爆発した鬱憤


「雷のリングを持つオレの相手はそのおん………………」


紗夜が夜道で襲撃を受け、了平を先頭に獄寺山本に助けてもらってすぐに次なる敵が現れた。中学生の身長の倍の高さはある山道から見下ろされている。
現れた敵、ヴァリアーの雷のハーフボンゴレリングを持つレヴィ・ア・タン。彼は己の部下である雷撃隊から報告されていた通り、自分と同じ種類のハーフボンゴレリングを持つ赤髪の少女に射殺す視線を向けて地を這うような声を出したが途中で止まる。
赤髪の少女の紗夜はとんだ愛くるしい少女。殺しとは無縁そうな少女。出血を抑えるように左肩を握りしめて地面に寝転んでいた。


「……………………」


紗夜はイーピンとフゥ太に身体の上からどいてもらって起き上がり、怯えも睨みもせずにレヴィを真っ直ぐと見る。


「…………いや、おま、その、……じゃなくてパーマのガキだな」


紗夜の女性らしい身体つきに一瞬ボンゴレリングの奪還をやめてしまいそうになったが己の仕えるボスのことを頭に浮かべ煩悩を消し去る。冷静になり、よく見てみればツナの足元にしがみついていたランボのもじゃもじゃの髪にリングが引っかかっているのを発見した。
内心安心した。中学生らしい丸い青い瞳のあどけない顔、であるのに凶暴な身体。好みであった。部下の誤報については後で注意しなければ。


「……………………………」


紗夜は何も言わずにじっと現れた敵を見上げていた。自分からランボに標的を移し武器を出そうとするレヴィを光のない青い瞳で視界に入れる。心なしか、負傷した肩を握る手が強まっていた。


ランボのハーフボンゴレリングを奪おうとするレヴィに獄寺と山本と了平は臨戦態勢に入る。彼らも相手との格の差を感じ取っており冷や汗が流れていた。

両者睨み合っていると


「待てェレヴィ!」


声と共に危なそうな輩が跳躍して現れた。身軽な着地と高い身体能力、レヴィとお揃いの服装から現れたものがヴァリアーだとツナ一同は感じとる。機械のようなマスクをしている巨躯、モヒカン部分が緑のサングラス、ティアラをつけている金髪、リボーンと同じくらいの背丈の赤ん坊、そして


「う"お"ぉい!!! よくもだましてくれたなぁカスども!」


銀髪のロン毛。ツナたちを襲ってバジルから偽のハーフボンゴレリングの強奪に成功した強敵。ツナと獄寺と山本が一度負けた相手。
銀髪のロン毛、スクアーロの登場に空気がより一層引き締まったところにティアラをつけた金髪、ベルフェゴールが「あ」とヴァリアーだけに聞こえる場違いな声を出す。なんだよ、とスクアーロに訝しげな視線をもらってはいたがそんなものはベルには関係ない。
スクアーロが己と同じ雨のハーフボンゴレリングを持つものをツナたちに尋ねるのと同時にベルは口を大きく広げ白い歯を出して指さした。


「あん時のトロい女じゃん」

「…………あのときの……」


指された先。みんな紗夜にぐわっと視線を送る。ツナたちだけじゃなくヴァリアーからも注目されている紗夜はそれでも無表情だった。

もちろん覚えている。あの衝撃的な出来事を忘れることなんてできなかった。ニオイも赤い血も横たわっていた人の表情も、笑顔で殺ったことを隠すこともなくさらに死体を増やそうとしたやつの顔も。
紗夜の唇は少しだけ動いたが全く動揺しない騒がない怯えない。ベルと視線を交えていた。


「お前出んの? マグレでも王子の攻撃避けたくせにレヴィの部下にやられるとかバカ?」


ベルの質問に紗夜は答えない。珍しくベルはそれに腹を立てた様子はなかった。無視をされてもなんとも思わないように、むしろ楽しそうに鼻歌を口ずさんでもいる。


「………え!? は!? え……っと、!!! ええ!!?」


酷い動揺をしているのはその周り。本人たちは何もどうもしない。


「なんで紗夜がヴァリアーの人と知り合いなの!!?」

「まあベルちゃんったら。避けられちゃったの〜〜??」

「うるせぇオカマ」


また紗夜の目が暗く染まる。すぐ近くで訳をうるさく尋ねてくるツナたちにいっさい口を開かない。じっと見上げている。ベルやレヴィだけじゃない。ヴァリアー全員を一人ずつ。

それは誰に対しても変わらない。スクアーロを押しのけて出てきた恐ろしい瞳を持つ男にもだった。顔に傷があり老若男女構わず気に入らないものは全て殺してきたような男が現れても紗夜は一切言葉を放たずにヴァリアーを一人ずつ見ていた。痛む肩を握りながら。


XANXUSが手を光らせて攻撃をしてこようとした時も

家光たちCEDEFが現れてつるはしがXANXUSの足元に投げられた時も

殺気ばっちばちで言葉を交わしている時も

9代目の勅命が読み上げられている時も


ずっとずっと黙ってヴァリアーを見上げて肩を押さえていた。人間の力、それも鍛えてもいない女子の力などたかが知れていて、血を止めることなんてできやしない。だらだらと流れ続けていて制服は赤く染まる。カーディガンも血を吸って重くなっている。お腹にまでつたっていて肌には赤い線がいっぱいついていることだろう。手も赤黒いのだから。


「同じ種類のリングを持つ者同士の1対1のガチンコバトルだ」


ボンゴレNo.1であるボンゴレファミリー9代目の勅命を読み上げたボンゴレNo.2である門外顧問。門外顧問から厳粛な声でボンゴレ公認の決闘のスタートの合図がおろされた。
睨み合う沢田綱吉率いるファミリーとXANXUS率いるヴァリアー。


