消えた少女の行方


「え!? 紗夜が人質に取られてる!?」


突如リボーンの口から出た言葉。これから黒曜に出発しようとする時に初めて聞いた新たな事実。


「どういうことだよ!!」


フゥ太と共に人質に取られているもう一人の少女のことを知ったツナはリボーンの肩を掴んで前後に揺らそうとした、が殴られて吹っ飛んだ。
ガンッゴッバコッと壮大な音を立ててゴミ捨て場に吹っ飛んでいく。黒曜に乗り込む前から致命傷を負いそうな勢いだった。リボーンとしては肩を掴まれて唾を飛ばされるのがそれほどに嫌だった。
「10代目ーー!!」と獄寺が駆け寄っていく。千種との前哨戦で大怪我を負った人物に心配されるとは。


「小僧…紗夜が人質って……」

「今日学校に来てなかったんだろ?」

「あ、あ……珍しいなって思ったけど……病院に行ってたとかじゃないのか?」


山本は今日もいつも通り登校した。だがクラスの半分以上が欠席で、授業どころではないから半日で終わった。生徒は大人しく家で過ごしてろ、と課題をもらって帰ることになった。
2-Aの少数の生徒は文句を垂れながら、それでも次は自分かも、と怯えながら数人で組んで下校していた。その中に赤髪の少女はいない。

半休になるまでずっとクラスにいた山本。危ないしいつものように家の近くまで送って行こうかと紗夜を探したが教室にも生徒会室にもどこにもいなかった。下駄箱に靴がなかったから今日は来ていないんだろうと納得して一人で下校した。

一時間ほど前の自分の決断は間違っていたのか。山本は血が出るほど強く拳を握る。


「なんで紗夜が人質に取られてるんだよ!! 紗夜の名前はランキングにない! マフィアとも関係ない普通の子じゃん!!」

「んなのオレが知るわけねぇだろ。ヒバリが紗夜が見当たらないって言ってたじゃねえか。それで調べたら黒曜で姿を消していることがわかっただけだ」


獄寺に支えられながら身体についたゴミもそのままでツナはリボーンを責める。リボーンは全く関係ないと分かっていても責めてしまった。やるせない怒りをマフィア関係者にぶつける。リボーンはそれでも淡々と説明していくだけだった。


リボーンが紗夜も黒曜に捕まっているのではないかと一抹の不安がよぎったのは早かった。
雲雀から紗夜がいないとの情報を聞いたその後、病院で了平が歯を5本、草壁が4本抜かれたと知った。フゥ太のランキングでカウントダウンされている。このことは誰かがランキングを手に入れたことを意味する。その誰かを調べて、イタリアでおきた集団脱獄にたどりついた。脱獄の主犯のムクロという少年と部下二人が日本に来て、隣町の黒曜中で六道骸が不良をしめて征服したことまで掴んだ。それと同時に調べていた、紗夜を見かけた最終日も分かってしまった。金曜日の放課後黒曜中に出向いて以来、誰も見ていないと。

リボーンだってなぜ紗夜が捕まっているかはわからない。ただ六道骸と一緒にいるという情報を得ただけだ。
ケンカランキングに名前は載っていない、下位の底辺に近い軟弱の紗夜を情報も何もない骸たちが捕まえるわけがない。目立つ風貌はしているがそれだけでマフィア関係者だと思えるわけがない。それに紗夜の性格から初対面の少年にボンゴレをペラペラ話すことはない。ボンゴレやマフィアを否定している紗夜が私はボンゴレですと吹聴することだってない。


「……チッ」


リボーンはボルサリーノを深く被り表情を隠して舌打ちをした。全く関係のない、これから関わらせようとしてはいるが、現段階ではマフィアに関わっていない少女を巻き込んでしまった失態。裏の世界に表の世界の少女を巻き込んだ。相手のアジトでどんな目にあっているか。情報を吐かせるためにどんな拷問を受けて苦痛を与えられているのか。リボーンは見たことがある。拷問も尋問も何もかも、情報を吐き出させるために行う残酷な手段を。だからこそ具体的な想像ができてしまうのだ。下手にボンゴレを知っている紗夜が何をされているか。浅い軽いことまでしか知らないのに、全てを知っていると思われて苦痛を与えられてる姿が思い浮かんだ。


「リボーン……」


ビアンキがリボーンを抱き上げた。

あなたは間違っていない、これから助け出せばいいの。

ビアンキの抱擁は優しかった。愛情に満ち溢れていて咎めることはない。これからみんなで乗り込んで助ければいい。早く、これ以上苦しめられる前に全員で救出に向かえばいい。


「鳴神を捕らえる目的は…………ボンゴレの情報かっ! どこであいつがボンゴレだと漏れた……? あのメガネヤローが知らなかったということは今も……」


何一つ漏らさなかったということだ。
どれだけ酷い拷問を受けても口を閉ざしていると獄寺までもが予想する。大怪我をしてもなお必死に耐える紗夜を。強く噛みすぎて獄寺の唇から血が出た。


誰も知らない。みんな勝手に予想する。紗夜は食事も与えられずに睡眠も取られずに9割の暴力と1割の飴を与えられているだろうと。

それが間違っているとは誰も考えない。


「は、早く行かないと!! 紗夜を助けなきゃ!! 紗夜はマフィアと関係ない普通の子なのに……!! 骸ってやつ…なんだよ!!」


ツナが立ち上がる。今まで腰が引けていた姿が嘘のように。

大切な友人。ツナのそばにずっといてくれた、いつも微笑んでいる友達。ツナの愚痴も嫌な顔せずに聞いてくれて、天然たちとは違ってツナの苦労もわかって共感してくれる大切な女性。

今も怖がっているのだろうか。怯えて隅で縮こまっているのだろうか。
ツナと山本だけは情報を絞り出すための拷問を予想することはできない。どうしても曖昧なマンガやテレビで見たような優しいものになる。それでも無関係の並中生の歯を抜いてツナを誘き出す集団がどれほど恐ろしいかは想像できた。


手段を選ばない相手。雲雀が倒せない相手。


ツナの身体は震えていた。これから自分は恐ろしい集団に立ち向かう。それでも、行かなければならない。千種に10代目の正体は漏れ、ツナたちが知らぬところでは紗夜も喋ってしまっていた。顔はバレていてこれから調べれば調べるほど身元は曝けられていく。友人関係も住所も何もかも。もう逃げ場はない。逃げたところで追いかけてくる。さらに被害が拡大するだけ。


「いっ、行こうみんな!」


反撃しないと。大切な人を助けるために。
恐ろしいという感情よりも優先するべきことがある。それは仲間の救出。フゥ太と紗夜を助けるために。
震える脚を叩いてツナは立ち上がった。


9代目の指令なんて関係ない。誰よりも大切で……ずっとずっとそばにいてくれた、これからも一緒の大切な人。この先もずっと笑って過ごす仲間を取り戻すために。


そんな未来はどこにも存在しないことを今はまだ知らず、立ち向かう。