ほんとどうしようもない
最近は激務だった。なぜか学校で爆発がどっかんどっかん起こるし。訳は後に知った。綱吉と獄寺くん山本くんの三人組が犯人。本人たちが教えてくれた。本人たちというより山本くんが。綱吉は気まずそうにしていて獄寺くんはケッと顔を逸らしていた。正解者の反応は綱吉オンリー。なぜ校舎修繕費に予算を回さないといけないんだ……!! 普通ありえないっての……!
また私が知らない間に綱吉が暴走したらしい。調理実習で作ったおにぎり全てたいらげたとか。男子中学生の胃袋怖っ。その日に綱吉が京子ちゃんを好きなのも人伝てに聞いた。本人に確認はまだしていないけど確かに京子ちゃんを見ているときの綱吉の顔はだらしない。青い春だなあ。
同時期に期末テストもあり余裕ぶっこいていたらなぜか学年二位。
はあ?
返ってきた順位表には総合二位、またそれぞれの教科も全て二位。たとえ人生二度目だとしても100点を私は取れなかった。全て90点代。人生二周目の私より点数が取れた天才がこんな平凡な公立の学校にいるのかよっ、と震えていたら後ろから鼻で笑われた。少しイラついてしまい順位何位だったのと転校初日に比べて話しかけやすくなった不良に声をかけたら紙を机の上に放り投げた。その紙には総合も各教科もオール一位と書かれていて全部100点の成績が。思わずその場で『はあ??』と声を荒げたら担任にめちゃくちゃ心配された。あまり私は人前で取り乱すことないから余計心配された。その後綱吉と山本くんまで来てなぜか獄寺くんと一緒に話の輪に入らされた。心配されて感心されて。赤点の二人には獄寺くんと共に一瞬無言になったが。獄寺くんが綱吉だけフォローしていたので私は山本くんをフォローした。なぜか今度勉強を教えることになった。
そして例の屋上の案件。握りつぶすことには成功してフェンスの修理も終わり開放された。
そんなこんなで7月中旬。今度は部活動の関係で忙しくなった。大会で負けて三年生は引退。新体制で始まるところも多々あり、新たな部長たちと部活動会議。学生一大イベント夏休みが控えていることもあり夏休みの間に補習がある生徒の教室貸し出しや部活動での体育館グラウンドの奪い合い。重ならないように平等になるように部活動会議で話し合って決めなければならない。夏休み中にも生徒会長の仕事は控えている。
放課後、部活に入っていない一年生は本来だったら下校していいはずだ。それなのになぜ私は生徒会室に一人引きこもっているのだろうか。
ポキリ、シャー芯が折れた。私の心も折れそう。
暑くてクーラーを入れていた。恭弥が買っていいよと許可をくれた。なんだかんだ恭弥が最終的に決めるのだ。会計いないから私がやっているが恭弥がやればいい。前にそう言ったら、僕は風紀委員長だよと一蹴された。
空調の効いた涼しい部屋。私はふかふかのイスから立ち上がり窓を開ける。ふうと息を吸って───
「私は社会人かよっ!!!」
思いっきり叫んだ。
だってこれ絶対に違うじゃん。中学生の労働超えているじゃん。そもそもこの学校は中学生に何をやらせているの? 学校というより恭弥だね。なぜ並盛中は恭弥に全ての実権を握らせているの? 今から来年のことを考えると憂鬱なんだけど。絶対に3月4月のほうが今より忙しいって。
「……一人は無理だって。疲れた……。副会長書記会計庶務ーー……欲しいよお…」
一人で抱えるのには量があるんだって。何でもできる天才肌の人生徒会に入ってくれないかな……。私まだ13だよ? 前世含めるとアレだけど、含まないと13歳の、本来だったら青春送る側の女の子だよ? それなのになんで貴重な放課後を激務に費やしているのだろう……。
「……暑い」
窓を閉めよう。室内の温度が上がっただけだ。恭弥も風紀委員会としてのいい部屋が取れるまではここにいる。今は見回りでいないけど帰ってきたときに窓が開いていたら眉間にシワをめちゃくちゃに寄せることだろう。たぶん恭弥は女子には手をあげない。私は小さい頃に何回かトンファーでぶん殴られたが成長していい年になると何をしても本気で制裁を下されることはなかったのだから、とこの前風紀副委員長草壁先輩と話していたら
