たのしいお壊しの時間だよ
七夕大会で公民館の壁を壊したことで修理費を稼ぐためにチョコバナナの屋台を出す権利をもらったツナ一同。ショバ代を用意しとけ、と親切なおじさんに教えてもらった。獄寺は裏社会に慣れているのか、驚きもせずに平常な様子でお金を用意している。山本もさほど驚いた様子はない。彼の場合持ち前の天然さで順応しているだけ。
もう隣の屋台にまで来てるみたいで、やりすぎなほどぺこぺこ頭を下げている店主。へつらって尋常じゃない冷や汗をかいている店主の声がツナたちにも聞こえてきた。隣が終わり、次はツナたちの屋台。白いワイシャツを来た男性がツナたちに顔を向けた。
「5万」
「ヒバリさんーー!!?」
驚愕することしかできなかった。並盛中の風紀委員長がなぜ並盛町の屋台にまで関わっているのか。ツナだけではなく獄寺も嫌いな奴の登場に青筋を浮かべるし、山本も若干軽く引いているようにも思える。
活動費としてお金を徴収しているという雲雀。ツナたちが中学生だけでお店を出していることには忠告も注意もない。彼にとっては5万のお金を集めれれば不正なことをしていない限り誰が何をしていようが興味はないのだ。
「払えないなら屋台をつぶす」
切れ長の瞳がツナを視界に入れる。
実際に少し離れたところでは風紀委員会が一つの屋台をつぶしていた。物理的に屋台を壊していた。渋って払わなかったものの行く末だ。雲雀のつぶす発言が本気で、同中だろうが見逃してはくれないことがわかったツナは獄寺に手提げ金庫から5万円出すようにお願いする。
「……ヒバリさん」
「なに」
「(……やっぱり……)」
ずっと気にはなっていた。ツナたちの目の前に現れた時から雲雀はいつもとは違かったのだ。超然とした雰囲気も興味を示さない表情もいつも通り、だけど違かった。
「怒ってますか…?」
「……………………それ、きみに関係ある?」
「ヒィィィィィ!! ないですっっ!!」
ツナの勘は大当たりで、雲雀は図星だった。たった数文字の言葉で血も凍ってしまうほどの冷たさをツナに浴びせた。ツナだって命が惜しい。安全な道を選び追求はしない。
雲雀はお祭りに来てから……いや、お祭りに向かう数十分前から不機嫌だった。自分でもよくわからない原因でイライラしていた。毎年同じ見回り徴収をしているが血が煮えたぎるほどのイラつきを覚えながらお祭りに参加したことはない。己をこけにする命知らずと関わったわけではないし愛する並盛を脅かす輩が出現したわけではない。たしかに最近ひったくりは多発しているが一つのグループだということはもう掴めているし、この付近にいることもわかっていて今日には捕まえれる。そのことについてもそれほど怒りはなかった。手応えのある相手だったらいいな、と少し心が躍るほどだ。雲雀の中では捕まえることはもう決定事項であるのだから。
「……ああ、きみたちといる時もよく同じことになる。きみたちが僕をおかしくしてるのかな?」
「何がですか!? こちらお金です!!」
「ほらよ。さっさと消えろ」
獄寺がお金を取り出してぐしゃりと握って雲雀の胸に押し付ける。そこからはさっさと受け取って目の前から消えろ、という気持ちがありありと伝わってきた。
ケンカ腰の獄寺となぜかピリピリしている雲雀。戦争が勃発しそうな雰囲気を感じとったツナは汗がぶわっと噴き出てきた。
「あのっ、そのっ、……獄寺くん? ヒバリさん?」
声をかけても両者相手を睨みつけていて声は届いていない。聞こえてはいるが聞いてはくれない。
「(も〜〜〜〜!! なんだよ! 獄寺くんはいつも通りだけどヒバリさんはどうしたんだよっ!! オレたちが公民館壊したことがいけなかったのか!?)」
