死を覚悟していた
久しぶりにここまで帰るのが遅くなっちゃった。仕方ないよ、部長会議に参加していたんだから。その後に残っていた生徒会の仕事を片付けてたんだから。
もう空は黒く染まっていて街灯がないと歩くのも怖い。一応住宅街だから家から明かりは漏れているんだけどね。それでも真っ暗だ。なんか不審者が出そうな暗さだなあ。な〜んてね。あははははは。
「紗夜ーーっ!」
「紗夜姉っ」
「○○×!!」
一人で歩く夜道で急に後ろから突撃された恐怖をこの子たちにわかるだろうか。
まず背中に乗られたことで地面にダイブしたよね。倒れた音が聞こえているはずなのに二人がまだ乗ったままなんだよね。夜道に地面にうつ伏せになっていて微動だにしない少女、そんな少女に乗っている子ども。……怖いわ。救急車と警察呼びたくなる。
「……降りよっかランボにフゥ太くん。イーピンありがとねカバン拾ってくれて」
何キロが背中に乗っているんだろう。いざとなったら起き上がれるんだけど、ちょっとそんな元気ない。今日疲れているからそこまで体力ない。
「聞いてよ紗夜姉!! ランボのせいで京子姉とハル姉とはぐれちゃったんだよ!!」
「違うよ! ランボさんのせいじゃないもんね! ランボさん何もしてないよ!」
「ランボがエスカレーターで角を落としたからはぐれたんでしょ!!」
そんなことは後で討論してくれよ。とりあえず背中から降りてくれよ。ランボはともかくフゥ太くんは周り見てみよう? イーピンは私の気持ちわかってとても心配してくれてるよ? 年下に負けるってプライド傷つかないかな? なんともないなら乗り続けててもいいけどさ。…………いつまで待っても降りないなぁ。
「……ごめんねぇ、本当にごめんねぇ。降りてくれるかなぁ?」
「わっ、ごめんね紗夜姉!」
フゥ太くんは他人の思いとか感じ取るのは上手い方だ。そうでないと上目遣いとか弱々しい自分を演じて頼み事はしない。あざといところがあるのだ。そしてそれを使える人と使っても意味がない人がわかる。
私が潰れていていろいろ限界なことが分かったのだろう。素早くどいてくれた。ランボは動かないが。
「ランボさん疲れたぁ〜。紗夜運べー!」
「はいはい」
背中にしがみついててね、と頼むと頭に乗ってきた。ランボぐらいなら持てる。いいなぁ、とねだってきたフゥ太くんとは手を繋ぐ。ごめんね、フゥ太くんをおんぶする元気は残ってない。イーピンならいけるよ、と抱っこ表示したのだが「謝謝」と頭を下げて自分で歩き出した。自分に厳しい子だ。ありがとうだけは中国語でも理解できたよ。有名だからね。
「綱吉は家にいる?」
「今日もツナ兄に用なの?」
「違うよ。紗夜はランボさんに会いにきたんだよ。紗夜はオレっちの愛人だもんね」
「そうなの〜宿題を届けにね〜」
「紗夜姉が届けた宿題ツナ兄がやっているところ見たことないよ」
「……じゃあもう毎日届けなくてもいい? 最終日に全て渡すからいつまで学校に来ないか教えて」
「さあ? わからない」
「だよね」
この後山本くんと獄寺くんのところにも寄らないといけない。私 京子ちゃんが笹川先輩の分の宿題受け取っているところ見ちゃったよ。ということはその四人と恭弥が今暗殺集団に向けて修行中なんだね。みんな元気にやってるのかな? 宿題届けている時に山本くんの顔はいつも見てるんだけどね。和服姿で素振りをしていたり真剣でテレビで見たりする筒状で立っている藁みたいなものを切っていた。あれ名前なんだろう。
山本くんと恭弥は見ているから元気なのはわかるし、京子ちゃんからも笹川先輩が元気でコロネロという赤ん坊が一緒にいることは聞いている。コロネロという名前どこで聞いたっけ、と考えたが青いおしゃぶりをつけた赤ん坊という説明で全て思い出した。マフィアランドの強いリボーンの仲間だ。
綱吉と獄寺くんは知らない。綱吉もこうやって人伝てで聞いているけれど獄寺くんだけはまったくわからない。
「目標確認」
仲良くお話ししながら綱吉のお家まで送っていると上から冷たい声が。
なんだ? 上を向くと一人の男がなんか、フェンシングに使うような武器を私の喉元に向けて突き刺し────
「哈!!!」
突き刺すところだったがイーピンが蹴り飛ばしてくれた。首の皮一枚で命が助かった。イーピンが撃退してくれた。惚れるかと思った。中国拳法称えてしまうところだった。
実際ただ恐怖から腰が抜けているんだけど。
「貴様ら……っ」
攻撃が浅かったのか、男は立ち上がった。
……なんでだろう。どこからどう見たって男の標的が私なんだよね。殺意がこもった瞳が攻撃したイーピンではなくて何もできなくてしゃがんでいる私を見ている。
……私、何かした、かな?
