴレリングはいざとなったら誰でもつけれる。それぞれの守護者に役割があるから誰でもいいわけではないがいざとなったらそこら辺にいる老若男女誰でもつけることが可能らしい。
「ボンゴレリングはそれぞれが天候になぞらえていてな。それは知ってるか?」
「知らない」
ご丁寧に知らない部分は説明してくれた。晴 雨 嵐 雷 雲 霧の六つ。なぜ天候かといえば初代ボスが大空のような人だったから。へー、以外の感想がない。何を言えばいいのかわからないんだよ。
綱吉側の味方がそれぞれ何のリングを持っているかも教えてもらう。笹川先輩の晴と獄寺くんの嵐はしっくり来るけれど他はあれー? と首を傾げてしまった。その後のリングを持つ人物像を聞いたらまた納得できたけどね。雲はなにものにもとらわれない、だって。恭弥にピッタリじゃん。
「問題のリング……その名は、───白虹のリング」
「しろにじ?」
「そのままの通り、白い虹と書いて白虹だ。聞いたことないか?」
「ない」
先ほどから無知を見せびらかしている。恥ずかしい。
今世生きてきた14年間、前世生きていた14年間、合わせて28年間一度も聞いたことのない単語だ。白い虹とはなんぞや? そもそもそれ天候ですか? 違いません?
「見たことないか? 白い虹」
「ない」
「そうか。白虹のリングは初代白虹の守護者にしかつけれなかった」
他のリングみたいに白虹のリングとかいうものの人物像を説明してくれるかと思ったら違かった。
リボーンはどこか暗いような気もする。
「白虹のリングは二代目の守護者にも渡された。しかし………リングをつけた途端死んだ」
「……なぜ?」
「わからねぇ。だが同じことが何度も続いた。どれだけ健康でもみんなつけた瞬間眠るように死んでいった。その恐ろしさと……もう一つの噂から白虹のリングは厳重に二度と世の中に出さないように保管されることになったんだ」
「………………ちょっと待て。それをなぜ私につけさせようとした。遠回しの殺人予告? 死んでくださいということ?」
もう一つの噂も気になったが一つ目で聞くどころではない。ふざけるなよ、とリボーンを見る目が少し血走ったがすぐにいつも通りに戻ってリボーンと同じように前を見据える。リボーンの雰囲気が違うと物語っていた。厳かで、いつもとは違う。綱吉を殴ってでも起こしたくなった。
嫌な予感が、する。
「初代白虹の守護者にはとある噂があってな。その噂もリングと共に代々ボスと門外顧問に受け継がれている」
骸だ。なんだっけ? 骸が言っていた。なんだっけ、じゃない。ちゃんと覚えている。ボンゴレが私を引き込もうとしている理由、それは
「前世の記憶があった、と」
前世の記憶だ。
そうか、ここで繋がるのか。だから綱吉のお父さんも聞いてきたんだ。綱吉の守護者にするために。
「それが基準かはまだわからない。だが……紗夜、もう一度聞くぞ。お前に前世の記憶はあるのか?」
ここでうんと頷いたら私はどうなるのだろうか。ううんと首を振ったらどうなるのだろうか。
「…………………………っ、」
声が出ない。私は怖いんだ。また気持ち悪いと周りに心無い言葉をかけられるのが。お母さんのように誰かを壊してしまうのが。奇異な視線を向けられて孤立するのが。
だんまりを決め込んでしまう。縦でも横にでも首を振ればいいのに動かない。
「……オレと家光は決めた。紗夜を今回の騒動に巻き込まないと」
遠くからバジルさんの声がする。「沢田殿ーー!!」と叫んでいる姿からして探しに来た様子だ。
「前世の記憶を持っていても持っていなくても、白虹のリングを手にする素質があってもなくても」
「リボーン! いつまで待たせる気だコラ!」と珍しい語尾がついた、青いおしゃぶりのアルコバレーノ コロネロの声も。鷹の足に掴まれていて。やはりあの飛び方は捕食される瞬間にしか見えない。
「ヴァリアーにも白虹のリングを手にする守護者候補はいないしな。ツナが勝って正式にボンゴレ10代目となったら迎えに行く」
リボーンが言い終わるとすぐにバジルさんとコロネロが駄菓子屋に来た。たぶんリボーンは二人が来る前に話を終わらせてくれた。私が公にしたくないことを悟ってくれた。
「あれ? どうして鳴神殿がこちらに?」
「あん時の女か」
巻き込まれるぐらいなら自ら戦地に足を踏み入れようとしたが、それでも怖い。巻き込まないでいてくれるならそれが一番だ。
「……綱吉に会いに」
「気絶なさっていますが……一体これはどうして……」
「久しぶりに紗夜に会えて嬉しかったのか、急に踊り出して電柱に頭をぶつけてたぞ」
「そうですか……」
信じるんだねバジルさん。コロネロは疑っているけどリボーンは黒曜の二人のことも白虹のリングのことも口には出さなかった。
そっか巻き込むつもりはないんだ。骸のハズレ。だけどそれは今回だけ。
「……迎えもいらないけどな」
「何がですか?」
バジルさんに聞かれたけど私は喋らずに微笑んだ。