きっと電車は来ない


救急箱を保健室から持ってきて屋上に置く。変態がいるんじゃないかと警戒したが無人だった。やった、と急いで救急箱を盗むようにひったくってきた。消毒しといたらどうですか、との意味で。まぁ意味はないと思うけど。
あとは購買で昼ご飯をいくつか買ってきたよ。そこでようやく恭弥はなぜ私が授業中に屋上にいるかを疑問に思ったようだ。答えは昼休みだから。そしたら何も言わなくなった。時間がわからなくなるほど熱中していたんだね。ごめんねそこに割り入って。


「ディーノさんも好きなだけ食べてください」

「ありがとな」


適当に買ってきたご飯を出して日陰で休憩だ。昼休み半分終わっているのにご飯食べてなかったんだね。

食事するディーノさんを見守る。今屋上にロマーリオさんいないからさ……。先程草壁先輩と昼飯食べに行ってくるからディーノさんをよろしくと出て行ってしまったんだもの。草壁先輩も恭弥をよろしくと反対することなくついていったもの。
パンくずがぽろぽろ落ちているんだよね。それに気がつかずにさらにこぼす。ここまで来ると逆に器用だよ。部下がいないだけでこんなにも人が変わるなんて。食事はこぼす、歩いている最中に転ぶ、飲み水は飲む前に全てこぼす。 

恭弥は豹変してしまったディーノさんに眉間にしわを寄せていた。部下がいないディーノさんに失望して今はもう興味もなくトンファーを地面に置いて大人しく座っている。
平和にいこう。ようやく少しだけどイラつきが治まったんだから。


「……にしても不思議だよなー」

「何がですか?」

「紗夜と恭弥が知り合いなの。お互い同じ学校でも関わることのないタイプだろ?」


パンを食べながらディーノさんは私たちを交互に指す。
確かに関わらないだろう。恭弥は強者以外に興味ないから。ただの生徒Nさんに声をかけることなんて絶対にない。生徒会長に任命するなんて絶対にありえない。


「家が隣なんです」

「ええ!? 幼なじみなのかよ!?」

「うっ、うーん……そうなんですかね?」


「パン落としましたよ」とディーノさんに教える。驚きすぎて口が開いてしまっているじゃないか。パンくずじゃなくてまるまる落としたよ。
幼なじみの捉え方がよくわからない。恭弥に幼なじみという言葉を使ったことはない。小さい頃から親しくはしているが……なんか違う気がする。でも生まれた時から家はお隣さんだから幼なじみなんだろうけど……。気分の問題なんだよね。

ディーノさんは相槌を打っておにぎりに手を伸ばした。ぽろぽろ落としている。下に何か敷くように持ってくるべきだっただろうか。

私も何か食べよう、と菓子パンを手に取る。お昼は食べてきたよ。だけどね、いいじゃないか。これ私が買ってきたやつだしまだ胃に入るし。


「恭弥はボンゴレファミリーに入ったんだね」

「なにそれ」

「え?」


さっきボンゴレがうんたらかんたらとディーノさんが言ってたじゃない。そんなに嫌そうにしなくてもそう言ってたんだから私がこの質問をするのはおかしくないだろう。予想できたよな?
だけど恭弥は本当に何もわからなさそうに片眉を上げた。


「だからっ話をさせてくれ!!」

「うるさい」

「っ、この問題児が……。紗夜から言ってやれ」

「聞いてあげなよきょーや」

「嫌だ」

「無理でした」


私の説得ごときで聞くぐらいなら最初から聞いているぜ。この季節限定の紫芋タルト美味しい。これパンだから。一応洋菓子ではなくてパンという名目で売っていたから。美味しい。
ディーノさんは「どうするかな……」と悩ましげに呟く。ディーノさんを困らせるとは何をやっているんだ隣の男は。ディーノさんはいい人なんだからそんなお顔させちゃいけないでしょ!


「……あげる」

「ありがとう……何これ」


じっと恭弥を見つめていたら何かをくれた。ポケットから出して何か小さなものをくれた。


「……壊れた、指輪?」

「恭弥!! それはお前にだ!! 紗夜にじゃねえ!!」

「いらない」


横半分がない指輪をもらった。デザインは可愛いでもシンプルでもなく、……たぶんかっこよさを重視したんだろうな。半分ほど欠けているからデザインはよくわからないけれど……貝と……これ、なんだろう。主なデザインの部分がなくなっていて何もわからない。きれいに、わざと分けたみたいな切り口。劣化とかで壊れたわけではない。


