声にできない思いを吐いた
ランボが公園で遊んでいた。年が同じぐらいだからか、それとも気が合うのかイーピンとフゥ太くんと一緒にいる。イーピンがランボを怒りながら追いかけていて、ランボはあっかんべーとべろを出す。フゥ太くんが一番の年長者だから子ども2人の仲裁のために忙しなく走っていた。そんな三人を微笑ましく眺めていたらフゥ太くんが一番に気が付いてきらきらお目目で私の元に近づいてきた。ランキングさせて! と頼んできたフゥ太くん。そして飛びついてきたランボ。礼儀正しくても何喋っているのかわからないイーピン。
子どもたちが公園で遊んでいたのを見かけたのは数日前。
「紗夜って昨日の夕方は何していた?」
「夕方?」
綱吉に呼び止められて聞かれたこと。昨日の夕方昨日の夕方……。これは簡単に思い出せる。昨日のことだから記憶が新しいし、いつもとは少し違う過ごし方をしていたから数週間経っても覚えているだろう。だけどなぜわざわざ聞きに来たんだ?
はて? と首を傾げると綱吉は慌てて両手を左右に振った。
「いやっ! あのさ、ランボがいなくなっちゃって……紗夜なら何か知っているかなぁって思ったんだけど……」
「いなくなっちゃったの?」
「うん。昨日から帰ってこなくて……」
ランボが昨日からいない……。小さな子が一日もいないとなると大騒ぎだ。迷子誘拐遭難エトセトラ。犯罪ごとに巻き込まれている危険性だってある。
……なんで綱吉はこんなに呑気に学校に来ているんだ? 今すぐ早退してランボ探しに出かけるべきだろう!
「行くよ綱吉!」
「どこに!?」
「ランボのところ!」
「ええーー!! じゃあ紗夜が犯人!?」
腕を全力で引っ張っていたが最後の言葉に何かすんっと冷静になってしまった。
私、今、綱吉に疑われた?
誘拐犯だと疑われたの? はあ? なんで? 何をどうしたら綱吉は私を誘拐犯だと疑うの?
正直者のお口すぎる綱吉は はっと口を押さえる。私の顔はとてもとても醜くなっていたことだろう。
「いやっ、そのっ……ランボ昨日手紙で呼び出されて……オレとランボの友人に……。それで、その手紙は並盛中の二年生用の赤いラインが入ったびんせんだったから…………………ごめん!! 紗夜本気で心配していたのに!! よく考えれば紗夜は探しに行こうとしていただけでランボの元に案内しようとしていたわけじゃないよね!!」
しどろもどろに説明した綱吉はばっと頭を下げた。
何も返事をしない私に綱吉はずっと頭を下げ続ける。はあ、とため息をつくとようやく綱吉は顔を上げた。
「昨日私はディーノさんとお買い物していました」
「え!?」
「たまたま出会ったの」
ランボは見た覚えがない。昨日は学校帰りに出会った知り合いはディーノさんのみ。正確にいえばディーノさんとディーノさんの部下数人。ウィンドウショッピングしていたんだが途中からディーノさんがあれもこれも買い始めてプレゼントしてきたので恐ろしかった。金銭感覚違う人怖かったけれどとても優しいしかっこいいしスマートだし……ディーノさんと一緒にお買い物したことは忘れることがないだろう。昨日はキラキラした日だった。
アリバイ成立。ディーノさんにも確認してもらえれれば一致する。それでも怪しむなら昨日お買い物したお店教えるから店員さんに聞いてくればいい。ディーノさんの風貌を一日で忘れる女性店員さんは少ないだろうし、黒色のカードで山のように服を買ったディーノさんは一日で忘れたくても忘れられないだろう。噂で広まるレベル。居た堪れなかった。ロマーリオさんとかは笑ってくれたけれど何人かは無言でじっと見つめてきた。ボスの金を使わせやがって、という目で。……返品もさせてくれなかったし本当にどうしよう山盛りの服。クローゼットに入りきりません、と言ったらクローゼットを買ってくれた。今日届く。怖い。
「へ、へぇーー……そっ、か……ディーノさんと……」
「そう、ディーノさんと。ランボは見ていません」
これで私は無実だと証明されるだろう。ふんっ、と腕組みをして少し高らげに微笑んだ。綱吉は何か虚な瞳でぶつぶつ唱えている。友人を疑った罰だ。
「私がランボを攫って何をすると思ったのよ」
「……うん、……」
目が据わっている綱吉は今何を話しかけても答えてくれなかった。
え? そこまで外れていたことにショックだった?