公民館の壁を破壊したことも雲雀の耳に入れば不機嫌になることは間違いない。だが今回は違う。
雲雀はただでさえ最初から虫のいどころが悪く、獄寺は気に入らない相手の出現で機嫌が悪くなった。五秒後にはダイナマイトが爆発したりトンファーが飛び出る勢い。
「おお! 紗夜か? 浴衣すっげーー似合ってんな!」
死人が出るのではないだろうか。一触即発しているすぐ横から、空気が読めない能天気で明るい声が聞こえてくる。
「えへへ ありがとう」
そこには浴衣を身につけて髪の毛をアップにしている紗夜が山本と仲良く話していた。
「(うっわ〜〜〜〜!! 可愛いしきれい……)」
赤髪に映える白い大きな花の髪飾りに黒い浴衣。浴衣にはひらひらと桜の花びらが散りばめられている。髪の毛もシンプルだがところどころ技術を求められるまとまり方。上品だった。
ツナは喧嘩を止めることも忘れて山本と談笑している紗夜を見入る。他の何も視界に入らないし聞こえない。
「お店やってるの? お寿司じゃないんだね」
「あははっ屋台で寿司はあまり見かけねぇだろ」
「それもそうだ」
口を開けて山本と楽しそうに会話する紗夜。
獄寺も雲雀もお互い睨むのをやめていた。
「それはディーノが買ったやつだな」
「……なぜ知ってる?」
「ディーノが自慢げに写真を見せにだけオレのところに来やがってな。見せるだけ見せて渡しはせずに帰っていきやがった」
「………………………」
「紗夜顔真っ赤だぜ」
「……知らぬところで自分の写真を見られているのって恥ずかしいからねっ!!」
リボーンは事前にディーノから自慢げにいくつもの写真を見せつけられていた。この前一緒に買い物したんだ、と店員の許可をもらって紗夜が試着した服は全部写真に収めていた。それらはもちろん全て購入されている。その中には浴衣も数枚あった。可愛い妹を自慢するような、彼女を自慢するような男にリボーンはぶん殴りたかったというのがその時の心情だ。見せるだけでデータは誰にもばらまいていかないで帰っていった。
「……なんで跳ね馬と出かけてんだよ」
獄寺は眉間をおさえた。紗夜がディーノのことを好き・好きではない討論を女子としているのは知っていたが誤解を与えてしまってもおかしくない親しさ。誰も知らぬところで出会っている。
照れた紗夜はいつもあるはずの髪の毛に触れようとした。結ばれていて横に髪の毛は流れてはなく、空を掴む。
「(はねうま……)」
雲雀も獄寺の言葉を聞き逃すことなく冷たい瞳で紗夜を眼前にしていた。
「えっ、修理代稼ぎ?」
「ああ。オレが公民館の壁に穴あけちまってよーー……。獄寺とツナも手伝ってくれてんだ」
「穴?? ……よくわからないけれど大変だね。一本いくら?」
「400円。ありがとな!」
公民館の壁に山本が穴をあける。
もしこれがランボや獄寺なら爆発か、ですぐに納得できたが山本だとすぐに意味はわからない。わからないけれどチョコバナナを売ることが修理費を稼ぐことに伝わるとは理解できたので2本指を立てた。計800円を支払ってカゴ巾着に財布をしまう。
「はい、恭弥」
「…………………………」
「……恭弥?」
売り捌くことが目標だと聞いた紗夜はどうせならと雲雀の分も購入した。二つのうち一つを雲雀に出したのだが受け取らずに温度のない冷たい、出会った頃に近い目で見下ろしてきていた。まだ紗夜に興味もなく視界に入れることもなかった赤の他人同然だった雲雀恭弥がそこにはいた。
「(なんでさらに怒ってんのこいつ)」
とりあえず紗夜は薄く微笑みを浮かべる。
