あなたは特別な人だから


買い物した帰り道。ずっと欲しくて買いたかったものを手に入れた。お出かけもつい最近まではあまりできなかったから。入院しているときに友達に頼んで買ってきてもらえればよかったんだけど、あまり人に言えるようなものではないから自分で買いに行くしかない。私も自分で選びたかったし。種類豊富だからしぼるのが大変だった。マイナーだと思っていたけれどたくさん売られていた。お店によるかもしれないけれど。中学生のお小遣いで買える量は限られているので悩みに悩んで吟味していたら何時間も経っていた。びっくり。

大切に抱きしめて帰路についていると綱吉が道ゆく人々に何やら声をかけているのを発見した。両手を使ってジェスチャーしながら説明している。時折すぐそばにいるフゥ太くんと同じか少し年下ぐらいの子に手を向けた。相手が首を横に振ると綱吉は頭を下げる。


「何やってるの?」

「っっ!」


一通り終わったのか、嘆息つく綱吉に後ろから声をかけると必要以上に驚かれた。


「なんだ……紗夜か……」

「…………うん、ごめん帰るね」

「違うから! そういう意味のなんだじゃないって!!」


てめえかよ、と舌打ちするときに使われる意味かと思い、また歩き出そうとしたがそうではなかったそうだ。私でよかった、という意味のなんだだったらしい。なに? お化けにでもあった? それともヒットマンに追われていたりする?


「紗夜はこの子のお母さん知らない?」

「迷子? ……お母さんとかの前にこの子の顔も始めて見たなぁ」


綱吉の後ろに隠れるようにいたのは見たことない子。たとえ母親の方を知っていたり会っていたりしてもこの子の母親だとはわからない。誰だろうこの子。


「そうだ。アメいるかな?」


怯えるように隠れる子ども。母親とはぐれて知らない人たちに囲まれたら疲労は溜まるし気は張るだろう。疲労には甘いもの、ということでポシェットからアメをあるだけ出して手のひらに乗せて渡す。ランボに会った時ようの飴がこんなところで役立つとは。
男の子は少しだけじっと私の目を見てから手を伸ばした。チョコ味の飴に。小さな手と腕。ぺこりと行儀よく頭を下げた少年は綱吉の後ろに隠れることは無くなって私の服を掴んだ。ぎゃっ可愛いっ。


「あ、お腹空いてたのかな……。この子口数少ないんだよね」

「? 知り合いじゃないの?」


言い方が少し引っかかった。名前も知らない他人のような対応。そしたら名前も顔も知らない迷子だと返事が。うわっびっくり。見知らぬ子のために動いてあげているんだ。交番に連れて行かずに一緒に探してあげているなんて。顔も名前もわからない母親を。
少年はアメをコロコロ転がして綱吉をじっと見ている。助けを求めるというより……見定めるという表現の方が正しい気がする。


「……じゃ、じゃあがんばれ……」

「うん。ありがとう」

「いえいえ……」


少年らしくない瞳に、私はこの子がリボーンの関係者だと思ってしまってこれ以上は関わらないように身を引く。マフィアとかロクなことないぞ。私はこれからお勉強するんだから。買ってきた本を読むんだから。

じゃあね、と買ったばかりの本を抱きしめ直して帰ろうとしたのに少年が服を離してくれない。おい、やめてくれ。私はボンゴレとは関係ないんだ。リボーン命令か知らないけれど私を観察する必要はないよ。

引きつりそうになる顔をどうにか抑えて少年に離してもらうように声をかけたが全く離してくれない。アメをねだっているのかな、とまたポシェットから出すと首は横に振られる。これがランボならこの瞬間に手が外れているのに! どうすれば離してくれるのだろう……っ!


「……紗夜って時間あったりする?」

「やっぱりそれしかないかな……」

「たぶん……。オレより紗夜といたがってるし」


一緒に探すしかないかな。帰ったら本を読もうとしたのに。明日は山本くんの野球大会の応援にみんなで行くから夜更かしできないのに。だからといって本を読みたいから、と頼ってきている少年の手を振り払って去ることはできない。……今日は本を読むことできないかな。






私は一緒にいればいいだけのようで、歩き出したら少年はまた綱吉と手を繋いだ。なぜ私が一緒にいる必要がある?
商店街や住宅街はもう探し終えたらしく、次に向かう先は河川だ。商店街で迷子になったなら商店街にいるのがベストだと思うんだけど。お母さん商店街で大慌てで探している気がするようなしないような。
この子名前聞くと泣きそうになるから名前すら未だにわかっていない。


「迷子になった時の連絡先が書いてある紙とか持っているかな?」


少年に否定される。もう持っている年頃じゃないのかな? 8、9歳だろうから。
綱吉にいくつぐらいまで持っていたか聞いたら目を逸らされた。いくつまで迷子になってたんだ綱吉は。私は迷子になったことないよ。いえい。


「何かお母さんと約束してない?」


首は同じ方向にしか動かない。迷子になったらここで待ってなさいとか約束事もないらしい。家の住所もわからないのかだんまりを決め込まれてしまう。これで探し出す方が難しい。二手に分かれようとすると少年が私の服を掴む。

だいぶ非効率な方法で探しているのだ。人手がいるなら分かれて探した方がいいのに。これじゃあ今日は本当に本が読めない、と真顔を貫き通しながら内心ため息をついた。


赤くなってきた並盛町。いくら歩いても母親は見つからないし少年の知り合いも見つからない。こいつマジでリボーンの関係者か……? と訝しげな視線を送りかけてしまう。もし本当に一般の市民だったらどうするんだと思い直す。繰り返しだ。