私の方がショックだよ。友人に疑われていて犯人だと確信されていたんだから。綱吉はあはは、と全く気持ちがない笑みを浮かべて死んだ目をしている。目の前で手を振っても反応なし。どうしたことか。
「ランボ探しに行く?」
「……うん、……」
「早退するけど」
「……うん、……」
腹痛とか適当に言っとけばいい。一日も無断でいなくなることはランボにしては珍しいのか珍しくないのかわからないけれど、綱吉が聞き回るほどの重大さ。これがビアンキさんやフゥ太くんだったらよくあることなのでここまで心配はしないらしい。
さて、どこに探しに行こう。綱吉だって今日学校に来るまでにいろいろ探し回ったのだろう、きっと。
今の綱吉はまだショックを受けているみたいで話しかけても “うん、……” しか答えてくれない。綱吉はもしかしたら心の中では私のことを子どもを誘拐する人間として見ているのかもしれない。
私が今の綱吉みたいに顔を青くしたい。とんだショックだ。
悲しさでいっぱいだけどとりあえずランボを優先しないと。……綱吉に疑われている……っ違う違う!! 今はランボについて考える!! ……私は綱吉に………あああああ!!
頭をぶんぶん振って変な考えを追い出す。綱吉がびくっと肩を跳ねらせていた。
「……とりあえず、なんだっけ? なんで私を一番に疑ったの?」
「っ! 違うって!! 紗夜の前にロンシャンとか京子ちゃんにも聞いたから!!」
「なんだ」
京子ちゃんにも聞くということは疑って聞いたわけではない。大好きな京子ちゃんを綱吉が疑うわけがない。ただ本当にみんなに聞いてまわっているだけだ。全てを解決できた私はほっと息をついた。
「そっかぁ。京子ちゃんにも聞いているなら安心した」
「え? なんで?」
「ん? だってみんなに聞いているってことじゃない」
なんで不思議そうに聞き返してくるの? 京子ちゃんがランボを誘拐するわけないのに聞いているんだ。
「大好きな人を本気で疑わないでしょ?」
「えっ!!? ……でもさ、疑っちゃったじゃん? 本気で心配して探そうとまでしていたのに……オレってバカだよなぁ」
何やってんだこの男は。
悔やむように頭を抱えてしゃがんだ綱吉。好きな子にアピールするどころか怪しんで疑って印象悪くするなんて。
綱吉曰く、ランボは赤いラインの入った並盛びんせんを使っていて綱吉とランボの共通した友人のところに行ったと。だから全員に声をかけている。それなら後は獄寺くんと山本くんか。……というよりランボと内藤くんって友達だったの? 初めて知ったよ。
「これがその手紙でさ……」
いまだ京子ちゃんを疑ったことで落ち込んでいる綱吉。はあ、と哀愁ただよったため息を吐いて立ち上がった。「ごめん」と私に向かって謝ったが相手違うだろう。ここに京子ちゃんはいないぞ。もちろん振り返って後ろを確認したが誰もいない。
「きっと許してくれるよ」
「なんで他人事?」
「私京子ちゃんじゃないし。心優しい京子ちゃんなら許してくれると思うけど」
「え? なんでそこで京子ちゃん?」
「…………………え?」
なんか綱吉が意味わからないことを言い始めた。いつの間にか違う話をしてる? 先程まで好きな人を疑ったことに自嘲していたのに。
少し綱吉をまじまじと見つめてしまったがまあいい、と手紙にまた視線を落とす。手紙には『6時においで アメあげる』と簡潔に内容だけが書かれている。……………え?
