きっと鈍くていとおしい


「六道骸につけられた傷、治して」

「うっ、ん〜〜〜〜……残る気がするなぁ」

「残したら僕がその上から抉って新しく傷を作る」

「全力で治させていただきます!!!」

「そうして。六道骸がつけた傷が紗夜にあるとかムカつくから」


怖ぇよ。抉るという表現が怖いよ。お腹にトンファーでも突き刺す気か? 太ももにもだぞ? 怖ぇよ。そもそも骸がつけた傷かもまだわかっていないというのになんで決めつけてんだお前は。
頑張れよ私の自然治癒力……。なんかお腹痛くなってきた。傷開いたかな。それとも無茶な注文に胃が耐えれなくなったかなどちらかな。

ひええ、とお腹をさすっていると恭弥の眉間にシワが寄る。お、反応が早い。帰るらしい。そうだよね、そうしないと群れの中にいてしまうからね。


「あと、六道骸の呼び方変えろ」

「なんで?」

「聞いていると咬み殺したくなる」


どれだけ骸が嫌いなんだよ。骸いい人なのに。……いい人ではないな。優しい人。善人ではないけれど、私には優しい人。
恭弥も骸の名前出しているのになんで私は規制するんだ。なんだ? フルネーム呼び以外認めないって? まあ命に勝るものはないので頷いといた。受け入れたかは別で。


「…………少しだけ期待していた」


恭弥が背を向けたことをいいことに私は浅ましい考えを言葉にする。


「入院するほどの大怪我を負ったらお母さんが来てくれるんじゃないかって。心配してくれるんじゃないかって。でも無駄だった。来てくれたのはお父さんだけだった」


「じゃあまた学校で」と手を振ると「暇だったらまた来てあげる」だって。あんな事件があった後に恭弥に暇なんてないだろう。なぜわからん。


「紗夜ーーっ遊び来たぜ!」

「ゲッ、ヒバリ……」

「ま、待って二人とも……………あ、歩くの、早いね……」

「お前がノロイんだ。ん? まだいたのかヒバリ」


病院着のいつもの三人が来た。クラスでも見慣れている三人組。私含めて全員ペアルックだ。あははそりゃそうだよ入院しているんだもの。ここにいる私たちだけじゃなくて入院しているものはみんなお揃いか色違いだよ。

山本くんと獄寺くんは見えるところにも包帯を巻いている。私と同じボンゴレの医療班に縫われたお仲間だ。痛み止めが効いていて痛みはそこまでないんだが、山本くんと獄寺くんは私より軽傷のようにピンピンとしている。私たちの重傷さに差異はあまりないはずなのに……。どうなってんだあの二人の身体は。これがケンカ強い二位三位と圏外の差なのか?

山本くんからお寿司をいただく。やったあ。お父さんがお見舞い品として作りすぎたらしい。獄寺くんは出て行く恭弥を見えなくなるまで睨み続けていた。

綱吉は全身筋肉痛らしく歩くことも困難で姿が中々見えてこない。声は聞こえたというのに。一人だけ他の並中生と入院の理由が違う筋肉痛さん。傷もたくさん負っているが一番の重症が筋肉痛。何があったんだろう? と尋ねたくなる。
獄寺くんが綱吉のお迎えのために病室を出て行った。


「山本くんは平気なの?」

「おお!」


左腕をぐるぐる回す山本くん。手首付近に包帯が巻かれていた。利き手ではないだけまだマシなのかな?


