嘘ですべてを片付けた
「え、えぇ……この傷骸がつけたんだ」
「ほんとっっっにあいつは……! 気がついたらオレも傷増えてるし」
目撃者がいた。綱吉がこの傷にいたるまでの成り立ちを教えてくれた。骸が憑依したんだって。最初から理解不能だった。
骸には不思議な銃弾と力があるらしく、三叉槍で傷をつけた人間を乗っ取ることができるらしい。いつ傷つけられたかな? それも不明。
私と獄寺くんはいつでも精神を乗っ取られてしまうような契約をしてしまったらしい。綱吉と山本くんは無事。なんの差かな? 全員にすればよかったのに。
私の身体に乗り移った骸はお腹を思いっきり刺して太ももも刺した。自分の手で。痛みを感じないからってやりたい放題。それだけじゃなくて綱吉を殴ることもしたから手が青くなっているんだって。ほんとだ。
「あいつ……次会ったらタダじゃおかねぇ……」
「あっはは 燃えるねえ獄寺くんは」
「鳴神はなんとも思わねーのかよ」
「骸だしいいっかな〜って」
骸以外の人間にされたら何か思うが、骸なら許す。
そもそも今回の全ての原因はマフィアだ。マフィアが骸たちに残酷な仕打ちをしたのが全ての原因。それならマフィアはやり返されても何も言ってはいけない。骸の復讐を生み出したのはあなたたちなのだから。まあ、ボンゴレは無関係だしマフィアとは無関係の私はさらに無関係なんだけど。
気がつくと獄寺くんと綱吉が瞠目して私を見ていた。「どうしたの?」と首を傾げると二人は何やら言いたげそうに、それでも何も言わずに目を逸らした。
「そういえば、ヒバリと話はできたのか?」
「できたできた〜」
「あいつ骸と対峙した時怒ってたぞ」
「リボーンたちが来てからのことだよね? 一度負けたからじゃない?」
ぷっつんしてたのか恭弥。今も少し嫌っているような感じがしてるから倒す前はもっと怒りが爆発していたんだろうな。
「違う違う違う!! 絶対に紗夜が考えている怒りではない!」
「………………あれは、正直ヤベェ」
呑気に微笑んでいたら綱吉が手をぶんぶん振る。獄寺くんが少し青ざめた。山本くんはその場にいなかったらしく私と顔を見合わせて首を傾げたよ。
「大激怒してた」
「いつも大激怒してるよ」
知らんけど。
「いつもなんかと比べもんにならねぇよ」
「ほーーそうなんだ」
大変だったねぇ、とほのぼのしている私とは違って綱吉も獄寺くんも顔を青くする。
骸との対戦時、恭弥が獄寺くんの手を借りて現れたことも知らない私は恭弥の怒りを知るはずがない。とりあえず二人が真っ青になるレベルだったらしい。一度負けたのがそんなに悔しかったんだ。
「ま、話せたならよかったぞ。ヒバリ一時間も前から病院にいたからな」
「……あ、風紀委員のお見舞いか」
何やってんだあの暇人と悪口言いそうになった。危ない、ちゃんと気がついた。風紀委員会も入院しているんだから風紀委員長としてお見舞いにくるだろう。少し業務が増えて忙しくても委員会メンバーのために時間を割く心はあるんだな。いやーー、良かったよ。血も涙もない人間じゃなくて。私もそのついでか納得、と手を叩くとなぜかリボーンがため息をつく。
暇人じゃない恭弥が私のお見舞いに来るなんて不思議だったんだよ。謎が解けた。
「そうだ! 紗夜は首大丈夫!?」
「首? 痛むぐらいで治療とかは特にしてないから平気じゃない?」
「ん? 青いぞ?」
綱吉があたふたと心配するので一応触れてみたが傷痕はなさそうだった。髪の毛を前に流して山本くんに確認してもらったら青かったとのこと。綱吉もまた真っ青になった。
「ごめん!! オレがつけた!!」
「いっ!」と頭を下げた衝撃で身体を動かした綱吉は筋肉痛に悶える。
綱吉がつけた、とは? 私の身体の主導権が骸に奪われている時のお話かな? よくわからんけれどどう考えたって首よりお腹と脚の方がひどい。骸のことを許した手前、首の軽傷を許さないわけにはいかない。大丈夫だから頭あげてよ、とやんわりと頼むと綱吉はおそるおそる上目遣いで様子を伺ってくる。
「獄寺くんとビアンキはなんともなさそうだったんだけど……紗夜ところどころ首さすっているから……。痛い……?」
「全く」
「……ごめん紗夜」
全くと嘘ついたのになぜわかる。私わかりやすい? 骸にも一瞬で全てバレていたけれど綱吉にまで気づかれる? 骸は表情から人の気持ちを汲み取るの上手そうだけど、綱吉にそんな才能ある?
