墓標の密かな願い


肝試しをしないか? とお誘いを受けた。誘ったメンバーはみんなOKを出したとのこと。

みんなが行くなら、と頷くとリボーンはくじを引かせてくれた。そこにはFと書かれたくじが。ペア決めだそうで。

夜の9時から並盛墓地で肝試し。ペアで歩くだけ。お盆に、肝試し……。誰だろう提案者。とても恐ろしい日にちと場所で肝試しをしようと思いましたね。霊とか信じてないけど少しぞっとする。

数分後、お化け役をやりたい人が名乗り上げてきたのでルールを変えるという連絡が。驚かす側と驚かされる側に分かれるというルールに。お化け役をするための道具を持っているわけなく、私は驚かされる側を選ばさせてもらった。


それが全ての間違いだった。












日は沈み辺りは真っ暗。綱吉をランボと一緒に待つ。驚かされる側が3人しかいないので3人で回る。みんなすごいな。

震えているランボを抱きしめて待っていると綱吉が到着。なんでランボは怯えて震えて顔面蒼白なのに参加をしたのだろう。恐怖から鼻水を垂らして人さし指を咥えている。


「リボーンに説明聞いた? じゃあ行こっか」

「紗夜とペア!? くーーーっっよっしゃあ!」


綱吉は両手を上げてバンザイして喜んでいる。……それしかないじゃん。そうじゃなかったら誰か一人ぼっちで墓地を回るんだよ。
何を言っているかわからないけれどランボもいることを伝えて地面に下ろす。ガタガタと震えるランボは先ほどからずっと静かで何もない虚空を見つめている。ランボの手を綱吉のズボンに繋がせて私はランボの鼻水をふきとった。


「コースの順路はかけてある矢印に従うんだからな。ローソク一本やるぞ」


蝋燭を綱吉が受け取るとリボーンはぴょんぴょんと墓石の上をジャンプして消えた。なんと罰当たりな。
脅かし役の準備に出かけたリボーンが見えなくなったことを確認して出発しようか、と綱吉に声をかける。綱吉は私を見て嬉しそうな、ランボを見てがっかりしたような、そんなぐちゃぐちゃな顔をする。


「そういえば綱吉ってホラー苦手じゃなかった?」

「えっ!?」


怖いの暗いの嫌いだったはず。それなのになぜ参加したのだろう。不思議。私だったらみんなが参加しようが苦手なことだったら拒否するけれど。綱吉はみんなと足並みを揃えるタイプなのかな?


「えらいね」

「何が!?」


みんなに合わせるために苦手なことにも参加しようとする姿勢だよ。それじゃあ出発、とランボの隣に並ぶと綱吉はとても微妙な顔をして私を……じゃなくてランボを見つめていた。

ん? なんでだ?




 


歩いていくと獄寺くんとイーピンの驚かすコンビに出会い、そこで綱吉はようやく私たち以外はみんな驚かす側だと知ったらしい。リボーンに聞いてなかったのか。
次の刺客、京子ちゃんハルちゃんビアンキさんトリオに出会って綱吉は大声をあげて私の手を握って疾走していった。
あれは私も肝が冷えた。からかさ小僧の格好をしていた京子ちゃんとナマハゲのコスプレをしていたハルちゃん。怖さは毛ほどもなく安堵していた時にビアンキさんが現れた。皮膚は焼け爛れていて右目からはヘビが飛び出ていて。警戒を解いていたぶん本当に怖かった。魂抜けるかと思った。
引っ張られるまま綱吉の後ろを走っていたら肝試しの道から外れ、ランボを置いてきてしまっていたらしい。


「……あのさ、手繋がない?」

「うん」


綱吉はほっと息をつく。ロウソクも置いてきてしまったらしく、私の携帯のライトを頼りにして墓地を歩いていく。静かで不気味だ。
綱吉を引っ張るように歩いていく。不安なのかきょろきょろと忙しなく周りに視線を巡らしていて。私も綱吉がいるから落ち着いているように振る舞っているが一人だったら歩くこともできない。