委員長が優しいのは鳴神さんにだけです
だって。それは絶対にないから訂正しといた。間違えて恭弥の前で喋ったら咬み殺されちゃうからね。とてもとても渋い顔をされたが。
恭弥が用意してくれているお茶とお菓子を手に取ってまたイスに戻る。まだ残っている山のように積まれている紙を眺めて机に突っ伏す。
「やりたくねえ……」
「この量をその歳で捌いているのか。見事だな」
「うん……。獄寺くん何度も勧誘しているのに首を縦に振らない……」
「獄寺と普通に会話しているのも見事だ」
「変なこと言わなければ獄寺くんは会話してくれるよ」
獄寺くんが頭いいと知ってから何度も生徒会に勧誘しているのに
オレは10代目以外のやつの下につかねえっ!
と拒否される。その頭の良さで助けてくれよ……。
「そもそも10代目ってなにぃ……」
「マフィアだ。イタリア最大マフィア、ボンゴレファミリーのな」
「あっはは この日本でマフィア………………あれ?」
私今誰と会話してるの?
生徒会室に誰が来る? 来る人はなんか最近三人組が増えたけれど、ほとんど近寄らないよ? そもそも一人で執務をしていたのになぜ私以外の声がするんだ?
むくりと起き上がると机には紙束以外にも黒い物体が乗っていた。
「ちゃおっス。久しぶりだな、紗夜」
「……きみは、あの時の赤ん坊」
「リボーンだ」
綱吉がパンツ一枚で告白したという事件の日に出くわした赤ん坊。告白も後日聞いて、剣道部主将とは意中の女子生徒を取り合ったというのも後日知った。京子ちゃんモテモテだな可愛いから納得がその時の感想だった。
約一ヶ月前に出会った赤ん坊が今日は何故か生徒会室にいる。
「え……っと、リボーン…くん、は」
「リボーンでいいぞ」
「……そ、そう? リボーンは誰の弟なの?」
「兄も姉もいねぇぞ」
この子はなぜか怖い。赤ん坊らしくない赤ん坊。でも恐怖を表立って出すのも失礼だから震える手をなんとかおさめて優しく接する。
リボーンは私の震える手にとっくに気がついて指摘しないでいてくれたらしいが。
兄姉がいないのになぜ中学校にいるのだろう。私は勝手にどこかの誰かの弟だと予想して探しに来たのだと思った。もう放課後だから用がないなら帰っているだろう。
どうやって入り込んだのかはわからない。家まで送っていってあげないと。お家の人は心配しているだろう。おしゃぶりをつけている年の赤ん坊が家から消えたら血眼で探すはず。
「お家はどこかな? 送って……送って行く、でわかるのか……?」
赤ん坊って送るの意味わかるのか?? 抱き抱えて泣かれでもしたら私は誘拐犯になってしまう。赤ん坊に弁明ができるわけなく私の主張は関係なしに牢屋に放り込まれるだろう。
どうしよっかな。ダメ元で迷子の放送をかけてみようか。リボーンの身内のもの、リボーンは生徒会室で預かっているので引き取りに来てください、と。……どう聞いたって誘拐犯の脅迫じゃないか。
忙しいときにさらに仕事が増えた。
もういや……。
「マフィアには何も反応しないのか?」
「え? えーー………だってそれ、」
「本当だぞ」
嘘でしょ、と言葉にする前にリボーンに重ねられた。
なぜか、その言葉がとても重く私に降りかかる。
「ツナはボンゴレファミリー10代目ボスの候補だ」
平凡な日常で生きてきていた友人が急に訳わからない赤ん坊にマフィアのボスと言われてすんなり信じられるわけなんかない。マフィアについて詳しいわけではないから想像と曲解も含まれるが、マフィアはバンバン拳銃を撃ち合って腹の探り合いをしているイメージがある。とりあえず頭が良くて運動もそれなりにできて体力もあって、……人を殺すイメージだ。それを綱吉が、できるわけ、ない。
「そこでだ。紗夜」
変な汗が出てくる。
暑くはない、この部屋は冷房を効かせているので涼しいのだ。ワイシャツも半袖タイプのを身につけているので暑い訳はない、のに汗が頬をつたって落ちる。
「ボンゴレファミリーに入れ」
「っ、」
子どもの冗談なのに、それなのにそう思わせてくれない。本当だと信じ込ませてくる。
なに………っ、この赤ん坊は……っっ!!
