甘やかな契約とその代償


「そろそろ話してくれる気にはなりましたか?」

「え……っと、何を?」

「ボンゴレファミリーについてですよ。ああ、他のマフィアについてでも構いません」


骸は笑みを絶やさない。にこやかと犯罪をする。

今私は骸に監禁……じゃなくて軟禁をされている。黒曜ヘルシーランドは自由に出歩けるが、それでも見張りがいないと歩くことすらできない。マフィアについて話すまでここに軟禁されるらしい。お願いですからトイレだけは一人で行かせてください、と頼み込んだのに首を縦には振ってくれなかった。この時だけは綱吉のことを吐いてしまおうかと思った。


「あ、服乾いた」

「黒曜の制服もお似合いですよ」

「ありがとー」


お風呂も行かせてくれない洗濯もさせてくれない。ランキングの中では唯一獄寺くんがマフィアです、と吐いてしまおうと思った。それでもなんとか頼み続けたら制服を貸してくれた。ワイシャツと下着はその間に洗った。下着つけないで誰かと接するとか難易度高くて吐いてしまおうと思った。内藤くんがマフィアだと叫んでしまいたかった。


「……向こう、むいててよ」

「逃げられたら困りますので」

「……またシミュレーションする? 逃げれるか検証する?」

「クフフ すみません揶揄いました」


昨日の土曜日、起きたら朝だった。黒曜だった。目覚めてすぐに軟禁のことを丁寧に教えてもらった。マフィアの情報を吐くまでここにいてもらう、と。最初は冗談だと思って 困るなーと笑っていたんだが骸は本気だった。お昼になっても帰らせてくれなかったので最終手段として走って逃げようとした。骸と離れたくないとか言っていた金曜日が嘘のような思いを抱いていた。二十四時間監視付きというのがちょっと無理だった。
クマに対峙した時のように目を逸らさずにそろりそろり移動した。骸はおかしそうに見守っていたので私は背中を向けて走り出した。ここだけはクマと遭遇してもやってはいけないこと。
走って逃げ出して一分もしないうちに柿本千種くんに捕まった。人間業とは思えない捕まえ方だった、けどまだマシだったらしい。夜に同じことをしたら今度は城島犬くんに捕まった。人間の動きではなかった。恐怖だった。戻った時に骸に今後は柿本くんでお願いしますと捕まる前提で頼んだほど怖かった。どちらも暴力で捕まえることはしなかったけれど。

軟禁生活二日目。金曜日合わせると三日目の午後。そろそろ笑っていられる状況ではなくなった。
身体をタオルで拭いてから並盛の制服に袖を通す。そろそろ腕章外そっかな。でもここで外したらなくしそうだからまだつけとこう。


「骸、制服ありがとう」

「いえ」


最後まで後ろを向いてくれていた。クリーニング出して返そうとしたのだが、骸たちのものではないらしいのでしなくていいそうだ。ところどころ独裁者らしい発言があるぞ?


「……明日学校なんだよね」

「そうですか」


遠回しの帰りたいアピールは通じたのか通じなかったのか。骸は微笑むだけ。
そろそろ帰らないと命の危険があるんだよね。明日学校無断欠席したら家に来そうで怖いんだよね。過去にやったことあるから想像できるんだよ。お隣さんって不便だなぁ。


「……帰っていい?」

「マフィアのことを教えてくれるならいいですよ」

「………………………」

「なぜ紗夜はそこまでマフィアを庇うんですかね」


意味がわからないと骸の目が語っている。私もわからないよ。なんで骸がそこまでマフィアを見つけたいのかを。最初は綱吉かリボーンに用がある裏の人間かと思っていた。ディーノさんのような優しい人。だけど骸は少し違う。優しいけれど、何かが違う。


「……骸は、」

「はい」

「なんでマフィアを探しているの?」


聞くのが手っ取り早い。私の質問は純粋な疑問から出た言葉だ。私を軟禁してまで探そうとするボンゴレファミリー。軟禁といっても一度もされたことないから比べれないけれどとても軽いものだと思う。ご飯も食べさせてもらえれるし自由はきくし。ただご飯がたまに強奪してきたんだな、と丸わかりなのをやめてほしい。食べれないよ。なぜ城島くんは箸を置く私を不思議そうに見つめるのか。食べれるわけねえだろ、と怖くなかったら伝えていた。怖いから言えなかった。


「そうですね……少し紗夜に話しましょうか」


ぽんぽんと骸はソファーの横を叩く。ソファーに座って初日何が起こったか覚えている私は断った。そしたら骸はすぐに手を伸ばした。私は骸と話しているし、骸に監視されている身分なので近くにいる。手を伸ばせば届く距離にはいた。


「むっ、むくろ!!」

「僕には前世の記憶があると教えましたよね」

「無視!?」


この状況を無視して語るの!?
骸に引っ張られたことで骸の胸に飛び込んでしまった。普通に座った方が密着度絶対に少ない。離れたくても骸の腕が背中に回っているし、座りたくても力が強くて抜けれない。触り方優しいくせにいつも力は強いのはなぜだ。
顔真っ赤にして声にならない不明な言葉を出す私を無視して骸は話していく。


「それはマフィアによって与えられたものなんです」


骸は平然と話す。私の心臓が破裂しそうなのはスルーだ。


「マフィアに人体実験された末に前世の記憶を持ちました」

「…………………え?」

「僕は紗夜とは違います」


骸の胸で暴れるのはいつの間にかやめていた。悲しそうに話せばいいのに、物語を語るように淡々と教えてくれる。

六道輪廻、それは仏教における六つの世界。地獄道 餓鬼道 畜生道 修羅道 人間道 天界道の六つ。輪廻という言葉はそのままの通り生まれ変わることだ。骸の身体には六道全ての冥界を廻った記憶が刻まれているらしい。幼き頃にマフィアに意思関係なく与えられた力。実験台にされてつけられた力。