「紗夜は?」

「うん、平気」


何があっても命がけで治さないとまた怪我を負って入院することになるから。平気だと言い聞かすのだ。


「よかったら冷蔵庫の中のもの持っていって。お見舞いでもらったんだけど……」


一人で食べ切れる量じゃねえから、と山本くんに聞こえないように呟いて冷蔵庫を指さす。ごめんね動かないで動かしてばかりで。一応私病人じゃん。だから動かなくていいと思うんだ。山本くんも病人だから本来動かさせてはいけないけれど。


「お、おお……すげえもらったな……。笹川とハルからか?」

「…………他の人」

「そっか。それにしてもすげぇ……」


称賛してのすごいじゃないことだけはわかった。冷蔵庫を開いた時の山本くん、山本くんにしては珍しく戸惑っていたから。
消費しきれない量のスイーツをもらって私は困っているんだ。恭弥にもあげればよかったかな。でもそれどころじゃなかったし。
いくつか食べたけれども冷蔵庫にはまだぱんぱんに入っている。甘ったるい匂いが充満している。バターにチョコに蜂蜜に果物に……。張り切ってくれたのはいいんだが、一人部屋でお裾分けする人がいなくてどうやって消費させるのだ。腐らせてしまうではないか。


「小僧どれいる?」

「見てるだけで胸焼けするからいらねぇぞ」

「そんなこと言わないでもらっていってよ」


ハルちゃんや京子ちゃんは喜んでもらっていってくれたぞ。他のお見舞いの子たちもドン引きながらもわらしべ長者していった。ルービックキューブの代わりにお菓子が好きなだけ手に入ったからね。宿題届けに来たらとってもとっても美味しいお菓子が手に入ったからね。それでもなくならない。お寿司が入るスペースがない。


「じゃあオレ少しもらうな」

「どーぞどーぞ。少しじゃなくてもっともっと」


遠慮なんかせずにもっと持っていってください。この場で食べるならフォーク用意するからと身体をねじらせたら悲鳴を上げることとなった。お腹をおさえてうずくまっていると山本くんが急いで飛んできて心配しながら元の姿勢に戻してくれた。……山本くんは刺し傷が少ないと聞いているがなんだこの差は……?


「めっちゃ美味い! 初めて食ったこんな美味い菓子!」

「よかった」

「でもどうしたんだ? こんな大量のお菓子」


パウンドケーキを手で持って豪快に一口食べた。見事な食べっぷり〜。


「……んっとね〜、どこの親も考えることは同じみたい」


へらりと微笑む。山本くんは「そうなのな」と相槌を打ち、私の親はパティシエか尋ねてきた。正直に頷いた。
正直者の私の返答にリボーンはなぜか目を見張った。一瞬だけだったが、親のことを話すために周りの様子を伺っていた私には見えてしまった。エスプレッソを飲むリボーン。大きなボルサリーノとカップで顔は見えないが、何を考えて驚いたんだろうな。


「ご、ごめん獄寺くん!!」

「いえいえ! 10代目の右腕として当たり前のことをしただけです!!」

「? なんかあったか? さっきより傷増えてないか?」


そうなんだ。病院内で喧嘩はいけないよ。

ひょこひょこ歩く綱吉を支える獄寺くん。二人にも冷蔵庫にお菓子あるから半分ぐらい持ってけと投げやりに頼むと、冷蔵庫を開けてドン引きして表情を隠していた。消費しきれないんだよ。


「……自分から両親の話題を振ったのは初めてじゃないか?」

「そう?」

「ああ」

「……そんなことないよ。獄寺くんには何回か話したこと、あるし」


山本くんも混ざって冷蔵庫の前でわいわい話している三人を眺める。「やばっ……」「これ鳴神太るぞ……」「すげー美味いぜ」とかなんとか。私が一人で食べる前提じゃないよね獄寺くん? 太るのわかってるから分けているんだよ。みんなで太れば怖くない。
リボーンとの会話は聞こえていないらしい。恐る恐る綱吉が何かに手を伸ばしたら冷蔵庫の中のものが崩れ落ちてきた。ケーキ類だったらぐちゃぐちゃになってしまっている。だけどあの場所には個包装の一口お菓子しか入れてないから平気だろう。


「ねえリボーン」

「なんだ?」

「私 みんなが来た理由わかるんだ。あそこでわちゃわちゃしてるから私から話振るね」


「落としたやつ全部食べた方がいいかな……」とかなんとかぼやいている綱吉に一言。大丈夫! 個包装だから! 二言だった。


「むくろ」


楽しそうに会話していた三人の声も一瞬でなくなった。私はリボーンと三人組、どちらに顔を向ければいいのかわからなかったけれど、たぶんこっちだろうと片方に顔を向けて微笑んだ。


