言葉に傷つけ救われて


この学校は鬼畜だ。生徒を苦しめる作りになっている。
つい先日に球技大会をして土日を挟んで今日からテスト。テストといっても期末前の小テストであり期末ではない。だが成績には関係ある。それなのにテスト勉強をさせる気がない。自主的にやれってか。

そう、この学校は鬼畜なのだ。優しくない。SHRで本当に哀れだと思った。
今日は1-Aに転入生が来た。獄寺隼人というきれいな銀髪の男子。イタリアに留学していた帰国子女さんだ。きれいな顔つきをしている。美形は恭弥で見慣れているがそれでもきれいだと思った。ネックレスをジャラジャラつけた校則無視の格好。彼は指定のネクタイを支給されなかったのだろうか。正式な場じゃない時はつけなくてもいいんだが転校初日からつけてこないとは…すごい。
席は私の後ろ。うん、だって昨日まで私の後ろには机がなかったのに今日は空席があったんだから予想はしていた。


「……よろしくね」

「チッ」


綱吉の机をガッと蹴飛ばしてから後ろの席についた獄寺くん。一応礼儀として挨拶したら舌打ちされた。不良か? 不良だな。後ろに不良がいるってとても怖いんだけど。恭弥で慣れているからいいだろうとか先生たち思ってないだろうな? なあ? 担任を凝視すると目を逸らされた。やましい気持ちがあるから逸らしたんだよね。もしかして私の思っている通り?
どういう意図で配置されたかはわからないけれど、転校初日からテストをするのは可哀想。範囲とか教えてあげたほうがいいよね。獄寺くんの周りにいる男子たちは教えようとしないし……、うん。


「獄寺くん」

「なんだよ」


振り向くと睨みつけられる。怖いね。恭弥に慣れていても怖いよ。


「見てんじゃねーよ」

「………ごめんなさい」


凄みに耐えきれなくなり私は前を向く。怖い。

転校初日とか知らない。痛い目を見ればいい。転校初日から一日テスト漬けの地獄を味わえばいい。オール赤点取って期末もぼろぼろになる地獄を味わってしまえ。
私は学年一位を取るのに励むんだ。一年の期末ならまだいけるっ!

そうと決まれば復習! ノート開こっ。







昨日のテストは無事終了。意外にも後ろの席の獄寺くんからはシャーペンで文字を書いている音がした。最初の十数分で毎回終わっていたが。私より解き終わるの早かったけどまともな解答をしていたのかわからん。妨害するようなうるさい音はなかったから快適でした。

今日いくつかの教科は帰ってくる。今からは理科だ。誰から見てもわかるほど、勉強ができる人をエコ贔屓して可愛がる先生からご返却されるので少しだけ気が重い。私は言われたことはないけれど…空気が嫌なんだよね。

名簿順で呼ばれて行く。次は綱吉だ。


「あくまで仮定の話だが……クラスで唯一20点台をとって平均点をいちじるしく下げた生徒がいるとしよう。エリートコースを歩んできた私が推測するにそういう奴は学歴社会において足をひっぱるお荷物にしかならない。そんなクズに生きている意味あるのかねぇ?」


クラス最低点を取った綱吉はぐちぐちと嫌味を言われる。点数はプライバシーもなくクラス中に公開された。26点という……50点満点のテストかな? と疑いたくなる点数。たぶん綱吉は並盛の鬼畜な学校行事の典型的な被害者なのだろう。バレーは助っ人で入ったと聞いたし。会場を賑わせたと審判をしていた男子バレー部部長に聞いている。

エリートコースを歩んできたと述べる根津先生。噂では某エリート大卒出身だと。なんでエリートが並盛という平凡な中学に配属されているんだろう? 引く手あまただろうに。


「鳴神」

「は、」


私の返事は扉の音に消された。社長出勤してきた獄寺くんに。そういえば後ろの席に誰もいなかった。
大遅刻の獄寺くんに根津先生は当たり前だけど叱る。だがガンをつけられて黙らされた。獄寺くんが怖いらしい。わかるわかる。大人でも怖いよね。昨日の今日で先輩をしめ返したという噂も聞くから余計に怖い。テストが終わったからって浮かれすぎだろ。
とりあえずテストを返却してもらって……98点。うわっ凡ミスしていた。漢字間違えている。最悪。一回見直ししたけど気がつかなかった。
獄寺くんの睨みに怯えていた根津先生は返却のさいに何も言ってこなかった。席に戻ろうと通路を歩くと獄寺くんとすれ違う。一瞬目があったがそれで終わり。こちらも気にすることなく歩いた。……あれ? なんですれ違ったんだ? 獄寺くんは私の後ろだぞ?