「綱吉……これ、書いたのって……」
「それ書いた人がランボを呼び出したらしくてさ。ランボを憎んでいてうざさのあまり誘拐したかもしれないし」
「なぜその推理で疑った」
「ほんとっごめん! 絶対にないのに! ランボのこと可愛がってくれているのに!!」
憎んでうざくて攫ったという推理で京子ちゃんをなぜ容疑者にしたのか。なんで。びっくりして口が閉じなかったよ。はしたないのでお口を閉じる。
綱吉はまたなぜか私に手を合わせて謝罪する。一応振り返って後ろを確認したが京子ちゃんはいない。綱吉は京子ちゃんのこと好きすぎて京子ちゃんの幻覚でも見始めたか。怖ぇ。
綱吉の行きすぎた愛は京子ちゃんなら受け止めてくれるはず。きっと。たぶん。だといいな。私は関わらないようにしましょう。柔らかく微笑んで手紙を綱吉にも見えるように出す。
「これさ、筆跡がどうみても────むぐっっ」
「これで獄寺と山本の二人にしぼれたな」
言葉はリボーンのせいで出なかった。なんか柔らかいものを口に押し付けられた。
探偵を意識したような服を着ていたリボーン。チェック柄の茶色い服とキャップをかぶっていた。私の口元に置いたのは帽子だったらしい。
どこから現れたかを聞くのは野暮らしく、リボーンはホームズを意識した帽子を被り直してぴょんっと床に飛び降りた。
「ディーノと電話も取れて紗夜のアリバイは証明できたから次行くか」
「あっっ!! ……………………ディーノさん、と買い物……」
いつからリボーンは私と綱吉の会話を聞いていたのだろう。いなかったはずなのに会話を知っている。アリバイは立証できたのになぜか瞬きもせずにずっと私を見始めた綱吉。もう私を疑う必要ないと思うんだけど……。
「よしっじゃあ次だ、次々」
「あっ、……紗夜、その……」
「さっさといけこのダメツナが」
「いってーーー!!!」
何か言いたそうだった綱吉はリボーンに蹴られて廊下を吹っ飛んでいく。歩いていた数人の生徒が驚いて足を止めたよ。
スパルタを通り越してただのパワハラにしか見えないのだが……。何も知らない人から見れば綱吉の方が力も頭脳もリボーンより上に見えるからパワハラではないが、実際パワーバランスはリボーンの方が上なのだ。この小さい身体のどこに綱吉を蹴り飛ばすだけの力がある、と毎回考えさせられる。
うわあ……と失笑していたらリボーンが見上げてきた。
「これはツナのトレーニングなんだ。推理能力を鍛えている。マフィアのボスになるために家庭教師からのレッスンだぞ」
「……じゃあやっぱりこれハルちゃんが書いたの?」
「ああ。ハルの家に泊まったみたいだ。紗夜は観察力が優れてるな。優秀だ。ツナにも見習わせてぇ」
見習わすも何も字を見ればみんなわかるだろう。ハルちゃんの字を何回か見たことあるからわかったけれど……綱吉はわからないのかな? 私もなぜハルちゃんが二年生ようの並盛のびんせんを使ったのかはわからないけれど。
推理能力を鍛えるのとは何か違う気がするけれどリボーンに証拠品の手紙を渡す。
「鈍感な奴らの会話って成り立っているように見えて全く成り立っていないよな」
「ランボは探さないでいいぞ」とキャップの出ている部分をピンっと指で弾いたリボーンは綱吉の元に歩いていった。
「……鈍感って私のこと?」
リボーンの言い出したタイミング的には多分綱吉と私のことなのだろうが……私は鈍感ではないのでまったく違う別の件だろう。