「大丈夫ですって10代目! オレたちのためにやってくれたことですし……!」
「そうそう! すぐに治るって!!」
「そこまで青くはなかったぜ」
ほらほらみんなで声かけているんだから頭上げて?
多分鍛え方が足りなかったんだろうね。獄寺くんとビアンキさんにはなくて私にはあるってことは。私のために首を攻撃する意味はまったくわからんがそんなこと気にかける余裕はありません。
「そうだそうだー! 綱吉のバカちんめ! 女の身体に傷を残してーー!! 責任とってお嫁にもらいなさいよ!!」
「……もしかして、それ、私?」
「それぐらいの覚悟があって私に攻撃したんじゃないの!?」
私の後ろから誰かの裏声がした。そこには赤いロングヘアーのカツラを被った赤ん坊。ご丁寧に下の方だけ少しくるくるしている。
私の髪型そっくりのカツラをかぶったリボーンがハンカチを噛んでいた。音をつけるなら “キーー!!” だろうか。
……私がいつそんなことをした……。
「綱吉のヘタレ!! 早く告白してきなさい!!」
「「ぶっっ!!」」
「違うよ二人とも!! 紗夜が喋ってるんじゃないよ!?」
「プロポーズでもいいわ!」
「オ、オレ……タバコ吸ってきます」
「あーー、その、野球部のやつと話してくるな」
「おい待て。私じゃないのわかるだろ。どこからどう聞いたって私の声じゃないよ? ちょっと待て天然ども!!!」
人の目気にしてタバコ吸ってることないだろう獄寺くんよ!! いつも副流煙撒き散らしているじゃない!!
山本くんよぉ!! 野球部の団体はもう来て帰ったよ! 同じクラスの野球部員が恭弥が来る前に来てるからな!! どこの誰と話すつもりだい!?