「おはよーーございます10代目!!」


席に着くと獄寺くんらしかぬ声が。獄寺くんの声聞いたことほぼないけれど、とても声のトーンが高かった。大好きな憧れの先輩に挨拶する女子生徒に匹敵するテンションだった。
10代目と挨拶されたのは綱吉。10代目とは何だろう? 誰もそこには疑問を持たないらしく、綱吉と獄寺くんが友達なことに疑問を持っている。そこも納得の疑問だ。どこからどう見たってパシるパシられる関係だ。
根津先生が獄寺くんと綱吉を悪く言う。それが獄寺くんの癪に触ったらしく、席に戻ろうとしていた獄寺くんが方向転換して根津先生の胸ぐらを掴み上げる。どこからどう見たって不良だ。


「10代目沢田さんへの侮辱はゆるさねえ!!!」


癪に触ったのは自分への侮辱じゃなくて綱吉への侮辱について。少しだけ感動してしまった。意外な友達関係。綱吉に私以外の友達ができたことは喜ばしいことだ。ふわふわと口もとを緩めて眺めていたら当然の如く獄寺くんは校長室に呼び出しをくらい、可哀想なことに綱吉は巻き添えをくらった。可哀想だなぁと眺めていたらなぜか私までもが呼び出された。なんで? クラス中から哀れみと好奇心旺盛の視線を頂いて教室を後にすることになった。













根津先生が暴力を振るった獄寺くん、そして連帯責任で綱吉まで退学にするべきだと提案したそうだ。

うん、中学校は義務教育だね。無理だね。
というより


「あのぉーーなんで私は呼ばれたのでしょうか?」


小さく手をあげると、ですよねーー! と綱吉が顔で会話してくれる。全く関係ない私が呼び出されたのはいったいなぜ?


「生徒会長の君から見てこの二人はどうかな?」


校長先生の言葉とは思えない。この学校は生徒の処分までもが生徒会長がやるのか。怖い。

綱吉がぶんぶん首を横に振っている。退学はしたくないそうだ。その横の獄寺くんは眉間に皺を作り睨みつけている。根津先生を。


「えっと、」

「教室で見た通りだ! 鳴神も退学にするべきだとわかるだろう! お前は頭がいいのだから!」

「……たしかに暴力はダメですが……その、今回は友人を傷つけられたことで怒ったわけであって、反省文のみでいいんじゃ、」

「これだから子どもは!!」


校長先生と話していたはずなのに根津先生が割り込んでくる。私の一存でクラスメイトの今後を決めるとか怖すぎて無理。それに獄寺くんが友達のために怒ったのは本当のことなんだ。
反対意見も賛成意見も言える雰囲気ではなく苦笑すると根津先生は私を見下して、あろうことか私の自慢でもあってコンプレックスでもあるところに触れてきた。


「こんな髪を真っ赤に染めている生徒だって落ちこぼれそのものでしょう。鳴神も獄寺も並盛の評判を下げるだけです。こいつらの言うことを聞く必要はありません!!」

「っ、こっ、れは……」


続きは出なかった。昔からずっと良くも悪くも話題にされた真っ赤な髪。前世は黒髪黒目だったのに髪と目の色は変わってしまったのだ。他の作りは一緒なのに。異質な外見をしているから小学生の頃はたくさん心無い言葉をかけられた。低学年は善悪の区別がまだつかなくて思ったことをそのまま言う。

あの頃を思い出す。

心が痛くて苦しくてぎゅっと服を握りしめて俯いてしまう。


こんな私を横目で見ているものなんて知らなかった。















なぜ私が呼び出されたのかはわかったけど必要はなかった。ただ昔の傷を抉られただけ。廊下で綱吉になぜか謝罪されて庇ってくれてありがとうとお礼をされたが上手く喋れなくて変な笑い方をしてしまっただろう。


「おい」


教室に戻ろうと少し歩き出したら後ろから肩を掴まれた。


「………………………」

「な、に?」


獄寺くんだった。呼び出されても一部始終一言も話さなかった獄寺くんが私を引き止める。お前が上手く庇わなかったからタイムカプセルを掘り出す案件を押し付けられたじゃねーかという文句だろうか。
獄寺くんは無言で鋭い視線を送ってくる。不良は見慣れているが勝てはしない。目を逸らしてしまう。


「……地毛だろ、それ」


言えなかった言葉の続き。わかる人はわかってくれる。


「オレも地毛だ」

「そっ、か」

「………………………、きれいなんだから気にすんなよ」


そしてどこかに行ってしまう獄寺くん。
もしかして、励ましてくれたのだろうか。泣きそうだったことに気づかれたのだろうか。


……ないな。彼に限ってそんなこと。


私は獄寺隼人についてまだそんなに知らない。だが、なんの接点もない私を気づかうほど優しい人だとは思えない。


「……きれいなのはお互い様だよ」


真っ赤な髪は私も自分できれいだと思う。だけど異質なのだ。それは銀髪も同じ。とても綺麗だけど日本ではあまり見かけない。


気がつけば私が歩いていく方向は教室ではなく生徒会室だった。

綱吉と獄寺くんが退学にならないようにするためには15年前に埋めたタイムカプセルを見つけるしかない。15年前の卒業生のことは生徒会室にある資料に残っているだろう。どの辺に埋めたか調べよう。


そしてすぐにわかったのは15年前は例外でタイムカプセルを埋めなかったということ。根津先生の経歴を調べ直してみたら学歴詐称をしていたこと。これを校長先生に伝えて退学を取り辞めてもらわないとっ。生徒会室を飛び出た矢先にグラウンドから爆発が。ちょっと意味わからないけどそちらは恭弥がどうにかしてくれる。
早く校長室にっ。駆け込んで訳を話すと二人の退学を取りやめてもらえることになった。


……よかった……本当に、よかった。