「××○!」
これがディーノさんの言っていた暗殺集団なのか。
攻撃を仕掛けたイーピンだったが敵のフェンシングの棒みたいなやつで吹っ飛ばされる。先で刺されるのではなくて横を使って吹っ飛ばされたのでまだよかった。命は、ある。
男は歩いて私たちと距離を詰める。余裕の表れ。実力差を感じ取って私たちを殺すことなんて造作もないのだ。……………この中で、一番の年長者は私だ。他の子はみんな子ども。それなら……、
「……フゥ太くん…ランボとイーピン連れて、逃げて」
「なんで!? それだと紗夜姉が……!!」
「……心当たりはないけれど、あの男の狙いは私、だから」
震える脚に手。立とうとしても力が抜けてしまう。
それでも、ここは私がやらないと。他に誰もいないんだから。さっき変なフラグ立てたの私だし、ね。
イーピンがまた吹き飛ばされた。転がってきたのは……都合よくフゥ太くんの足もと。
「……行って」
「紗夜姉はどうするの!!? 紗夜姉じゃ勝てないよ!!」
フゥ太くんは厳しい現実を突きつけてくるなあ……。
だけど、やらなきゃいけないだろう。
カバンを開いて中からスタンガンを取り出す。いけ、やれる。
「……電気」
脅すように青い火花を散らす。逃げてくれるかと思いきや何やら通信機で仲間と話し始めた。
「こちら01。雷のリングを持っているのは赤髪の少女です。
───わかりました。バラします」
「……あなたが一番お兄さんでしょう?」
男が向かってくる。
やだなあ、怖い。身体は正直なんだよ。さっきから手も足も声も、何もかも震えている。
それでもやらなきゃなんだね。
「────早く行けっっ!!!」
「っ、すぐに人を呼んでくるから!!」
本当に空気が読める賢い子だ。こんなところで四人一緒にいたって全員お陀仏となる。この男はどこからどう見たって私しか狙ってない。それなら私以外の三人が助けを呼びに行くのがみんなが生き残る一番の最善策。ただし、それは近くに人がいたらの話。私の力じゃ数秒も持たずに……終わる、だろうな。
……死にたく、ないのに。
男はまたフェンシングに使う棒のような武器を構えて向かってきた。
いやだ、しにたくない
足掻いたっていいだろう。醜く暴れたっていいだろう。
持っていたカバンを投げたら男は当たり前のように避けた。ビュンッと男は突き刺してきた。恭弥よりは遅い。一度恭弥とディーノさんの攻防を文字通り目の前で見たからかな。遅いのはわかったんだ。見えたんだ。だけど、避けれるほど私の身体は素早く動けない。
「いっっっっ!!!!」
焼けるような痛み。何が起こったかわからない。とりあえず痛い。肩がいたい。さされた。
「致命傷は避けたか……。シロウトでも雷のリングの所持者だ」
「っ、さっきから何言ってんのかわかんねーんだよ!!」
口が悪くなってしまう。場が場だからいいか。私を殺そうとしている殺人鬼になんで言葉を選ばないといけないの。
近づいてきた男にスタンガンを突きつけたが避けられて手を蹴られる。スタンガンが地面を転がっていった。
…………うそ、もう、これじゃあ……私勝てないじゃん
しぬ、いがい、みちがないのかな……
から笑いが込み上げてくる。よろけてぶつかったのは石壁。ずるずるともたれるようにしゃがみ込んだ。肩が痛い。抑えても血が出てくる。
男に慈悲はない。私の前に立ってまた武器を構えた。
「────っ紗夜!!!」
綱吉の声が遠くで聞こえた。ゆっくりと顔を向けるとフゥ太くんが呼んできてくれたのか、綱吉と先ほど逃げさせた三人が走って戻ってきた。
「、つな……、」
綱吉が手を伸ばしている。だけど届くわけがない。距離がある。どれだけ頑張ったって詰めれる距離ではない。
にげて
たすけて
真逆の言葉がぐるぐる回る。綱吉がここに来たら死体が増えるだけ。でも見捨てられたら私は死ぬ。
綱吉の位置からだと絶対に私を助けることはできない。それよりも先に私の身体に剣が刺さる。
「────────」
───生きたかったなあ
綱吉に同じように手を伸ばす。
綱吉の表情は酷かった。泣きそうで、ぐちゃぐちゃで世界の終わりのような顔。なんで、そんなかおするの。
泣かないでよ
目を閉じて微笑むと綱吉はさらに酷い顔をしたらしく言葉にならない声を叫ぶ。男はそんなのに動揺しないで心臓に向かって剣を───
「がはっ!!」
待っても待っても痛みはこない。代わりに聞こえたのは男の呻き声。
「ボンゴレファミリー晴の守護者にしてコロネロの一番弟子 笹川了平推参!!!」
そして何度も聞いたことのある大きな声。
ゆっくりと目を開くと笹川先輩が私の前に立っていた。
そして更なる刺客も剣と爆発でそれぞれ吹っ飛ばされる。
「なんで鳴神が攻撃されてんだよっ!?」
「だいじょ……ぶじゃなさそうだな」
獄寺くんに山本くん。みんな守るように周りに立ってくれた。
「……なんだよ、イケメンかよ」
痛いのに変わらない。今も血がダラダラ流れている。
それでも脅威はなくなったことにホッとして地面に寝転んでしまった。そんな私にフゥ太くんとイーピンが乗ってきたのでお腹が死ぬかと思った。泣いているので文句も言えずに血がついていない方の手で頭を撫でる。同じく寝転んでいるランボはお腹空いたとか言っていてとても平和で何も知らないで羨ましかった。