元凶は泣くふりを始めた。さっきの言葉の数々と声はどこからどうみたって私ではない。ただカツラをかぶっているだけのリボーンの悪ノリで始まった何かだ。
啜り泣く声以外音がなくなった病室。一人部屋だと他に人がいないから余計に静かじゃないか。
「……そんなこと、全く思ってないから」
「う、うん!!! わかってる、わかってるよ!!」
わざわざ赤顔しなくていいんだって。私は一夫一婦の結婚をする気でいるから。綱吉とは何があっても結婚はないだろう。おつきあいもないだろう。京子ちゃん大好きで態度に出すぎて他の女子との差別が激しい綱吉とつきあうとか絶対にない。このまま友人でいれたら一番いい。
「そ、その……リボーンの言う通り……女の子の身体に傷つけちゃってごめんね」
「気にすることないって!」
その理屈を通したいなら今からビアンキさんの元に走りなよ。リボーン一筋のビアンキさんにそんなこと言ったらフラれるだろうが。
「それなら私 綱吉じゃなくて骸にもらってもらわないと!」
場を和ませるための冗談。首なんかより重傷なのは足とお腹だ。数日で消えるアザより手術痕が残るかもしれない刺し傷をつけた方に貰ってもらわないと。……いや、待てよ? 恭弥がアト残したら抉るって本気の目で伝えてきてたから恭弥にもらってもらうべきか……? だけど元はと言えば骸……。
まあ、そんなことないからどうでもいいか。
「ということで綱吉がそんなこと気にする必要は、…………ないんだけど、どうかした?」
「骸と紗夜が結婚……?」
「冗談だって。冗談に決まってんじゃん」
「あいつに紗夜を……」
「おーい綱吉ー? つなよしさーん」
いつから冗談もわからない子になりました? 綱吉はそういうのわかる人じゃん。天然でも鈍感でもないじゃない。
綱吉さーん、と声をかけて目の前でぶんぶん手を振るとカッと目が開いた。もともと開いていたけれど。
「骸はぜッッッッたい!! やめた方がいい!!」
「……………いや、冗談だって」
「あいつに渡すぐらいなら……!! オレが………………っっ!!」
「人の話聞きましょうよ」
何を言い出そうとしたのか。我に返った綱吉は真っ赤になった。
「ご、ごめん!!」となぜか謝られて、筋肉痛を忘れたのか全速力で病室を飛び出していった。怒られるなあれは。ほら、お医者さんの叱責が私の病室まで聞こえる。
「あのヘタレめ」
「この元凶め」
「あともう少しだったのに」
「やめてくれよ。そんなことしたら私が綱吉に怨まれる」
せっかくこれからも仲良くしてくれると言ってくれたのに。情報を売った私を友人として見てくれているのに。
怪我をさせたせいで意中の京子ちゃん、もしくはハルちゃんと結婚できなくなった、なんて生涯怨まれるのは無理。私のせいじゃない。
「骸の件頑張ったから手伝ってやろうとしたのに」
「何を。ねぇ、何を手伝おうとしたの」
どう見たって悪意しか感じられない仕向け方だったよ。綱吉がもし “それならオレがもらう” とか言い出したらどうしたんだろう。私が断ればいいだけの話か。解決。
「少し自覚してきたと思ったんだけどな」
「二度としないでね」
「なんでオレが教える生徒はどいつも女の扱いが下手なんだ」
「ディーノさんは天才的な上手さじゃないか」
ディーノさん下手って言ったら世の中の男ほとんどが下手くそになるから。ディーノさんのイケメンオーラすごいから。
リボーンの頬をつんつんすると怒られなかった。
「んじゃあオレも行くな」
「うん」
リボーンはピョンっと三メートルぐらい遠くに飛んだ。いつ見ても身体能力が秀でている。さすが最強の赤ん坊。
最強の赤ん坊ってなんだろう、とリボーンの後ろ姿をぼんやりと視界に入れて考えていると、心が読まれたかのように振り向いた。驚いて肩を揺らしてしまったがリボーンは私の心を読んで振り返ったわけではない。
「紗夜は死にてぇのか?」
「そんなことあるわけないじゃない! 私は天寿を全うするのが夢なんだから!」
「骸に殺してくれと頼んだのか?」
「私痛いの嫌いだからなー」
だからマフィアという危険な世界に足を踏み入れたくないんだよ、とふふふと口元に手を置いて微笑む。
「骸が六道全ての冥界を廻った前世の記憶を持つことは聞いたんだろ?」
「……………うん」
聞いちゃったよ。だからなんだろう。
きゅっと拳を握る。
「紗夜にも前世の記憶があるんだろう?」
「……そんなものあるわけないじゃん」
変なリボーン、と口もとを隠して微笑む。笑えているのかもわからない。だから口もとは隠すんだ。
前世の記憶があるなんて思い込みこの年になってするわけないでしょ、とにこやかに伝えればリボーンは今度こそ病室を出ていった。