盲徒よなりふり構わず折れ


並盛中学では最近おかしな音が響くようになった。休み時間だろうが授業中だろうが部活時間だろうが関係なく音が鳴り渡るのだ。まだ暑いから、といって窓を開けているとさらに音が大きくなる。いつかは慣れるだろう、とみんな頑張って聞こえないフリをしていたら二つに分かれた。順応できた素晴らしい人とできなかった可哀想な人に。

おかしな音に順応できた人は何も思わなくなってきて普通に今までと変わらない学校生活を送っている。私もどちらかと言えば適応できた側だった。
しかしできない人もいるらしく止めてくれ、とせがまれた。自分で止めてきなよ、と悪魔のようなことは流石に言えないけれどなぜ私に頼む。あんな物騒な音の発生源に行ったら私が死ぬじゃないか。風紀委員に頼めばいいのに、と少し思ったが原因の人物があの人だから止めてはくれないだろうなあ。

今もドンッガンッガシャンッという音が教室まで届いてくる。どれだけ破壊しているのだろう。誰だ屋上で暴れている奴は。
多くの人が窓から見上げて原因の人物を特定しようと頑張っていた。やはり一人はみんなの予想通り恭弥。黒い学ランが見えたらしい。恭弥以外の人が屋上で盛大な音を出して暴れていたら恭弥に咬み殺されるからみんな恭弥がいることはわかっているんだよ。不明なのはその相手だ。恭弥の相手をできる同等以上の力の持ち主。そんなの並盛にいないからみんな頑張って特定していた。クラスの子曰く金髪がたまに見えると言っていたがこの学校に金髪の恭弥並の強さの人っていたっけ?










「………そりゃあ……三日間も戦えれるよな……」


生徒たちからなぜか不満が私に届いてきて少し様子を見に行こうと問題の屋上に来た。扉をゆっくりと少しだけ開けて中の様子を伺うと擦り傷切り傷、見えないだけで打撲とかもしていそうな勢いでケンカをしている二人がいた。人が特定できた瞬間扉は閉めた。あの中に入ったら死ぬ。屋上に足を踏み入れるだけで攻撃されそうなほど殺伐としていた。
いたのは来る前からわかっていた恭弥、そして金髪の持ち主の……ディーノさん。そりゃディーノさんマフィアのドンだもん。恭弥の相手ぐらいできる。気絶せずに病院送りにもされずに三日間戦え続けれるだろう。
……あの二人帰っているよね? 日中も深夜もずっと戦っていたりするほどバカではないよね? 片方はある意味バカだけどディーノさんは常識あるよね?


「なんだ嬢ちゃんか」

「ぎゃあ!! ……っロマーリオさんですかっ。心臓破裂するのでやめてください」

「どうしましたか鳴神さん。委員長にご用事ですか?」

「……………あるような、ないような」


扉の前でしゃがみこんでいたら急に開いた。恭弥かディーノさんに殺られるかと思ったが、嬉しくも扉を開けたのはロマーリオさんと草壁先輩。
一応用があったから屋上に来たんだけどあの中に入っていく勇気はない。そもそもいざとなったらメールで伝えればいい。……よくない? わざわざ口頭で伝える必要ある? メッセージ送れば全てはすむよね? それか靴箱に手紙でも入れとくかな。それでいい。


「やっぱりだい───」

「委員長! 鳴神さんが委員長に会いに来ました!」

「草壁先輩っっ!!?」


何やってるの!!? なんで声かけてるの!!? 私のこと考えてよ! 去ろうとしてたじゃない! 大丈夫です、と伝えようとしてたのに!!
お楽しみ中の恭弥の邪魔してまで伝えることなんて私にはない。考えろよ考えろ、恭弥がディーノさんと戦うことより楽しいニュース………………そんなのあるのかな!?


「鳴神さん委員長が待ってるので……」

「え、嘘、やめたの?」


まあ私のことなんか気にせずに戦い続けるだろうな、とも考えていたけれどそれはなかった。草壁先輩とロマーリオさんの間から屋上の様子を盗み見ると、確かに物騒な音は鳴り止んでいて暴れ回ることもしていなかった。ディーノさんは私に手を振ってくれていたので私はでれっとだらしない顔をして振り返す。イケメンのスマイル眩しい。恭弥はディーノさんをずっと睨んでいる。戦いたいなら私のこと気にせずしていてくれてよかったのに。


「っんんん!! お前のところのボスはずいぶんと………んんん、わかりやすいな……」

「……委員長は……」

「うちのボスに嫉妬とはな」


ロマーリオさんと草壁先輩は仲良くなったんだな。もしかして三日間同じようにここで上司たちの戦いを見守っていたのだろうか。ロマーリオさんはここにいないと仕方ない事情があるからしょうがないか。
笑いを堪えていても漏れ出ているロマーリオさんと何も喋れない草壁先輩をすり抜けて屋上に入る。ディーノさんの笑みを見たら危険とか入りたくないとかそんな気持ち消えた。


「半月ぶりだな! 怪我は治ったか?」

「はい! お久しぶりですディーノさん!」

「……………ディーノ……?」

「ん! それならよかった」


入院していた時お見舞いに来てくれていたのだ。何度も何度も来てくれた。そのせいで女子に

誰あの人紹介して!!