「……墓地ってこんなに広かったっけ?」

「うーん……」


墓地なんてほとんど来ないから断言はできないけど……もう少し狭かった気がする。怖いからそんなこと口には出さないけれど。


「……元の場所に、戻って……」

「来ちゃったね」


一本道をひたすら歩いていたのになぜまた同じ人の苗字が彫られたお墓を見ているのだろう。同姓ということもありえるが並びが一度見たことある。なんだろうこれ。怖い。
これ以上歩くのも恐怖なので立ち止まると携帯の電源が切れた。充電満タンで来たんだけどなぁ。ライトをつける直前も半分以上はあったんだけど……。

真っ暗な墓地に物音が一つもない。私たち以外誰もいない。


「……こわ」

「! 大丈夫! オレがいるから!!」


綱吉がいて何かなるのか。それでも一人じゃない分マシか。怖い、と漏らした言葉にいち早く反応して声をかけてくれるし。綱吉も怖気ついたように唇が震えているけど。

怖いのは得意ではないのだ。好きか嫌いかと言われたら嫌いなのだ。
私たちが帰ってこなかったらみんな探しに来てくれるだろう。ここで待っていよう、と提案しかけると「やれやれ」と男性の声がすぐ近くから聞こえた。


「こっちだボンゴレ」

「大人ランボ〜〜〜!!」


10年後と入れ替わったバージョンのランボがいた。
珍しく牛柄の服ではない。10年後のランボは何回か見かけているがいつも牛柄の服を身につけていた。


「向こうでみんながお待ちかねだ」

「なんだあっちかー? 逆の方行ってたよ〜。よかったね紗夜。これでみんなと合流できるよ」

「あ……うん。ありがとうランボ」


綱吉はにっこにこで私の手を離してランボについていく。
……気のせいだろうか。違和感がある。


「紗夜?」

「今行くっ」


声をかけて少し早足で追いつこうとした、が違和感の正体がわかった。いつも10年後のランボは私と出会うとなぜか涙を浮かべたり抱きしめてきたりするのに今回はそれがないんだ。


「どうしたの?」


見たことのない門まで案内してくれたランボ。足を止めた私を不思議そうに綱吉が呼ぶけれど、引っかかる。
抱きしめて欲しいわけでもないけれど、……いつもと違うのは調子狂うなあ。


「っ、紗夜さん! またお会いできて光栄です……!」

「うっ……!」


そうそう、こんな感じに。私の調子は無視して苦しいほど抱きしめてくる牛柄のシャツを着た男の人。ぎゅうぎゅうと窒息させる勢いで抱きついてきてランボは涙を浮かべる。今日は時間差攻撃の日なのか。


「え!? は!? ランボが二人!?」


ギブギブと背中をペチペチ叩いていると綱吉のヘンテコ発言が。ランボが二人とはどういうことか。ランボもそう思ったらしく振り返った。私も解放されたことで綱吉の言葉の意味を知ることができた。


ふたり、いる。


ドッペルゲンガーだ。顔と声がそっくりな二人が見つめ合っていた。服と装飾品が違うだけ。いつも現れるランボは綱吉のそばにいるランボではなくて私の近くにいるランボだ。


「やれやれ…邪魔をするなボヴィーノの若いの。お前らも順番に殺してやる」


どちらがドッペルゲンガーかわからないけれど綱吉の近くにいるランボが物騒なことを口にする。リボーンに泣かされて、ある時は縮んだ獄寺くんにも泣かされていたランボが私たちを殺すとは……。どうしたらそんな言葉が出るのだろうか。私と綱吉はランボにあまり危害を加えていないんだけど。


「な、殺すって何言ってんの!?」

「死後の世界へつれてくってことだ」


うわお。綱吉サイドのランボは綱吉の手首をがっちりと握っている。拘束を外すことは難しいらしく綱吉は身動きを取れない。
呑気にランボと綱吉のやりとりを眺めていたら私の近くにいるランボが慌てて私の前に立つ。何も見えなくなった。