雲雀が黙考して選び抜いた黒色の浴衣。本は開いていたがほとんど読んでいなかった。結んだ髪の毛を華やかに見せる白い髪飾り。きれいで真新しい下駄。
これらは全て他人が与えたもの。
紗夜のことだけを考えて飾り上げたのに。
一度下から上まで視線を巡らせた雲雀は獄寺の手にあったお金を奪いとった。
「たしかに」
五万あることを確認して雲雀は歩き出す。紗夜のことを見ずに、チョコバナナを受け取らずに。
人混みが雲雀のためにさっと素早く道を開ける。この近くの残りの徴収は他の風紀委員に頼んで雲雀はどこかに行ってしまった。
「……なんだあいつは」
「普通一緒に来た相手を置いて消えますか?」と紗夜はチョコバナナを一口かじる。お祭りという華やかで煌びやかな空間に一人ぼっちにさせる雲雀の気持ちが紗夜には微塵もわからなかった。機嫌悪いなら家にいる時に置いていってほしい。
「……あのさ……ヒバリさん怒ってるよね?」
「うん。ずっと怒ってる」
やけ食いするように歯を立ててチョコバナナを咀嚼する。一本食べ終わり二本目に口つけた。
「リボーンと話したら少しは機嫌良くなるとおもったんだけどなぁ」
ツナを見つけて獄寺と山本も見つけて、リボーンも見つけた。リボーンを気に入っている雲雀ならリボーンを見れば元通りになるじゃないかと思いきや逆に悪化してしまった。なんでだろう、と紗夜は疑問を浮かべながらチョコバナナを食べきる。
「それじゃあがんばって」
放置することもできず、紗夜は屋台のゴミ袋に棒を捨てて雲雀を早足で追う。人混みの中に真っ赤な髪が入っていき、ツナたちの視界からは見えなくなった。
「……ヒバリは見てて面白いな」
「何がだ小僧?」
「んや、なんでもねーぞ」
「そっか!」
若い子どもたちの青春をリボーンはニマニマと眺めていた。フィクションのように巻き戻しも早送りもやり直しもできない少年少女の青春を。
・
・
・
・
・
恭弥がどこにもいない。世間は夏休みだからワイシャツ姿の人なんて簡単に見つかると思っていたのにどこにもいない。恭弥の性格から人が多いところ嫌いだから雑木林の方かな、と道を外れてしまったのがいけなかったんだろう。祭りの光が届かない手入れされていない場所まで来てしまった。
「いっ……」
落ちていた枝を踏んづけたらしく素足だったことで傷がつく。血は出なかったが痕はついている。
「最悪……」
まだチョコバナナしか食べていない。お腹空いたし神輿も見れないし。後は花火ぐらいしかない。私は何をしに今日お祭りに来たんだ? こんなことなら恭弥を追いかけないで綱吉たちの手伝いをしていればよかった。
歩き慣れていない下駄で歩きづらい林を歩いていたからか、指の付け根が痛い。親指と人さし指の間が擦れていた。
「もう……っ最悪……」
「じゃあこれから最高の思い出でも作ろーぜ??」
木に手をついて下駄を履き直していると後ろから声が。
誰でも同じことをすると思う。知らない声だから、と急に走って逃げ去る人は少ないだろう。私みたいに振り返る人の方が多い。
「久しぶりだなぁ紗夜ちゃんよぉ」
「…………………………」
「あっちにはツナさんもいたし……今日は本当に幸運だな」
「…………………………」
ニヤニヤとほくそ笑む金髪の人。地毛の黒が見えておりプリン頭になっていた。頬は大怪我を負っているのか、大きなガーゼが貼られている。
「怖くて声も出せないか? 何も抵抗しないなら痛いことをする気はねぇぜ?」
「………あれ?」
「ん?」
「……どちら様ですか?」
知っている人だとは思うんだけど……。誰だったかな?
私の言葉に目の前のプリン頭は豹変して腕を思いっきり振り上げた。