「ツナとは小さい頃からの仲なんだろ? ツナも紗夜がいると安心するみたいだしな」
……何が言いたいの、この子は。
「その事務管理能力や誰とでもそつなく関われる対応力は必要だ。同盟ファミリーとは絶対に関わるからな」
それは13にしては珍しいなという意味だ。今後にさらなる期待を持っているのだろう。20代の人たちに比べたら私は全てが劣っている。私は社会人を経験したことはないのだから。本職の人やもっとコミュニケーション力がある人に比べたら私は……そんな力はない。
「入らないか?」
「っ、入ら、ない」
ようやく声が絞りでた。きゅるんと目を丸くするリボーンは理由を教えてくれと。理由、理由なんて……
「マフィアは、怖いから」
それだけだ。
震える身体を抱きしめる。
知らない。マフィアのことなんて何も知らない。だけど命の奪い合いは怖いんだ。
並盛町にだってヤのつく会社は存在する。治安がいいとは言いきれない。それなのに私がこの町にいれるのは危ない人たちとは関係ないと言い張れるからだ。関わるなら……怖いっ。
「……そうか。だがオレはもう入れるって決めたんだ」
気がつくとリボーンは机の上からいなくなっていた。窓を開けてさっしに立っている。
「じゃあな」
「待って!!」
あさりとかマフィアとかよくわからないけれど、この子には聞きたいことがあった。
飛び降りようとするリボーンに声をかける。
「その、……前世、と聞いて何か思うこと、ある?」
ずっとずっと聞きたかった。赤ん坊らしかぬこの子は前世の記憶を受け継いだ仲間ではないか、と。
少しだけ期待していたんだ。でも、一瞬だけだったが鋭い眼光を向けられてその期待は崩れ落ちた。
「何のことだ?」
「今読んでいる小説にそんな話があって」
「そうか」
じゃあねと手を振って今度こそリボーンは飛び降りた。瞳が答えだった。前世の記憶はないという。だがそれにしてもなぜ私はあんなにも警戒されるような目で見られたのだろうか。
軽く流したがここは一階ではない。それを飛び降りたリボーンは前世の記憶を持った赤ん坊という存在とは格が違う生き物なのだろう。私とは違う。
ため息をついて机に項垂れた。
「マフィアとか意味わからない……」
リボーンは諦めないとか言いやがった。
私の逃げ道は全て塞がれていたことに、私が気がつくのはいつになることだろうか。
「……そもそも本当のことなの?」
「何が」
「……今度は恭弥か…」
「……ねぇ、誰か来てた?」
「暑い中見回りご苦労様」と声をかけると恭弥は窓を閉めた。そうかあ、それで誰か来てたか疑問を持ったのか。窓から出入りする特殊な人間は恭弥を含めて少しだよ。
よく見ると恭弥は返り血をつけてきていた。恭弥の暴力は慣れてきたのか直視しない限り平気だけれども、マフィアに関わるのは怖い。