「っ、紗夜さん絶対にオレの後ろにいてください! あなただけは……何があってもお守りします。……オレたちは未来を───」


────変えたいんです


「え?」


ランボは最後に何かぽつりと呟いたが聞き取れなかったので聞き返したけれど、聞く余裕も答える余裕もなかったらしい。
急に焦り出した私の近くにいるランボ。睨むように相手と対峙している。

少し場所を移動して綱吉と綱吉の近くにいるランボの様子を伺うといつの間にか扉が開かれていた。
私たちの三人には恨みはないが綱吉の仲間の女に恨みがあるらしく、霊力の強まる今日 その女の人の仲間は全て死後の世界へ連れていくらしい。
女? 私ではないから……京子ちゃんかハルちゃんかビアンキさんかイーピン。誰だ? 名前を出して欲しい。


「ロメオ〜〜〜!!?」

「ご名答」


目の前の人はロメオという幽霊らしい。綱吉の知り合いで足が透けていた。
黄泉の世界へと続く扉に綱吉を引きずろうとしている。何かの演出だろうか。リボーンならやりそうだから何とも言えない。

綱吉は泣いて叫んで助けを求めている。リボーンの演出だろうがなんだろうが助けた方がいい気がして一歩足を出したらランボが慌てて私の行く道を塞ぐ。


「紗夜さんは行ってはなりません! あなたを死後の世界に行かせやしない!」

「いや……綱吉が……」


みっともないほど涙と鼻水を出している。五歳児のランボと変わらない。なぜ人前で大泣きして叫ぶことができるのか私にはわからない。もう14だよ? 綱吉はまだ13だけど普通無理じゃない?


「ラァンボォォオ!! 紗夜ーーッッ!!」

「……ほら」

「ダメですっ!! 紗夜さんは絶対に行かせはしません! お願いですから……! オレの言う通りにしてください……!」


ランボが切実に泣きながら頼んでくるものだから私はどうすればいいのかわからない。
ランボが「どうにかします」と角を頭につけて電撃角エレットゥリコ・コルナータという技を繰り出した。電撃を角から出して霊に向かって突進する。ヒットはしたが霊を気絶させることはできなくて逆に力を与えた。ロメオは足まで実体化してランボと綱吉二人を同時に黄泉行きの扉に引き摺り込もうとした。


「紗夜っ!! 助けて早く!!」

「っやめてください若きボンゴレ! それがあなたの願いでもあるのです!」

「はあ!?」

「紗夜さんお逃げください! 早く!!」

「逃げようがお前ら全員引きこんでやるよ!!」


みんなでごちゃごちゃ言ってくる。誰の言葉に従えばいいかわからないけど、私は綱吉とランボを助けたい。死ぬところなんて見たくない。手のひらで転がされた結果になってもいい。

……死ぬのは、嫌だ!!

ランボと綱吉に手を伸ばす。恭弥が新調したスタンガンはあるが霊に電気は効かない。力ずくで引っ張るしかない。


「紗夜っ!」

「紗夜さん……!」


綱吉はとても嬉しそうに、ランボは悲哀に満ちた瞳を向けてくる。10年後のランボはっ、死にたいのかっ。


「っ、つよっ」

「今すぐ離してください! 紗夜さんは生きてください…!」

「見捨てるわけには……っ」


三人とも逃げようとしているのに一人で死後の世界へ引っ張るロメオ。ランボがなぜかポロポロ涙をこぼし始めた。


「やめて、ください…紗夜さん、お願いですから……!!」


バンッと思いっきり押されて尻もちをつく。綱吉とランボ、どちらからも手を離してしまった。

痛みで目を瞑り、開くと、綱吉は何やってんのこの人、という目でランボを凝視していた。そして私を突き飛ばしたランボは、泣きながらもきれいにそれでも悲しそうに微笑んでいた。


「なんで、そんな表情を……」


するの?


その答えは聞けなかった。
ビアンキさんが快速な足取りで大声を挙げながら向かってくる。そして幽霊とランボ両方の顔面にポイズンクッキングVをぶつけた。ロメオという霊はそれで成仏する。成仏というより消されたのかもしれない。

ランボはビアンキさんのポイズンクッキングVで喋れる状態でなく、次会った時にはとぼけられてなんのことだか教えてくれなかった。