ミッドサマーの目撃者@


初の海外旅行。嬉しくも晴れた。

獄寺くんから呼び出されて殴ってわけを聞いて、とりあえずイタリアに誰か一人を押し付けないといけないらしくて。なぜ私かを尋ねたら獄寺くんも嫌だったけれど山本くんは部活があるから無理だった、と。なぜ私を行きたがらせたくなかったかはわからなかったが、ディーノさんがいると教えてもらった時は即返事していた。そんな私に渋柿を食べたようなお顔をしていた。ディーノさんと旅行とかパンクしそうだけどとても素敵なものになりそうじゃない。
パスポートはマフィアランドに誘拐された時に勝手に作られていたので問題はなし。旅行用のカバン、あまり大きいものはないんだけどどうすればいいんだろう? 何泊するかは教えてくれなかった。……必要最低限の荷物だけ持っていって足りないものがあったら現地で買おう。


長い飛行機旅を終える。初の海外の土地に足を踏み入れた。イタリアにやってきたよ。

空港からは高級車に乗せてもらった。日本とは違うイタリアの流れる街並みを眺めて着いた場所はディーノさんのお宅。ひえっ。豪華で大きすぎる屋敷に違う世界で生きている人だと改めて感じた。
荷物はいつのまにかディーノさんが持ってくれていて、用意してくれた部屋まで案内してくれた。とても広い。私の部屋が何個入るのだろう。そんなこともわからないほど広かった。落ち着かない。そわそわしてしまう。


「んじゃっ、観光行くか!」

「は、はい!」


エスコートされる。手を握られていつものように車道側を歩くのはディーノさん。
今から行くのはディーノさんのキャバッローネファミリーのシマらしい。比較的安全だから安心しろ、と白い歯をこぼしてディーノさんは私に笑いかけてくれた。んひゃあっ、とイケメンの微笑みに喉から声が出た。

歩いている時もディーノさんは町の人々から声をかけられていて、みんなから信頼されているのが初めて来た私にもわかった。マフィアというのは人々から恐れられて煙たがられるものだと思っていたんだけどそんなことないんだなあ、と色んな人に囲まれて物を頂いているディーノさんを見て少しだけ、ホントに少しだけだけどマフィアに対しての考えが変わった。












「美味しかったです」

「だろ? ここのピッツァはオレも大好きなんだ。紗夜にも喜んでもらえてよかったぜ」


満腹になったお腹をさする。美味しかった。ディーノさんはたくさん注文してくれて、ディーノさん大好きな市民の方々がお裾分けしてくれていっぱい食べた。ディーノさんの部下と間違われたり小指を立てられたりしたけれどディーノさんが一生懸命否定していた。それでもディーノさんの知り合いというだけでみんなたくさんお裾分けしてくれた。


「おーいディーノ!! これ持っててくれよ!」

「あー、ありがとな! ごめんな紗夜。ちょっと待っててくれ」


お店を出て少し歩くとディーノさんが先ほどまで食事していたお店の店主さんに呼ばれてしまった。部下の人が私とディーノさんを交互に見ていたのであちらに着いてください、という意味を込めて手のひらを向けた。部下の方は私に頭を下げてお店に戻っていった。


「好かれてるなあ……」


マフィアのイメージが変わってしまう。ディーノさんは実はマフィアのドンではなく、そこらに存在する青年ではないのか。少しお金持ちの好青年。お家が大きくて部下はたくさんいて腕と首にタトゥーが彫られているだけのイケメンではないだろうか。


「あれ? きみ……」

「え?」


イタリアに来てから初めてキャバッローネファミリー以外の人から日本語を聞いた。
相手は少しだけ驚いたように小さく口を開けている。薄い色素の髪と目にディーノさんに負けず劣らずのイケメンさん。歳もディーノさんと同じぐらいだと思う。服は黒色が基調とされていて闇に溶け込めそう。


「ディーノと親しげなジャッポーネゼがいると思ったらキミか。………うん」


男の人は満足そうに何度も頷く。上から下までジロジロと男の人は私を眺めた。


な、なんだろう……。


少し警戒して身体に力が入る。きゅっと唇を真一文字にして男の人から少し視線をずらした。


「……使えるな」


私には聞こえない声で男性は唐突もなく言葉を吐き出した。ビジネス的な含み笑いを一瞬だけしてからイケメンさんは私に優しく微笑んだ。ディーノさんと同じでこの人も女性をそこかしこで惚れさせている罪深き人だ。照れてしまう。頬が少しだけ桃色になっていることだろう。


「こんにちは。ディーノと知り合い?」

「は、はい……」

「オレ ディーノと同じ学校出身でね、ディーノとは仲がよかったんだよ」


ディーノさんの学生時代を知る人?
うわあああ! 気持ちが昂ってしまう。ディーノさん学生時代の話あまり聞かせてくれないから少し気になってたんだ。嘘。とても気になってる。


「知りたい?」

「はい……!」


見知らぬ人と話すことなんて普段はないけれど、ここの土地はディーノさんの管轄下であると聞いているし市民の方々もディーノさん大好きな普通の人たちで危険ではないから、と私は珍しく見知らぬ男性と言葉を交わそうとしていたんだ。


「あ、まだ名前名乗ってなかった。オレの名前は───」

「おいっ!!」


男の人が唇を縦に広げる、とディーノさんが慌てて男の人の肩を掴んで引っ張った。
男の人は私に聞こえない大きさの舌打ちをする。ディーノさんには聞こえていたらしく片眉が上がった。
私は急にディーノさんが怖い顔をして走ってきて同級生の肩を戒めるように強く引っ張ったので驚くだけだ。仲良しさんに対しての態度には見えなかった。


「ディーノさん?」

「お前この子に何をしようとした」


ディーノさんは私と男性の間に入ってムチを構えた。

え、えぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!?