とせがまれた。するわけない、というかできないよマフィアの紹介をするなんて。という理由から苦笑いしたら睨まれたよ。てか、あなたたちとは友達でもないんだよ。ただ同じ学校の人というだけなのに。利益があると思ったら仲のいいふりしやがって。
少しだけ過去のこと思い出して荒んでいたけれどディーノさんが頭を撫でてくれたらそんな気持ちどっかいった。もうやだイケメン、と赤い顔を隠すように俯くと


「用事を伝えて消えろ」

「……その言い方はないだろ。せっかく紗夜がわざわざ来てくれたんだから」

「うるさい。あなたには関係ない」


風が吹いて氷の声が耳に入る。ディーノさんは攻撃されていたらしく少し遠いところに飛び跳ねていた。風じゃなくて風圧だね。髪がぶわっとしたよ。ずいぶんと近くでトンファー振り回したんだね。怖い。


「用件」

「あ、はい。生徒から『うるさい』『怖い』『気が散る』『今年受験生なんだけど』『近寄れない』との声が」

「黙れ」

「……うん、わかった。そう伝えとく」


なんか怒ってる。前に骸の名前をちらっと出してしまった時より怒ってる。そこまでディーノさんとの戦闘を邪魔した私が憎いか。
黙れの一言でみんな納得するわけないだろうけど恭弥が黙れと言ってたんだからそうやって伝えよう。

あはは と適当に微笑んで恭弥との話は切り上げる。触らぬ神に祟りなし。怒っている時の恭弥には下手に干渉しない。これ鉄則。


「恭弥さぁ……」


塩対応の恭弥に呆れるように息を吐くディーノさん。


「もう少し優しくしてやれよ」

「……それはあなたに関係あるの」

「あるとかないとかの問題じゃないだろ」


ピキーーーンッ!!


そんな効果音が聞こえた。
何かが恭弥とディーノさんの間に走った。または亀裂が入った。や、やっばいぞぉ、なんか冷たい空気が漂ってるぞ……。なぜかまだ私がいるのに戦闘開始カウントダウンが刻まれている。


「……ようやく思い出した。あなたの名前引っかかってたんだけど……もしかしてあなた跳ね馬ディーノ?」

「そうだけど……今はそんなのどうでもいいだろ」

「……ふーん、僕のものに餌付けしたのはあなたか」

「餌付けェ? 何言ってんだ」


お願いだから私がいる中で殺気をまくのはやめてよ。ちょっと恭弥ディーノさん。
助けを部下に求めたらロマーリオさんは場に合わない大笑いをしていて草壁先輩は目頭をおさえていた。だめだ助けを求めたところで受理してくれない。

餌付け? 餌付けとは? あ、この子か? 屋上の上を飛んでいる鳥。一匹だけ高みの見物している鳥。名前はまだない。恭弥に聞いたらつけていいよ、といわれたけれどセンスが試されるから遠慮した。だっさ、とか言われたら立ち直れない。だからこの子の名前はまだない。
黄色い鳥がぱたぱた降りてきた。手のひらを出すととまってくれる。可愛くて利口なのだ。ほら、頭いい。校歌を歌い出した。そのおかげで戦意喪失したのか恭弥とディーノさんは……構えは辞めておりません。


「そ、それじゃあ私はここで……」

「あ、待て紗夜」

「はい?」


退散して知らないことにしようと賢い選択を取ろうとしたらディーノさんに引き止められる。なんだろう?


「ボンゴレリングのこと聞いてるか?」

「なんですかそれ?」


ボンゴレリングなんて聞いた覚えがない。とりあえず……マフィア関係かな? ボンゴレとはボンゴレファミリーのことだろ? つまりマフィアだろ? つまりボンゴレ特有の行事かな。
知らないです、とぶんぶん手を振る。また借金を背負うかもしれない羽目にはなりたくない。

なんだろうそれ、とクエスチョンマークをたくさん浮かべていたらディーノさんは「ごめんな」と微笑み、目を見開いて引き寄せた、のと同時に鳥がまた空へ飛び立つ。


「ひゃい!?」

「っ、紗夜に当たったらどうすんだよ!!」

「当たらないようにっ、してるよっ!」


恭弥が攻撃してきたらしい。攻撃されかけたところをディーノさんが鞭でトンファーを巻いて動けなくさせたが、恭弥は力ずくで拘束を解く。


「お前には関係ある話なんだよ!! ボンゴレリングについてそろそろ話させろ!」

「やだ」

「え、恭弥も────ありがとうございますディーノさん!!」


ボンゴレ関係者になったの? と尋ねる前にディーノさんにお礼するべきだった。振り向いたら黒いものが目の前で飛び交っている。ディーノさんが防いでなかったら絶対私にも何発か当たっている。当たらないようにしているとか絶対嘘だ。
この二人の部下は片方笑っていて片方涙を浮かべていて止めには来てくれないし。


「ちょっ!! 待ってディーノさんっ、死ぬ!!」

「わかってる。恭弥やめろ! 紗夜を危ない目に遭わせたいのか!!」

「当てるのはあなただけだ」

「違う!! 意味が違う!!」


近い近い近いっっ!! ディーノさんが近い! 胸板かった! 美しい顔ちっか!! 心臓が正常な脈を打ってないんだけど!! イケメンが近いのは命に悪い!!


「おい! 紗夜を安全な場所にやってからだ!」

「うるさい」


ビュンビュン風のきる音が聞こえる聞こえる。一度戦いをやめよう、いやだという声も。ディーノさんが手を離してくれれば自力で逃げるのだが、ディーノさんが庇ってくれているから私は無傷でいられる。無傷で渦中にいるか、傷を負ってまで避難するかのどちらかの選択肢しか私にはない。


「……………………っ、だから……っ」


トンファーと鞭の攻防。最強委員長とマフィアのドンの真剣勝負。


「やめろって言ってんだよ!!!!」


気がついたらディーノさんの胸の中で叫んでいた。学校中に響いたのではないかというぐらいの大きさ。

叫んでからやめろとは一言も言葉にしていなかったことに気がついたが大声の出し過ぎで息を乱していた私にそんなことは気にならなかった。