「紗夜は今日なんで出かけてたの?」

「へ!?」


少年に話しかけていた綱吉が急に私に声をかけてきた。少年を寂しくさせないように話題を振っていたのをなんとなく聞いていたがなぜ次に私。話題がなくなったの? 沈黙気まずいから次は私なのかな? 綱吉は焦っているのかなと思いきや表情は普通。ただの疑問だ。だけど私にとっては触れられたくない話題だったので上擦った声が出てしまった。


「京子ちゃんとハルとフゥ太に出会ったんだけどさ、紗夜も誘ったけど断られたって言ってたよ」

「……ああ、美味しいケーキランキングを作るためにケーキ屋さん巡りだっけ? 私洋菓子は一つのお店でしか買わないって決めているから」


もらったら食べるけれどお金を出してまで買いません。それに太るし。退院祝いでまた食べきれない量のお菓子を作ってくれたお父さんには悪いけれど人間には限度があるんだよ……!! ここ一ヶ月毎日お菓子のお裾分けしていたんだよ!


「本屋行ってたの?」

「ま、まあね!!」

「え、どうしたの急に」


学校の図書館も町の図書館にも行ったがやはり買うのが一番かな、と思い切って購入してきたんだ。今回は三冊。レジに持っていたら店員さん一瞬停止したけれどプロの意地で接客スマイルで対応してくれた。
……そういうことだ。店員さんにドン引きされて、去った後に店員さん同士でコソコソ噂されて心配されるレベルの本を購入したんだ。いや、おかしいものではないよ!? だって書店に置いてあって図書館にもあるジャンルのものだから!! ……中学生がなけなしのお小遣いで三冊買ったのがおかしかったかな? そんなことないと思うんだが……。


「何買ったの? マンガ?」

「は、はあ!?」

「え……、さっきからどうしたの……」


その質問する!? 人に頼めない本で、外出してからようやく買ったジャンルだよ!? 綱吉はそんなこと知らないから仕方ないかもしれないけれど! 一ヶ月前から欲しくても頼めないから我慢していたんだよ!! 頼めば買ってきてくれるかもしれないけれどみんな内心何かしら思う。思わない人たちは絶対に理由を問い詰めてくる。だから自分で買ったのに。
本を後ろに隠して綱吉を警戒する。袋に入っているから中身はわからない。透けることもないから題名もわからない。

中身知りたがっているよね?? 何か、なにか言わないと……………。

私はひどく混乱していたんだろう。混乱しすぎて必要ない恥をかくことを口にしていた。


「その、エロ本だから見せれない!!」


カアカア、カラスが鳴いている。
綱吉は目をぱちぱちして呆気に取られていた。私も何を口走ったか思い出してかあっと顔を赤くする。


「…………………えっ、と……」

「ちがっ、違うの!!!」


何を言っているのか私は。それも異性に。
真っ赤になった顔を本で隠す。
無理、恥ずかしい。走り去りたいだけど誤解解かないと。


「うん! わかってるからっ……! ごめんね紗夜、っその……隠したくてもそれは言わない方がいいよ」

「違うの……その、これは…………世界の拷問100種類っていう本で……」

「その誤魔化し方もおかしいよ!!?」

「ううぅぅ……」


誤魔化せたのかな。エロ本は言い訳したいよね、という意味なのか本当にわかってくれたのか。チラリと本をずらして綱吉を見ると綱吉は顔を同じように赤くして居た堪れなさそうに目を泳がしていた。


「信じてる…?」

「信じてないから!!」


どっちの信じてないだろう。羞恥心から涙が出てきそうだ。顔下半分を本で隠しながら綱吉に問いても顔をさらに真っ赤にされて目を瞑られた。どっちの信じてないなの……?

ばっ、と買ってきた袋を綱吉の胸に押し付ける。


「見て、いいの……?」


こくこくと素早く首を動かす。誤解されるぐらいなら買ってきたものを綱吉に知られた方がまだマシ。綱吉ならそこまで何か言ってくるとは思わないし。
ゆっくりとテープを剥がして中から本三冊を出す綱吉は、驚愕した。


「……もしかして、骸?」

「……うん」


買った本は六道輪廻やら冥界やら地獄やら、輪廻転生やら怪しい単語がいっぱい載っている本。全てそれらに関するもの。


「……私、骸について何も知らないな、って思って……。こんなの知ったところで骸についてわかるわけじゃないけど……少しでもわかったら、何か変わるかなって……」

「……ふーん」

「? 綱吉?」


骸は捕まったってリボーンから聞いた。その後はどうなったかはわからない。死刑になる可能性だってあるかもしれない。情報は何もない。もし二度と会えなくなってしまったとしても、少しずつ骸について理解したい。
綱吉も骸たちについて心配している。だから綱吉になら骸のこと話しても嫌な顔されないかな、と本を見せたんだけど予想とは違って不満げに口をへの字にしていた。


「なんか、紗夜って……」

「私?」

「骸の名前を呼ぶ時……なんか声も表情もオレたちの時とは違うよね」

「そ、そう?」

「うん。優しい」


綱吉の勘違いじゃないの? 仮にそうだったとしても綱吉がなんで不機嫌になるの?


「っていうより……柔らかい」


変えていないんだけど……。

綱吉の勘違いでしかないのになんでこんなにも私が気まずい思いをしないといけないの。
また静かになってカラスの声が響く。川も夕陽で紅くなっている。


「……ごめん、なんかオレおかしい。行こっ」


少年の手を取って歩いていく綱吉。

なんで、急に綱吉は怒ったの……?


「!! …………また寒気が……っ!」


綱吉が独り言を呟いてきょろきょろと辺りを見回す。
ここで帰っても余計に何かをこじらせる気がする……。ついていくしか、ないか。

返された本を袋に大事にしまって重い足を前に出した。