仲良しさんじゃないの? ディーノさん、どこからどう見ても見知らぬ人に警戒しているようにしか見えないよ。ディーノさんの部下も少し離れたところ、でも絶対に視界に入るところで警戒するように男性を睨んでいた。


「見ねぇ顔だな」

「…………………ハァ」


男性は俯いてため息をついた。どんな顔をしていたのだろう。上げた時にはにこにことした先程と変わらない笑顔だった。


「仕事中?」

「……なに?」

「その子、ボンゴレファミリーだろ?」


ディーノさんの怖いひっくい声に男性は平然と言葉を並べた。疑問形で聞いてきているが私がボンゴレファミリーだと確信している言い方。ん? 私は首をかしげた。ディーノさんも同じことを思っていたらしく小声で私に囁いた。


「紗夜がボンゴレファミリーだってこいつに教えたか?」

「いえ」


ふるふると首を横に振る。ボンゴレなんて一文字も発してないし、そもそもボンゴレに所属したことは一秒だってな…………お正月とマフィアランドの時ぐらいしかないし。
私が答えるとディーノさんはムチをビシッと音を鳴らして伸ばした。


「お前……何者だ」


真剣な表情。その姿はマフィアのドンに相応しい。右手でグリップを持って左手でムチのボディを持つ。構えている姿も様になっていて雰囲気から只者ではないのが伝わってくる。恭弥とどっちが強いのだろう、ふと疑問に思う。本職相手には恭弥が負けるかな?


「ほんっとーーに」


男性はディーノさんに怯えることなく笑顔で対応していた。だけど声には怒りが含まれている。


「邪魔してんじゃねえよ────駄馬だばが」

「ん!? その言い方……まさか……!!」


笑顔でさらさらと暴言を吐いた男の人。ディーノさんは “だば” という言葉に目を見開いてムチから左手を離してしまった。その瞬間、男性はディーノさんに音なく近づいて


「オレに殺気向けるとか成長したな」


惚れそうなほどきれいな笑顔でディーノさんの胸に触れて……


「うわっ!!」

「這いつくばってろ駄馬が」


投げ飛ばしたのだった。

















「なんだよカルロかよーー……。お前見るたびに変装してるからわかんねーよ」

「へぇ」


カルロという男性は興味なさそうに相槌を打つ。

ディーノさんとカルロさんが同級生というのは本当らしい。仲良くではないが会話をする二人。掴めた情報は二人は同級生で、カルロさんはディーノさんが素顔を忘れてしまうほどいつも変装をしているそうだ。今日はノーメイクだから今目の前にいるカルロさんの顔が本当のカルロさんらしい。髪色と目の色は変えているみたいだが。駄馬と蔑称で呼ばれていることから見下されていたということもわかる。学生時代の力関係はディーノさんの方が下だったみたい。


「それより君、名前は?」

「えっと……鳴神、紗夜です」

「オッケー、紗夜ね」


ディーノさんに見せていた羽虫に対する表情はころりと変わりまた笑顔で挨拶をされた。


「オレのことはカルロって呼んでよ。これからどうぞよろしく」


いろんな意味が含まれているよろしくだった。ボンゴレとしての私に対しての挨拶だとわかり私は上手く笑えなかった。

ボンゴレファミリーというのはマフィア世界ではトップの立場だというのはリボーンから聞いている。みんなボンゴレと関係を作りたいのだろう。カルロさんもその一人だということだ。ボンゴレが味方というだけで厄介ごとをなくすことだってできるのだ。鼻を高くして歩くことができる。
私はボンゴレとはかけ離れた存在なんだけどな。表社会で生きるただの一般庶民なんだけど。……にこにこしているカルロさんには言いづらい。


「お前……紗夜がボンゴレって何で知ってんだよ」

「本人から聞いた」

「え?」


私一度もそんなこと言ったことない。嘘でも言葉にしたらリボーンに言質を取られそうだからそんなこと洗脳されても言わないぞ。
びっくりして目を丸くしているとカルロさんはふっ、と柔らかい笑みを向けた。どこかで見たような、と惚けている私に顔を近づけて───


────────チュッ


「なっ!?」


リップ音を出してほっぺに口づけをした。びっくりして飛び跳ねそうになった。


「なっ、なっ、なっ……」


舌なめずりをしたカルロさん。楽しそうに喉を鳴らして


「相変わらず無防備だな」


どこかで聞いた覚えがある言葉をくれる。どこでだ、と考える余裕はなかった。いろんな思いが爆発していた。真っ赤になりながらも口付けられた頬に触れる。


「カルロっっ!! 紗夜に何やってんだよ!!」

「挨拶」


しらっと何事もなかったようにするカルロさん。……そうか、カルロさんはし慣れているんだ。イタリア人って怖いな。カルロさんイタリア人かわからないけれど。


「おっまえ……!! 紗夜に手を出すことはボンゴレ敵に回すのと同じだぞ!!」

「うるせェな童貞が」

「はぁ!!? おま……っっ!! 紗夜の前で変なこと言うなよ!!」

「その狼狽えよう……え? マジで?」

「ちげっ………ああ!! もう!!」


なんか私がいてはいけない男子の空間になってきた気がするので「向こう行ってます」と苦笑して指をさす。ディーノさんには聞こえてなかったようだがカルロさんが手をひらひら振ってくれたので、私は男性の秘密話が終わるまで近くのお店をぶらぶらと眺めていよう。