「…………………発言の許可をいただけませんか?」


そこにたった一人、ずっと無言だった無関係者が手を真っ直ぐと天に伸ばす。怪我をしていない方の腕で挙手した紗夜はまた注目を浴びた。
いつのまにか俯いていた紗夜。表情はわからないし声はいつものように柔らかかったが、いいからさっさと寄越せよこの野郎、となぜかみんな聞こえてしまった。


「あ、あ……」


家光から戸惑った声で、それでも許可をもらった紗夜は大きく息を吸って────


「まずは謝罪だろ!!!!」


叫んだ。心の底から叫んだ。紗夜にずっと抱きついていたフゥ太が飛び跳ねて耳を塞ぐ。
我慢した。真剣な話し合いが始まったから邪魔せずにずっと口を閉ざしていた。だから勅命を読み終わり、一端話にキリがついた今なら思いを全て吐き出していい。


「人としての常識じゃねーのかよ!! 間違ってただの一般人を殺そうとしたことへの謝罪は一つもねぇのか!! 見下ろしてんじゃねえ!! 降りてこい!! へりくだて!! 頭を下げろ!! 地面に這いつくばれ!! 許しを乞え!!」

「……紗夜…?」

「……お前、そんな性格だったか?」


初めて見た紗夜の姿にツナ一同も思わず距離を取ってしまった。地面に向かって叫び続ける少女はいったいどんな気持ちなのだろうか。


「一般人巻き込んで何も思わねェのかよ!! この殺人犯ども!!」


紗夜はひたすら大声で怒鳴り続ける。
痛かったのだ。死ぬかと思ったんだ。また途中退場で、また享年14で終わるかと恐怖で怯えたのだ。


「プロの矜持もねぇのかよ!! てめーらなんてプロの暗殺者じゃない!! ただの人殺し集団だ!! 殺し屋じゃない!! クソ殺人鬼だ!! 今年に入って何回制服使えなくなっていると思ってんだよ!!」


全く関係ない。出会ったのも初めての者の方が多い。それなのにヴァリアーと比べ物にならないアリ程度の弱者にいきなり暴言を吐かれる。たった一人の男のせいで。
ヴァリアーはXANXUSと当人以外その問題の男を凝視する。てめえのせいで他はともかくオレまでもクソ扱いされてんじゃねぇか、と。


「それに……っ殺すなら夜にやれよ!!」


殺すのはいいの!? とツナはつっこみそうになったがなんとか飲み込む。今そんなことを紗夜に言ったら怒りの矛先がツナに変わる。見たことのない昔からの友人、他の友人とは少し違う紗夜におろおろと視線を向ける。なんと情けない。好きな子が怪我させられたんだから紗夜みたいに言い返せ、がリボーンの今の感想だ。
あと一つ言うが、もう夜。空は真っ暗。


「日中堂々やってんじゃねえ!! 私の近くでやんな!! だから目撃しちゃったんだよ!! 夜にやれ!! もっと姿を隠せ闇に紛れろ!!!」

「……これ、レヴィじゃなくベルじゃないかい?」


今度ヴァリアーが凝視したのはベル。
はあ? とベルから不機嫌さが漏れ出た。


「うろちょろしていたおめーが悪りぃんだろ」

「ただ通りかかった一般人を殺そうとするあんたが悪いに決まってんだろーが!!!」


XANXUSがいる手前ベルが攻撃することはない。

怒りであつくなっている紗夜はお忘れだがこの場にはXANXUSがいるのだ。XANXUSがいる場で暗殺集団に怒鳴り立てれる時点で一般人とは無縁なことに紗夜は気がついているだろうか。


「もっと部下の教育しっかりしろ!!!」


一通り叫んだのか紗夜は一度口を閉じて肩で呼吸する。距離をとっていたツナたちが恐る恐る近寄っていった。


「……怖かった」

「紗夜……」


人が変わったかのようなか細い声。ツナが背中に手を置く。


「寝れなかった……。そしたらディーノさんが一日中ベッドの横にいてくれて…それだけが幸せだった……」

「はい?」


つい数秒前まで怒りをぶつけていた人が何かを言い出した。いつのことかもなんのことかもツナにはわかりっこない。ただなぜかツナは不明瞭な怒りと不愉快さを感じてしまう。


「それと…次の日カルロさんが花束くれた……。イケメンの笑み心臓に悪い……」

「かるろ……?」

「おい!! カルロってあのカルロかっ!!?」


ぼそぼそと呟く紗夜の声はツナだけじゃなくヴァリアーにも聞こえていた。紗夜の口から出てきた裏世界では有名な男の名。同じ学校に通っていた同い年の男。関わることはほとんどなかったが、つまらない学校の中で異彩を放っていたためスクアーロが一目置いていた奴の名。己に利益がない限り他人と関わることはない男が紗夜と接触している。

このガキどもにいったい何があるんだ。スクアーロは大声で問いたが紗夜は返さない、というよりも聞こえていない。スクアーロの大声が耳に届いていない。


「(……あ、……なんか、くらくらする……)」


意識が朦朧としてきた。肩が熱い。


「カバンの中に……宿題入ってるから、開けてもっていって……。笹川先輩の分は京子ちゃんが受け取って、いたから……。あと、」


ああだめだ。
最近怪我と出血多いなあ、と紗夜は冷静に思い浮かべる。


「このことはおとーさんたちに、いわないでほしい」


ぐらり、紗夜の身体が揺れる。
誰かが慌てて手を伸ばしたのを最後に紗夜の意識は途絶えた。