期間限定だから優しくできる


「こくよう、へるしー、らんど?」

「はい。少し古いですが……ここでならゆっくりお話しできます」


六道さんが案内してくれたのは黒曜ヘルシーランドという建物。看板の文字が劣化して取れていたりもする。ルの右側がない。……古い、以前の問題のような気が…。今にも壊れそう。ここにランボや獄寺くんが来たら一瞬で崩壊しそうだ。
黒曜ヘルシーランドの建物含めてここ一体は黒曜センターという複合娯楽施設だったらしい。


「紗夜は昔遊びに来てたりしたのですか?」

「いえ……」

「ですよね」


台風が来て土砂崩れしてそのまま閉鎖した跡地らしい。そうだよね。黒曜ヘルシーランドにたどり着くまで見てきたアミューズメントパークはボロボロだったから。たまに血痕とか残っていて一回一回ビクビクと身体を震わせていたらそのたびに不良のケンカでついたものだと六道さんが教えてくれた。なぜ閉鎖された土地で不良が喧嘩をしているんだ。危ないのわからないの?


「足元気をつけてくださいね」

「は、っ! ……ありがとうございます」


はい、と返事しようとした矢先に転びかけた。六道さんが支えてくれたから平気だったけれども。
黒曜ヘルシーランドの中は真っ暗かと思いきやそんなことはなかった。ガラスでできた天井がところどころ割れていることもあり、太陽の光がダイレクトに入ってきている。それでも下のフロアは薄暗い。あまり良く見えない。前にいる六道さんについていくのが一番の安全な道だ。
六道さんに導かれるように階段を上っていく。たしかに静かは静かだが少し不気味だ。黒曜センターって入ってよかったのだろうか。不法侵入にならないかな? 我が家のようにどんどん進んでいく六道さん。手は握られているし荷物は持ってもらっているから立ち止まることも私の都合で去ることもできない。


「それでは、ここで話しましょうか」


たどり着いた一室。黒いカーテンはボロボロでゴミが放置されている。綿がむき出しとなっているソファーに勧められたので端っこの方にちょこんと座る。六道さんはすぐ隣に腰を下ろした。ち、近い……っ。


「並盛中の生徒会長なんですね」


六道さんは私のつけていた腕章に指を引っ掛ける。楽しそうに愉快に笑う。六道さんも特徴的な笑い方の人だ。


「……そうですね、どこから話しましょう」


腕章に触った意味はわからない。飽きたのかそれとも他の理由からか、六道さんは腕章から手をはなした。


「あの、六道さん……」

「名前で呼んでくれないんですか?」

「えっ、と……」


六道さんの名前は骸だ。名付け親はどんな気持ちでつけたのだろう。骸という意味を知らずにつけたのだろうか。
呼びづらくて六道さんと呼んでいたのだが六道さんが名前で呼んでいい、というのなら……。


「骸、さん」

「いいですよ。さんもつけなくて」

「む、くろ……」

「はい」


頭をガツンと打ちたくなった。どこの純粋な子どもだ。名前を呼ぶだけで照れるとは。
紅潮した顔をふるふると振っていると、骸は私の髪を一房つかんで顔を近づけた。


「紗夜は僕の味方をしてくれますか?」

「え……っ!? あのっ!!」

「してくれますよね?」


髪の毛に口つける骸さん……じゃなくて骸。どこのプレイボーイなんだ!? 日本人じゃないんですか!? 日本人の男でそんなことする人あんまりいませんよ!? あんまりいないだけで絶対にいないかと言われたらわからないが。そもそも骸の顔つきは日本人ではないな。


「僕はそれなりに紗夜を好いているんです」

「あ、ありがとうございます……」


好意の口付けだったのかな? やべえついていけれない。骸とまだ別れたくないとは思っていたがこんな展開になるとは思わなかった。距離を取るべきですよね。ぐっと胸を押して不快にさせないように笑みを浮かべる。
骸はなんとも思わなかったようで、一枚の紙を手繰り寄せていた。私からは何も見えない。


「雲雀恭弥という男をご存知ですか?」

「? ……はい」

「山本武は?」

「知ってます」

「獄寺隼人」

「もちろん……」


草壁哲也。笹川了平。
どんどん名前が出てくる。風紀委員だったり部長さんだったりでほとんどの人が面識ある人だった。
ほぼ全員のことを知っていた私に骸は満足げに微笑む。


「いい収穫ですね」

「収穫?」

「なんでもないですよ」


骸は見ていた紙を私にくれた。見てもいい、ということなのでひっくり返すと───


「並盛中ケンカの強さランキング?」


一位に恭弥の名前が。そこも怖かったけれど二位と三位の方が怖かった。二位が山本くんで三位が獄寺くん。……なんでっ、普通の野球少年の山本くんが獄寺くんより上なんだよ……!! 山本くんが怖い……。
ランキングに載っている名前は先程骸が挙げた人名。さらにびっくりしたのが内藤くん率いるなんとかファミリーの名はいっさいないこと。……なんだ、これ? ガセだと信じたい。少なくとも山本くんが二位という恐ろしい事実だけは無くして欲しい。