「骸のことだよね?」

「……ああ」


リボーンがおもむろに頷いた。











「骸とは……少し前に会ったんだ。小さい頃に……一度だけ…骸と出会ってお話をした」


話といっても私が一方的に吐露しているだけだった。もう死にたい、殺してくれ、なんで私が、記憶なんていらない、と骸の前で泣いていただけだった。骸は静かだった。たまに慰めの言葉がくるだけであとはずっと聞いているかもわからないぐらい相槌もなかった。


「その時、私はいろいろあってね……。骸が私を支えてくれたの。それだけだよ」


僕も同じです。

この言葉が私は一人ではないと希望を与えてくれた。仲間がいると知った。異端児扱いされる仲間が。何も知らない私は骸も同じ前世の記憶を持って生まれた子どもだと勘違いした。実際は全然違かったが。


「一度だけか? それ以降は会わなかったのか?」

「全く。骸は私の前に二度と現れてくれなかった」


だから現れた時は嬉しかった。夢じゃないか、私の作り出した幻覚ではないか、いやそんなわけがない、と心の内で葛藤することもよくあった。でも、今回現実で痛みを共えて骸の存在を確認できた。この世にいる同じ人間だと。

何を話せばいいかわからない。

私と骸の関係は私もわからない。仲間でも同類でもない。骸が前世を持った経緯は私とは違うんだから。たった二回しか会っていない……なんという関係だろうね。


「……リボーンさん、オレが質問してもいいですか?」

「ああ」


こんなものに質問なんてないでしょ。変なの。

声には出さない。獄寺くんにどうぞ、と促すと何かを思案して口を開く。


「……メガネヤローとアニマルヤローから聞いたんだが……骸は鳴神をこれから先も連れてこうとしたんだ。この一件が終わった後も……。……たった二回しか会っていないやつをあの骸が連れてくわけねぇ」

「ああ。それは簡単だよ。いい情報提供者だったからじゃない? 私 綱吉がボンゴレ10代目だって教えちゃったから」

「はあ!!?」

「ええっ!!?」


綱吉にまで驚かれてしまった。みんなの中では私は絶対に喋らないという信用でもあったのだろうか。
私は自分が一番可愛かったんだ。もう悪夢を見たくない。何度も繰り返した死を終わらせたかったの。おかしな子と非難されるのが嫌だったんだ。


「ごめんね」

「別にそれはいいけれど……じゃあなんであの柿本っていう人わかっていなかったんだろう……」

「たぶん私が教えたのが綱吉たちが柿本くんと接触した後だからだよ」

「今回のことで10代目の正体はわかったのにまだ鳴神を連れて行こうとする理由は」

「それは知らない」


骸に直接聞いてくれないと。
獄寺くんにすまなさそうに眉を下げるともう聞いてこない。さらりと綱吉の正体をバラしたのが私だって言ったのに何も豹変しないな。責められて物を投げられるぐらいは覚悟していたのに。

どいつもこいつも……おかしい。

フゥ太くんだってビアンキさんだって何事もないようにお見舞いに来てくれて。ビアンキさんには真相を伝えなかったが全てを知っているような笑みを浮かべて笑いかけてくれた。


「まあいいじゃねぇか。今 紗夜ここにいんだしよ。な、ツナ」

「う、うん……」


……もしかして、私が骸に頼んだからかな。並盛に居場所なんか無くなってしまったとわかった時に、一緒にいさせてくれ、と縋ったからかもしれない。骸なら本当の私を知っているから、受け入れてくれているから。私への同情かな。


「……オレは、それよりも……紗夜が死にたいって……言ってたことの方が……」


そんなわけないか。私弱くて足手まといだし。

獄寺くんの質問についてまだ考えていた私はもちろん、綱吉の隣にいた獄寺くんと山本くんでさえ綱吉の不明瞭な声は聞こえてなかった。リボーンだけが綱吉の声に反応したようにあぐらをかきなおした。