「前世の記憶はありますよ。冥界を廻った記憶ですが」

「……………て、」

「犬と千種も同じです。彼らもマフィアに道具のように扱われた」

「………いだか、……てよ」

「マフィアなんてどこも同じ。人をモルモットとしか見れない。結果を出すためなら人体実験を進んでやる」

「…………やめて、……」

「あれでどれだけの人が死にましたかね」

「────やめてってば!!」


突然叫んだ私に骸は物語を中断させる。
私の様子に気がついた骸は腰に手を当てて私の体勢を変えて頭を撫でる。後ろから抱きしめられた。


「なぜ紗夜が泣くんですかねぇ?」


後ろから頭を撫でる骸。それは幼い子どもにする対応だった。

骸の話は涙が止まらなかった。平然と言いのける骸は私とは違う世界で生きてきた存在だった。前世があるという同じ存在でも私とは全然違う。訳もわからなく記憶を持って産まれてしまった私。持っていなかったのに無理やり六つの地獄を廻った記憶を植え付けられた骸。

仲間だと思っていたのに違うことにもショックだがそれだけでは流石に泣かない。
悲しかった。骸が泣きもしないで怒りもしないで平然と話してくれたことが。そしてそれを知りもしないで勝手に仲間だと思いこんでいた私のアホさに怒りを覚えた。


「……だからっ、骸は………マフィアを……」

「そうです」


言葉にしてはない。それでも骸は私が何を言いたいのかわかったらしい。

だから骸はマフィアを憎んでいるの? ボンゴレを、綱吉たちを探し出して何をしようとしているの? もしかして殺そうとしているの?

それなら尚更話せるわけがない。


「ボンゴレについて話してくれませんか?」

「っ、」

「紗夜」


名前を呼ばれる。お母さんが呼んでくれなかった名前を骸は最初からずっと呼んでくれていた。


「これは僕たちの望みのために必要なことなんです。マフィアと僕、紗夜にとってどちらの方が大切ですか?」

「っ……」


耳元で囁く骸は悪魔の囁きに近かった。もしかしたら天使の囁きかもしれない。
まだ涙が出てくる。なんとか止めようとしているが悪化した。人前で泣くのは恥ずかしいはずだったのに、いつの間にか節操なく涙をこぼしている。
返事をしない私に骸は少しだけ冷たい声で囁いた。


「……紗夜はマフィアの方が大切なんですか」

「違っ」


反射的にした返事。振り向くと骸の表情には笑みはなかった。


「じゃあ教えてください」


怒っている。いや、私に失望している?


「ボンゴレ10代目は誰ですか?」

「………………………ごめ、んなさい」


骸と綱吉どちらが大切かなんて選ばれない。だけどこの返答は私が骸より綱吉を選んだということと同じだ。
そうじゃないの。骸に綱吉を傷つけて欲しくないだけ。綱吉が傷つくところも骸が傷つけるところも見たくない。

骸が強いか弱いかわからない。だけど壁をぴょんぴょん飛び回る城島くんや音もなく移動して首根っこを掴む柿本くんのリーダーなら強いのだろう、きっと。
殴られるかもしれないと強く目を瞑って歯を力強く噛んでいると耳に入ったのは骸の独特な短い笑い。


「むくろ……?」

「それだけでもいい収穫です。ボンゴレ10代目はきみに親しい人物だ」


………………え? なんで、わかったの?
私そんなこと一言も言ってないのに。もしかしたらただ骸が人を傷つけるところを見たくないだけのチキンかもしれないだけなのに。


「もう僕も犬も千種も待てなかったんですよ」


骸は私の赤い髪に触れた。指を入れた。


「並盛生徒を襲い始めました」

「え……!?」

「ランキングフゥ太のランキングを参考にし、下位のものから順番に」


骸の言っている意味が何もわからない。
並盛生徒を襲う? 軟禁しているってこと? ここに他の生徒も連れてこられているの?
そのやり方、獄寺くんに至るまで何人の人を襲うことになるんだ。助かるの山本くんと恭弥、あとはランキング圏外の生徒。

骸は私のおでこに手を置いて力を入れた。自然と私が向くのは上となる。視界には骸の顔。


「当たりがでないんですよね。あのランキングにボンゴレ関係者はいましたか? ……………よかったです」


私は何も喋ってないのにまた勝手に納得された。それもまた正解の方で。


「帰りたいですか並盛に?」


骸は何かを手探り寄せる。首が固定していて目だけしか動かせないし、元々薄暗いからよく視えない。


「いっ!!」

「最初はこんなことする予定ではなかったんですよ。それなのに紗夜がどうしても話そうとしないから」


何か腕に痛みが走った。
確認したくても骸は首を固定したまま。


「契約は完了です。使う時が来るかはわかりませんが」


契約、なんのことか。私はハンコを押していない。
ようやく骸はおでこから手を離してくれた。痛い腕を見ると切り傷が一本入っていた。なんだこれ。首を傾げると骸が包帯を用意して消毒して巻いてくれた。


骸はもうマフィアについて聞いてくることはなくなった。けれど家には帰してくれない。全てが終わったら帰れますと骸は微笑むだけ。

全てが終わるというのはどのようなことを示すのだろうか。