「……あれ?」

「どうしました?」

「え、っと……なんでもないです」


ランキング、と聞いて一番に出てくるのはフゥ太くんだ。この字、フゥ太くんの字に似ているような……。


「フゥ太くんと知り合いですか?」

「………………………」

「骸?」


黙り込んでしまった。どうしたのかな、と紙から顔を上げると骸は逆を向いて口もとを抑えていた。


「むく、」

「本当に嬉しいです。紗夜がランキングフゥ太とも知り合いだったとは」

「……どう、したんですか?」


ゆらりと骸の瞳が揺れた。何か、不気味で腰が引けた。
両頬に手を置かれて骸のきれいな顔と向かい合わされる。間近からイケメンの顔なんて見れるわけなく、でも顔は動かせれるわけなくて私は目玉だけを横に向ける。そこで視界に入ったのはフゥ太くんだった。


「知り合い、だったんです……ね」


黙ってじっと私たちを視界に入れているフゥ太くん。喋らない動かない。無言でずっと見つめてくる。


「む、むくろ、離れて……」


なんかとても悪いことをしている気分になった。顔がとても近い。まだ手のひらは入るけれど、近い。子どもが見ている前で何をしているのだ。教育に悪いだろう。
離れて、と骸の手を外そうとするが動く気配がない。触り方は優しいのに全く動かない。


「並盛にいるマフィアについて知っていますか? ……よかった、知っているんですね」


なんで、何も言ってないのに骸はわかったのだろう。顔に出ていたのかな? 骸の言葉は正解なのだ。マフィアの友人はいる。誰のことかはわからないけれどいる。
普通の質問ではないが、最近の私からしたら普通になってきてしまっている話題。別におかしくないけれど、何か、骸の雰囲気が……言葉にできないけれど、変わった気がする。


「その……骸も、そういう関係者なんですか?」

「そういうとはどういうことなんですかねぇ?」

「どういうって……」


マフィア関係者だという意味で聞いたんだけど。骸だってわかっているはずなのにわざわざ私に聞き返してきた。
フゥ太くんから骸に視線を戻すと、今もきれいな瞳が私を映していた。至近距離で、逃がしてくれない。下がって逃げたくても下がれない。骸のきれいな顔は心臓に悪くてぎゅっと目を瞑った。


「おや? 開けてください」

「は、はなれたら!!」

「それは残念です」


心臓がばっくばく音を鳴らす。ここまで人との距離感バグっている人は私の周りにはいなかった。いてもランボとかフゥ太くんだ。中学生になってまで手のひらの厚さしか入らない距離まで顔を近づける人はいなかった。


「ボンゴレファミリーについて教えてくれませんか?」

「っ、私はボンゴレとは無関係ですっ」

「知っていますよ。教えてください……ねぇ、紗夜」


中学生ではない色気が含まれている声。その声で私の名前を喋るな。目を開けたら終わりだと確信した。ぎゅっとさらに力強くつぶるとソファーが揺れる。私たちが座っているソファーは古くてボロボロで軋みもある。座っても立っても、それだけで音がする。
骸はソファーから立ち上がったらしい。それでも顔の距離と手が置かれていることは変わらない。


「そ、それ……セクハラです!!」

「そうですか」


イケメンに私は何をさせているのだろうか。私の足の間に片足を入れた骸。ぎしりとまたソファーの軋み音が。膝を立てたらしい。……ということは私本当に逃げれなくなった。ある程度好感度があるイケメンにはこんなことされても許してしまうから怖い。
おそるおそる目を開けたが後悔してまた閉じる。整った顔があっただけ。上機嫌な骸がいた。……スカートめくれてないよね。大丈夫だよね、きっと。スースーしていないから。


「教えてくれませんか?」

「っ、……耳元はやめて……!!」


なんで私はこんなにも翻弄されなくてはならないんだろう。ボンゴレの何かについて話せばいいだけなのに骸の色気が私を惑わせる。


「話すまで帰らせませんから」

「イケメンって罪……っ!」


イケメンだから許される言葉の数々。骸だから許される私への行為。これが同じイケメンである恭弥やディーノさんがやったら……恭弥はやったら病気かと心配するがディーノさんでも私は屈服する。イケメンって許されるからずるい。

それに、骸は、私にとって大切な、他の人と比べることができない存在だから……。


「大丈夫ですよ。紗夜には手出ししません」


骸にとって私はどんな存在なんだろう。

ほとんどの時を目を瞑って過ごしていた私に骸がどんな顔で、表情で話しかけているのかはわからなかった。

最後に目を開くと六の文字が不気味に輝いていた。