「紗夜……その、悪いがそれは恭弥に……。指輪欲しかったら今度買うから、な!」

「いらない」

「だからそれはお前のなんだ!!」

「紗夜に買う必要はない」


私も欲しくて貰ったわけではない。恭弥がいらないものを私に押し付けただけだ。私はこれが欲しくて物乞いしているように見えたのだろうか。

なんだろう、これ。

ディーノさんは焦っていて何度も返すように頼んでくる。そもそもいらないので恭弥のポケットに勝手に戻したら胸を撫で下ろしていた。


「紗夜には買わなくていいから」

「寝るの?」

「あの人がうるさくて眠れない」


恭弥は私の肩に頭を乗せた。そのまま目を瞑ったが寝るわけではないらしい。会話する気はないという意思表明だろうか。


「面倒なやつ押し付けやがって……」

「そういえば……なんで恭弥とディーノさんが勝負しているんですか?」


知り合いだったけ? そもそもなんで学校の屋上でやってるの? もう少し人目のないところに行けばいいのに。
するとディーノさんはうーん、と唸ってゆっくりと口を開いた。あ、何か嫌な予感がする。


「一番はヴァリアーに備えてだな。リングを奪いに来るんだよ。暗殺集団が」

「そんなものを恭弥に渡さないでくださいよ」


ヴァリアーはよくわからないが暗殺集団の意味はわかった。そんなに危険なアイテムなのか先程の壊れた指輪は。恭弥なら暗殺集団にも勝てそうだけど……どのくらいのレベルかによるんだろうな。


「選んだのはオレじゃねぇんだよな……。あと、他人事のようだが……」


ディーノさんは食べていた焼きそばパンを置いて言いづらそうに切り出す。


「紗夜も巻き込まれると思うぞ」

「…………………なんでですか」


私はただの一般人!! 裏の世界なんて知らない庶民であり弱者である!! そんな私がなぜ巻き込まれるの!!

ディーノさんに半分無表情になりながら理由を尋ねると「あれー?」と首をひねった。私がひねりたい。


「あの人に話聞いてないか?」

「あの人?」

「沢田家光。つまりツナの父さん」

「………………………あれか」


元凶そこかよ。この前途中で逃げるように退散したから最後までお話しなかったんだよ。聞く質問が頭悪かったじゃん。前世の記憶を持ってるか? なんて。本来だったら何いい年してバカ言ってんだよ、と鼻で笑うものだから。私は明るく笑ってあげたけど。


「やっぱり聞いてたんだな」

「……まあ」

「キャバッローネのオレには詳しく教えてもらえなかったけど、なんか紗夜にはあるんだって」

「待ってください。それで私に何が伝わるんですか?」

「オレも本当にわかんねーんだよ。ただボンゴレリングは7つだし、その中に紗夜は入ってないし家庭教師もつけてないってことは戦うことはないから安心しとけ」


笑顔がきらきらしてますディーノさん。
ないないない。本当に私はただの一般人。何の力も持たない普通のガキ。世界、いや日本から見てもいてもいなくても変わらない存在です。並盛から見たらようやくああ あの人か、となるレベルだよ。そんなガキになんの力があると思うの。そしてディーノさん思ったより食べるな。恭弥が一個も食べなかったからまだあるけど恭弥も食べてたら足りなかった。


綱吉のお父さんに聞かれたおかしなことって言ったら前世の記憶に関してだけなんだよな。でもそれが綱吉のお父さんの言う “ある” の意味なら私じゃなくてもいい。


「骸も持ってるしなぁ……」


無意識に出ていた声。それは私に寄りかかって寝ている少年には届いていたらしく、ドカンッとまた破壊音が屋上に、学校に響いた。


「間違いました!! 六道骸さんです!!」


破壊音に反応して叫ぶ。本当に起きていた。目を瞑っていただけだ。
フルネームで呼べば破壊音はしない。び、びっくりした……。
ちらりと横を盗み見ると目は瞑っている。頭も肩にある。しかし先ほどまで手放していたはずのトンファーを握りしめて、壁には新たなヒビと崩れ落ちたコンクリートが散らばっている。準備万端じゃないか。ひええぇぇ。


「……なんだ今の」

「……なんか恭弥はむく……六道骸さんの名前単体を聞くのが相当頭にくるらしく……」


フルネームでさえも表情を歪めるけどね。恭弥の前で骸の話をするとか自殺行為でしかないんだよ。……今のは思わず口から漏れでただけです。


「そ、そうか……。六道骸は何を持っているんだ?」

「!? いえ! なんでもございません!!」

「どうした急に?」


拾われるとは思ってなかった。あはは、とへらへら笑って誤魔化すとディーノさんはそれ以上聞いてこない。なんだこのイケメンさんは。


「巻き込まれる、か……」

「たぶんだけどな」


うーん、それは嫌だなあ。どうしよう。
……どこに逃げよっかな。暗殺集団とか怖すぎる。何日間並盛を離れていればいいんだろう。学生のことを考えて休日に来て休日に終わらせてくれないかな。私はその間電車旅してよ。